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《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──3.温室にて

高くアーチ型になった葉の王冠、
エメラルドの天蓋、
遠い地からやって来た子供たち、
私に言って、なぜ嘆くのか

黙ったままおまえたちは枝を傾け、
風のなかへと兆しを描く、
そして苦悩の黙した証人は、
甘い香りを天へと漂わせる

切望するあこがれの中で、
おまえたちは腕を拡げて伸ばす、
そして妄想に取り付かれながらからめとる、
荒涼とした空虚という小さな恐れを

そう、私は知っている、哀れな植物よ、
私達は運命を分かち合っていることを、
光と輝きに包まれようとも、
私達の故郷はここではない!

そしてどんなに喜んで太陽が別れを告げるか、
昼のうつろな光から、
そしてほんとうの悲しみを知る人は、
自身を沈黙の暗闇の中に包み込む

静かになって、ざわざわとした動きが
暗い空間を怯えて満たす
重い雫が漂うのが私には見える
緑の葉のふちに





6/23に演奏する、
ワーグナー作曲《ヴェーゼンドンク歌曲集》。

その訳詞を、
一日一篇ずつ掲載していきます。


第3曲「温室にて」には、
「トリスタンとイゾルデのための習作」という副題が
付されています。

この「温室にて」の前奏が、
《トリスタンとイゾルデ》第三幕の前奏曲にも含まれています。

心が止まってしまったような、
寂寥感に包まれた一曲。

「温室にて」が作詩されたのは、
時系列でいうと一番最後。

マティルデとワーグナーの関係が、
煮詰まっていた頃だったのかもしれません。

マティルデも詩句に自身の苦悩を託しています。

ワーグナーもまた、
マティルデの苦悩に自身の苦しみを投影させていたのかもしれません。




ジェシー・ノーマンの演奏で。




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