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《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──5.夢

ねえ、どんなに素晴らしい夢が
私の感覚を捉えて離さないのでしょう
それゆえ空虚な泡沫ではなく
荒涼とした空虚へと消え去るのか

夢、それはいつでも
毎日美しく花開き
そして天からの報せと共に
人々を通じて穏やかに巡る

夢、それは気高い光のように
魂へと沈む
そこに永遠の像を描くために
すべての忘却、唯一の想い!

夢、それは春の太陽が
雪から出た花々に口づけする時のように
それゆえ予感もしない至福の歓びに
新しい日に挨拶をする

それゆえそれは育ち、それは花咲き、
夢見ながら香りをふりまく
お前の燃える胸に優しく
そして沈む 墓へと




6/23に演奏する、
ワーグナー作曲《ヴェーゼンドンク歌曲集》。

その訳詞を、
一日一篇ずつ掲載してきました。

最後の曲、第5曲「夢」。

第3曲「温室にて」と同じく、
「トリスタンとイゾルデのための習作」
という副題が付されています。

「夢」の前奏と後奏は、
《トリスタンとイゾルデ》第二幕の
夜の対話の場面にも使われました。

ワーグナーはのちに自身の書簡において、
「《トリスタンとイゾルデ》の第二幕よりも美しい」
と「夢」について評しています。

《トリスタンとイゾルデ》においては、
「夜」と対比され、忌むべき存在とされた「昼」。

けれど、「夢」においてマティルデは、
太陽の口づけなどの詩句からもわかるように、
非常にポジティブに「昼」を捉えています。

「夢」が制作されたのは、
第1曲「天使」に続き、時系列では2番目。

最後に制作された「温室にて」から振り返ると、
ふたりの愛情の交流が健やかであった頃ではないかと
推察しています。

特別な恋の思い出として、
ワーグナーは歌曲集の最後に「夢」を配置したのかもしれませんね。




演奏は、ジェシー・ノーマンです。




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