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乙武さん義足プロジェクトがやばいという話

一昨日と昨日の「中田敦彦のYouTube大学」に乙武洋匡さんが出ていらしたので、2日連続で拝見しました(これを書いたのは12月3日…)。いつもの内容から「いきなり乙武さん?」という印象だったのですが、めちゃくちゃ有益授業だったのでみなさんに紹介できればと思いました。すごいこのプロジェクト。

乙武義足プロジェクト(OTOTAKE PROJECT)とは

そのプロジェクト名の通り、乙武さんが義足であるけるようになることを目指した義足開発プロジェクト。義足デザイン・開発で有名な遠藤謙さんを中心に動いているイケてるプロジェクトです。もともと遠藤謙さんはソニーコンピュータサイエンス研究所に所属もありつつ、Xiborgの代表として、競技用の義足などの開発をしている方です。前提としてむっちゃかっこいいというかもはや美しいの域の義足を見よ。

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写真は https://www.projectdesign.jp/201805/tokyo-2020/004865.php より引用

そして、2018年に始まった乙武さん義足プロジェクト。乙武さんが仁王立ちをする写真を見て、多くの人が衝撃を受けたと思います。「乙武さんに足がある!?どういうこと!?!?!?」と思った人は多いハズ。いかに私たちが乙武さん=足がないという印象がこびりついていたかを痛感させられました。(いや少なくとも私は完全にそうだった)

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まさにこの当初の五体不満足の書籍が乙武さんデフォ。ここに足がつくなんて失礼ながら想像してなかったんだな。本当に視野狭い。

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そして、同時に、この仁王立ち写真のインパクトだけをひろって、私はこの義足プロジェクトについて誤解していたように思います。乙武さんに足が生えた!すげえ!で思考停止してしまった人、結構いるのではないでしょうか。私とおなじ脳みその人集まれ。

乙武さんに足はえて彼が仁王立ちをすることがすごいのではない。人間の身体の秘密、義足イメージの拡張が秘められていました。

教えてくれてありがとう、中田敦彦のYouTube大学…(いつも見てます)


膝を「自分のモノ」にするのは想像以上に難しい

今回の義足は「膝」を開発してあることに特徴があるのだそうです。人間の膝をモーターで再現したものなんだとか。一方乙武さんは膝がない方ですが、そもそも義足って、膝のない人が、膝の機能を機械で補うことが難しかったのだそうです。

かつ、軽量化を図るまでは1本(1脚?)5kgほどの重さだったそうで、両足だと10kg…とにかく重い。となると太ももの筋力が必要だった。そこで、車椅子をマンションの部屋において1階にエレベーターでおりたあと、マンションの非常階段(30階)を登るみたいなトレーニングをして、太ももを鍛えていたそうです。もはやアスリート。

加えて、このプロジェクトには理学療法士さんが入っているそうなのですが、そこで歩くときは上半身、胴体の動きが大事、ひねりを意識することとアドバイスを貰っているそう。

乙武さんはこれまでの生活で「上半身をひねる必要がなかった」ので、私たちには当たり前の動きに対して、新しい動きを獲得しようとしている状態ということがわかります。

また、乙武さんは実際に小さいときから電動車いすで生活をしていたこともあり「座る」という体の形がデフォルトになっている。つまり体がL字になっているということらしい。だからこそ、腰が起き上がる「立つ」ということになかなかなれず、転けそうになる場面も。

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乙武さんにある「三重苦」こそ示唆に富む

そして、このプロジェクトにおける乙武さんの三重苦の話がめっちゃ面白いです。

①膝がない
歩行に大きな影響がある(上記に書いたこと)。膝における歩行のポジションが強すぎる。

②手がない
手って実は体のバランスをとる役割なんですって。サーカスの綱渡りの棒がバランスをとってくれるのと同じように。一方乙武さんにはそのバランスを取る役目になる手がないんですよね。手がこんなに歩くのに重要な立ち位置だと思わなくないですか。

そしてもう1つ大事なことは、転んだときに地面につく手がないこと。なので義足を履くから万々歳なわけでなく、コケたら大怪我につながるかもしれない。いつも足が絡まる私、手に感謝して今日は寝たい。

③歩いた経験がない
何より大事なのは「経験がない」ということ。話によると、中途で足がなくなったひとは、過去の歩いた感覚記憶に頼ることができるのだけど、乙武さんはないからこそ、歩くということがどういうことなのかが体で理解できてないわけですよね。

めちゃ身体の不思議すぎる。こんなに他の体は一緒(なはず)なのに、乙武さんには私(たち)が知っている身体ではない身体がやどりすぎている

こうみていくと単なる義足の開発プロジェクトじゃないことがわかりませんか。だからこそ遠藤さんは乙武さんをこのプロジェクトに巻き込むことにこだわったのだろうと思います。乙武さんじゃないとこのプロジェクトは成立しないのです。


秀逸な参加型デザイン設計

乙武さんの仁王立ちインパクト、そして足における膝の重要性、乙武さんだからこそ成立するプロジェクト、という観点をさらいながら、実はこのプロジェクトって、プロジェクト自体がよく設計されているのではないか…と、YouTube大学を視聴し、関連した記事を読みながら思いました。それを最後に書いて終わりたいと思います。

上記で書いたように、理学療法士さんなど、リハビリなどの体の専門家、義足デザイナー、示唆にとむリードユーザー乙武さんというスーパーチームで動いています。羨ましい。(リードユーザーとは、気づきを導くユーザーを意味しています。Lead:導く)

でも、乙武さんって普通に考えたらこのプロジェクトに積極的に関わる理由がなかったはずなんです。なぜなら彼自身に今義足が欲しかったわけじゃないから。この観点はめちゃくちゃ重要で、普通ならこんな積極的に巻き込まれたいわけじゃないわけです。

実際に動画の中でも「3ヶ月に1度くらいのペースで、モニターみたいな感じかなと思っていた」と話しています。忙しかったというのもあるでしょうけど、そもそも必要ないと思うしそう言いたくもなるわなと思いました。

いろいろあったあと、乙武さんは海外放浪の旅をされていましたが、それを終えたタイミングでこのプロジェクトに巻き込まれ始めます。しかし巻き込まれ方が尋常じゃなく。旅が終えたら、家に平行棒を入れられたそうです。家の中で平行棒入れるってめっちゃ図々しいwプロジェクトの本気度が伝わります。

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インクルーシブデザイン的には、まさに日常から観察しふとした気付きこそ宝、という側面があるので、生活者に介入するって建前でないデータを集めることができます。今すぐ義足が必要ないはずなのに、それを許した乙武さんすごくない?

また、「立つ」ということすらできてなかった乙武さんに、いきなりあの膝つきの義足をつけるのは困難でした。だからこそ、まずは太ももの先に足首がある、みたいな、見た目短足状態になる義足から、立つことのトレーニングを始めています。

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(いやちょっとこの写真可愛すぎでしょw)

でもこれって、そもそもプロトタイプとしてもよくできていて、義足をつけて歩くということはどういうことなのかを絶対に観察してデータとってるはずなんですよね。太ももの動きがどうなっているのか、力の入れ方はどうか、とか、絶対重要になる。

だって、いきなり立てもしない義足をつけて、わかることなんて少ないはずなんです。だったら少しのところから始められるもので、リードユーザー(乙武さん)を観察し、そこからプロダクトをアップデートしてくわけです。超理想的なインクルーシブデザイン的プロセス。

その後膝つき義足をつけていき難易度が高まったみたいですが、このプロセスのおかげで乙武さんも立つことに慣れができてきていると思うので、いきなり膝つき義足をつけるよりも観察する観点も、プロジェクトチーム内に増えているはずです。

それに、義足に慣れている人から声をきくよりも、多分「義足についてわからない観点」が乙武さんにはたくさんあるはずなので、義足ユーザーよりも高度なデータが集まっていると思います。

そしてもちろん、理学療法士さんとか、しっかり身体のことが分かる人がいることで、義足に慣れてない乙武さんにサポートをするだけでなく、データの解釈の幅も広がっていると思います。

こういうプロジェクトは、デザイナー独り歩きプロジェクトになったり、障害のあるユーザーの声が強すぎたり、アンバランスになりがちです。インクルーシブデザインの難しさでもあります。だけど、OTOTAKE PROJECTは単なるデザイナー独り歩きでもなく、乙武さんがモニター的に関わるでもなく、他の専門家も巻き込む共創の中で生み出していることがわかるプロジェクトになってます。


義足がもたらす"サイボーグ"の未来

下記の記事で、遠藤さんがこんなことを言っています。


「あれはテクノロジーが詰め込める余白だと思っています」




そしてこのインパクトある発言。

「皆さんが乙武さんのプロジェクトを見て“感動した”と言ってくれるが、僕が作っている義足をどのように発信すれば世の中の人に見てくれるのかと考えた時に、乙武さんが歩くのが最もインパクトがあると思った。いずれ自分の足を上回るようなものができたら、足を切ってでも履きたいと思えるのではないかと、この技術に期待している。あるいは僕はドローンで飛べないが、体重の軽い乙武さんは飛べると思う。色んなエンジニアがそういうことを虎視眈々と狙っていると思う」

自分の足ではなくて義足を選ぶ時代、というと極端かもしれないけど、もし足の機能が停止して、「生足のリハビリの成果はわかりませんが、この機能停止した足を切除して、その代わりに義足にすると、リハビリ期間は3ヶ月の見込みです。できることは増えると思います」と言われたら、義足を選択する人が増える可能性がある。という時代が来る可能性があるんだなあとか想像しました。

アンパンマンが顔を変えるみたいなカジュアルさが、少なくとも足には宿るかもしれないのかと思うとすごい未来を描いているなと(アンパンマンはカジュアルすぎなのかもしれないけどw)


義足は足の不自由な人の「補助具」のイメージが多くの人にあると思います。たしかにその側面は間違いないのですが、この新しい足こそ、義足を超えた、人間拡張機能になる可能性があるということを示しているように思いました。

開発者としてそういう発想がある遠藤さんだからこそ、義足は単なる補助具ではなく再定義がされている。

はー単なる義足プロジェクトじゃなかったーと本当に衝撃でした。衝撃がすごくて長くなってしまいました。

今後の動き気になります…研究費で動いていることもあって、いろいろと外に出せないのかもしれないけど、いろいろもっと発信してほしいなと思います。今後も勝手にプロジェクトの動向を追ってゆきたいです。追わせてくれ!


ちなみに、12月3日は国際障害者デー。これは意図したタイミングなのかなと思うくらいのタイミングなのでまとめてみました。大変勉強になりました。「障害者デー」が示す「障害」がどんどん狭くなってなくなる未来もそのうちくるかもしれませんね。
(国際障害者デーってなんで12月3日なの?とうちのメンバーに聞かれたのですが、その話はまたいつかできればと)

😍おしまい😍

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▼乙武さんのnoteはこちら。

▼下記2部に分かれてますがよかったらこちらの動画をご覧ください。


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