干支シリーズ(2008年/スポーツ)

思い出すのも、面白い。
忘れているのも、面白い。
呆れるのも、面白い。

NHK-FM「青春アドベンチャー」で、毎年一年の最後に放送していた通称「干支シリーズ」。1993年から2009年までの17年間を書きました。その残っている原稿データからランダムに紹介しています。

ここにUPするために元原稿データを読んでいると、
「これ、何の話だ?」
と最初はなんだかわからず、途中のキーワードで、
「そういえばこんなことがあったような……なんだっけ?」
としだいに思い出す感覚が、面白い。
あるいは、読み終わったあとで、
「こんなことあったっけ?」
とすっかり忘れているのも、面白い。
自分の原稿ながら、
「なんだこの話、くだらねぇ~~」
と呆れるのも、面白い。
仕込んだ酒を、年月の作用が熟成させるケースもあれば、すっかり腐らせてしまうケースもあるということ。色々あるのが面白い。

今回は「2008年」。ジャンルは「スポーツ」。
「オープニングの導入部分」と「コント部分3本」と最後の「銀河連邦への報告書」だけを抜き出します。
2008年の干支「ネズミ」役は男性、翌年の干支「ウシ」役は女性でした。誰が演じていたかは、最後に記載します。

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【2008年のOP】
SE  チュウチュウ!

ネズミ 私はネズミだ。今年一年、ネズミの姿でこの国を監視してきた。
ウシ 「故きをたずねて新しきを知る」!
ネズミ な、なんだ、突然?
ウシ 名言でしょ?
ネズミ ああ。「温故知新」だよね、名言だ。
ウシ 「義を見てせざるは勇なきなり」! これも有名でしょ?
ネズミ 有名だね。名言だ。
ウシ  「巧言令色鮮し仁」!
ネズミ それも聞いたことあるんだけど、意味はどういうんだっけ?
ウシ  意味? 意味は……、あれよ。まず「巧言」が「令色」でしょ? でもって、「少なし」なんだから、その後に続くのは、誰がなんといっても「仁」に決まってるじゃない。だから、「巧言令色鮮し仁」。
ネズミ きみは、わかって言ってるのか?
ウシ  あ、当たり前よ。だって、ぜ~んぶ、私の子どもが言った名言だもの。
ネズミ へえ、きみに子どもがいたとは知らなかった。なんて名前?
ウシ  私は牛よ。私の子どもなんだから、「子牛」に決まってるじゃない。
ネズミ それは、子のたまわく…の「孔子」だろ!

SE  モー!

TM CI~BG

N  [タイトル・クレジット]

   ~FO

SE  SF的コンピュータ音~BG

ネズミ この星の文明を監視するため、私たちは銀河連邦から、毎年交代で派遣されている。
ウシ  で、私が来年それをやんなきゃいけないんだけど…
ネズミ だけど?
ウシ  いま迷ってるのよね。こんな銀河の辺境の星を見守る仕事、ずっと続けてていいのかしらって?
ネズミ 他に何かあてがあるのかい?
ウシ  あるのよ、それが。とってもいい人がいてね、「お嬢さん、もっと楽チンで収入のいい仕事がありますよ」な~んて声かけてくれてるの。
ネズミ へえ。その仕事の内容は?
ウシ  内容はよくわかんないんだけど、その人、イケメンで、身なりもよくって、弁舌さわやかで。すっごくいい条件を提示してくれてるのよ。
ネズミ そういうのを、言うんだよ。
ウシ  なんて?
ネズミ 「巧言令色鮮し仁」
ウシ  あ、そういう使い方するのか。
ネズミ じゃ、きみの転職の話はひとまず置いといて。今日は、今年のスポーツ界について、レクチャーしておこう。

SE  ワープ音

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【2008年のスポーツ①】
ウシ  くんくん…。
ネズミ ん? どうした?
ウシ  くんくん…。かすかに香る、ジャスミン茶の匂い。ここはどこ?
ネズミ 今年、中国・北京でオリンピックがあったんだ。実は、その関係者が、ここで秘密の会合を開いているんだ。

SE 分厚いドア、ノック

委員1(OFF) 合言葉だ。「朋有り遠方より来る」
ネズミ 「また楽しからずや」
委員1(OFF) OK。入ってよし。

SE ドア、ギギーと開く

長老  ようこそ、いらっしゃいました。
ネズミ 長老、北京オリンピック盛り上がりましたね。大成功、おめでとうございます。
長老  謝謝。
委員1 ありがとうございます。
委員2 おかげさまです。
長老  ちょうどいま、その反省会を開いているところです。
ウシ  あれっ? オリンピックは成功したんでしょ? なんで反省会を開かなきゃいけないの?
委員1 競技そのものに問題はなかったんです。
委員2 我々が反省すべきは、開会式です。
ウシ  開会式がうまくいかなかった?
長老  いえ。それは豪華に、うまくいきました。

M  (北京五輪テーマ曲)~BG

長老  開会式の様子は世界中の人がテレビで見ます。ですから、わが国の威信をかけた一大セレモニーなのです。
委員1 9万人収容のスタジアムに、アトラクションの出演者が、次から次に登場。とっかえひっかえ、タイコを打ったり、体操したり、踊ったり。
委員2 しかも、女性はすべて容姿端麗。男性はすべて筋骨隆々。選びに選ばれた出演者の総数が、2万人!
ウシ  2万人も!?
委員1 その他に警備員が2万人、ボランティアが2万人。そしてもちろん、出場選手団が1万人。
委員2 かかった時間が、えんえん5時間。
ウシ  5時間も!
長老  ちょっと、地味でしたかね?
ウシ  ええっ?
ネズミ とまぁ、さすが13億の人口を抱え、五千年の歴史を持ち、白髪三千丈の国だと圧倒される演出だったんだ。
長老  自分たちで言うのもなんですが、完璧な演出でした。
委員1 そう、完璧でした。
ウシ  そこがわかんないのよ。完璧だったら、なんで反省会を開かなきゃいけないの?
長老  完璧、すぎたのです。

M   (二胡かなにかの中国曲)~BG

長老  当日、北京の街の中を、競技場に向かってしだいに花火が近づいてくる様子を、テレビ中継で見せました。
委員1 仕掛け花火を巨人の足跡に見立てて、見えない巨人が歩いてくるという演出です。
ウシ  カッコいいじゃない!
ネズミ ところがこの花火、実際にはあがってなかった。テレビ画面上のCG合成だったんだ。
委員2 花火は、ひょっとしたら失敗するかもしれない。世界中の人に完璧な映像を見てもらいたく、よかれと思ってしたことなんです。
長老  でも、世界の人にあまり評判がよくなかった。
ウシ  たしかに、それを知ってしまうとちょっと興ざめするわね。
長老  そして、9歳の可愛い女の子が歌う歌。
ネズミ ところが、この歌、実際には口パクだったんだ。
ウシ  そんな大観衆の前で小さな子どもが歌うのは、緊張するものね。事前に録音しとくのも、しょうがないんじゃない?
ネズミ そう。本人の声なら、ね。
ウシ  え? 違うの?
ネズミ まったく別の女の子が歌った歌の、口パクだ。
ウシ  どうしてその子が出なかったの?
委員1 完璧な歌声の子と、
委員2 完璧なルックスの子とをあわせ、
委員1 よかれと思ってしたことなんです。
長老  でも、世界の人にかなり評判がよくなかった。
ウシ  う~ん、それはちょっとねぇ……。
長老  というわけで、反省会を開いているのです。
ウシ  なるほど。
ネズミ 長老、なんでああいうことをしたんです?
長老  いまや中国は世界の工場と呼ばれている。でも、それは安い労働力、単純作業、下請け産業…というイメージです。そうではなく、わが国はCGとか、コンピュータとかの、凄いハイテク技術だってあるんだ、ということを示したかったのです。
でも、今回の件で学びました。必ずしも、完璧がいいとは限らない。少々不出来でも、人間臭いほうが喜ばれる場合もあると。
ネズミ そういうことなんですよ。
委員1 でも、長老、あれがバレなくてよかったですね。
委員2 口パクだけであのバッシングですから、あれがバレたら、ひどく叩かれたことでしょう。
長老  しーっ!
ウシ  な、なに? もっとあるの?
ネズミ 聞き捨てならないですね。なにをやってたんですか?
長老  実は…、口パクで歌ったあの女の子そのものもCG合成。一糸乱れず踊った数千人の美女軍団はロボットだったんです。
委員1 ふぅ、バレなくてよかった。
委員2 うん、よかった。
ネズミ そんな凄い技術があるんなら、
ネズミ&ウシ そっちをアピールしなさいっ!

M コーダ

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【2008年のスポーツ②】 
ネズミ じゃ、引き続き、そのオリンピックで生まれたヒーローについてのニュースを、伝えておこう。

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