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父がサンタになってた頃

我が家は、私と妹の二人姉妹で、妹は私より5歳下です。
私達姉妹は、順調にサンタクロースを信じて大きくなっていき、年齢的に当然といえば当然、私のほうが先にサンタクロースは居ないという事実に突き当たりました。その時、私は小学6年生でした。(遅っ)
サンタクロースは父と母なのだと知って、それからはクリスマスもそれほど楽しみではなくなったのですが、実は父と母は、信じ続けていた私達姉妹のために密かにずっと、とあるミッションを実行に移していたのでした。

クリスマスの夜、私達が寝入ったことを見計らい、母は暗くした部屋で(私達が起きてきてその姿を発見しないように)サンタのコスチュームを父に着せ、付け髭付け眉毛をつけさせ、父をサンタクロースに仕立てあげて、すっかりサンタクロースになった父はプレゼントの入った袋を持って静かに私達の部屋へ入り、プレゼントをそっと置いて出ていくというミッションを、毎年私達の知らない寝ている間に遂行していた、と。
サンタクロースを信じている妹の不在時に母から、実はね…と打ち明けられました。
いやなにやってんだと。思いましたよね。面白夫婦か。

私も、夜早く寝る年齢ではなくなっており、小学6年生の年からはそうやって父がサンタとして来ると知り、その年のクリスマスはハラハラしながらベッドの中で眠れず待ち構えていました。私が部屋の電気を消さないと父はいつまでも待っていなきゃいけないんでしょ?ハイハイ知ってる、という訳知り顔で。
妹と私の部屋は、アコーディオンカーテンで仕切られており、音が筒抜けだったので、寝入ったふりをしてからしばらくすると、暗闇の中、父サンタがそーっと妹の部屋に入った音がギギギ…と聞こえてきました。ギシッ、ギシッ…。きた、きたぞ…。と。こっちもドキドキしてきます。あんまりドキドキするもんだから、はやくこい、はやくこいって念じてました。
大きなくつ下の形をした袋を毎年私達はベッドに掛けて、毎年サンタクロースはその中に小さなお菓子や飴などを入れてくれます。
その年も例に漏れなかったのですが、不器用な父はくつ下にお菓子を入れるのに入れ損ね、思い切り妹の部屋でお菓子を床にぶちまけ、ガッサアーー!!と音を立て、私は内心叫び声をあげてました…ヒィーー!なにやってんの!?と。
そしてガサガサ慌ててお菓子を拾う父サンタ。
コントやってんの?ねえ。
私の心臓バクバク。
おねがいほんとはやくして。
父がなんとかミッションクリアし妹の部屋から出て、私の部屋へ侵入して来た頃には、もういっそガバァッと起きて驚かせてやろうかと思うくらい心臓が早鐘のように鳴っていました。
父サンタが私の枕元でガサゴソやってる間、私は寝たふりを、というか妹の部屋に父がくる前から私は息を潜めてピクリともしないであげてるわけです。父がびっくりしちゃうと可哀想だから。
なーのに!あろうことか!!まーーた私のくつ下の袋にお菓子を!入れ損ね!!ガッサアーー!いうてるーー!!もーーはやく出てってくれなーーい!?
わたわたとお菓子を拾い、父、なんとか私の部屋のミッションもクリア。
そして扉を閉める音と、廊下を歩いていく足音。

ふぅーーーーっ………とため息一つ。こっちがしんどい。
プレゼントは、入手したけど。お菓子は、その年もサンタ設定が壊れない海外のものがたんまり詰め込まれていて。これに…これに翻弄されたのよ…と、いつもと違う気持ちでお菓子を見つめました。
知っていながら知らんふりするのも楽じゃない。いや父は私が知ってることは知ってるはずだけど、私が寝ていない可能性には多分気づかない、そういう人なので。そして私が父をびっくりさせてしまったら、妹も起きてしまうようななかなかアウトな展開にならないとも限らないので。

そうやって、その年から妹以外みんながミッションを抱えるようなクリスマスになりました。

それから何年か経ち、妹がサンタクロースはいないということを知った年のクリスマスは、サンタクロースコスをした父と私と妹の3人で記念撮影をしました。
母が、「暗い中でお父さんを着替えさせてる時ね、一瞬ちょっと怖いのよ知らない人がいるみたいで」って言ってた気持ちが分かるくらい、父はがっつりしっかりサンタクロースになっていました。
夢を壊さないように必死な両親、本当に面白…いや、ここは感謝の言葉を述べようと思ったのに正直なセリフ出てきちゃった、いやあ、ほんとありがたいよなって思います。

私達が大人になった今では、家族全員家にいてもクリスマスのクの字もないのは、やはり子供の頃にやり尽くした感があるからなのではなかろうか、と思わなくもないです。
たまに思い出したかのように、母がクリスマスだからと言ってパエリアを作るのですが、なぜパエリアなのか私にはちょっとよくわかりません。




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