2022年は日本でのファン広告元年かもしれない
□ファンが枠を買って素材を作るファン(応援)広告
特に正式名称は定まっておらず、応援広告、誕生日広告、とも言います。(韓国語で誕生日のことを「センイル」と呼び、応援広告は誕生日を祝うために出すことが多いので「センイル広告」とも呼ばれます)
カフェや街中の広告、果ては雑誌広告やテレビCMまで俳優やアイドルのファンがお金を出し合って出稿する広告で、K-POPではメジャーな行為で、NYのタイムズスクエアやドバイのブルジュ・ハリファなどでに出稿され有名になりました。
家庭や本業があるなか気ままなファンダムをとりまとめ、企業と交渉し、金銭管理をする。気が遠くなるような工程をこれらをすべて愛するアーティストのために乗り越え、道を切り開き、自ら宣伝を行う世界中のファンダム。「好き」の無限の力を力強く感じる行為です。
これが今年、昨年までと比べて日本でかなり盛り上がったように感じたのです。
※私が見ているのはBTSが中心ですが、それでも今年はひとあじ違うなと感じたのでメモとして残しておきます。別ジャンルではもっと事例や歴史があるかもしれません。ぜひご存じの方は教えてください。
□2022年、日本の代理店が正式サービスを開始
これらの広告、当然日本でも以前から注目されており、マスコミにおいても試行錯誤があったのですが、今年大手広告代理店2社から正式にパッケージが発表されました。
これらの商品はファン広告最大の課題である「事務所確認」を代理店がやってくれるところに特徴があります。
・jeki(ジェイアール東日本企画)「Cheering AD」
2022年1月13日開始
jekiのご担当者のインタビューがこちらにあり、2020年から社内提案していたが2022年にようやく開始できたとあります。
日本全国の鉄道駅を中心に、どこの枠でも確認すると書いてあります。デジタルサイネージや駅のポスターが中心ですが、TVerのインストリーム広告(動画広告)もできるんだそうです。すごい。実際にJO1や俳優、アニメのファンダムからの実績が掲載されています。
・東急エージェンシー×READY FOR「FUN FLAG」
2022年10月4日開始
こちらはクラウドファンディングの仕組みを使って資金を集め、東急エージェンシーが事務所折衝と掲載面の提供を行うものです。NiZIUや俳優などのお誕生日を祝う広告が資金目標を達成していることが見えます。
これと似た仕組みは2020年にクラウドファンディング国内大手のCAMPFIREが提供開始した「AD for all」(https://camp-fire.jp/adforall)があります。
主な国内事例としては2016年ごろから新聞各社がクラウドファンディングで試行錯誤した事例や、2019年にオーディション番組PRODUCE 101 JAPANの過程で実施された駅貼り広告などがありました。
朝日新聞が2016年に「A-port」を通じて行ったSMAP解散時の応援広告、産経新聞が2018年に行った自社クラウドファンディングプラットフォーム「White Canvas」を用いて行った滝沢秀明引退へのありがとう広告。これらはいずれも写真が使えないため文字のみでの掲載となりました。嵐の2020年の活動停止後にも感謝を伝える新聞広告のA-portでの募集が行われましたが、事務所が非公認だと警告を出す、価格が不明瞭なまま目標金額未達成のまま実施されたなど若干後味の悪いものに。一方、2020年の乃木坂46の白石麻衣卒業記念の件では写真がふんだんに使われていました。
2019年のPRODUCE 101 JAPANの事例はこちらの記事に詳しいです。
□アーティスト側の対応
PRODUCE 101 JAPANは前述の通り日本で行われた男性アイドルグループのオーディション番組で、韓国CJエンターテインメントと吉本興業が主体でした。結果としては引き続き2社出資の事務所に所属して活動するグループ「JO1」と「INI」が存在し、彼らにはファン広告の素材提供があります。インターネット上でファン向けに写真素材があらかじめ公開されているのです。
https://jo1.jp/news/detail/2217
とされています。これは推測ですが、1件1件審査していると数が稼げないので、あえてその枷をはずしているのかもしれません。
また、2021年にデビューした日高光啓(SKI-HI)率いる男性グループ「BE:FIRST」ではファン広告についてはファンが審査を依頼できるフォームと素材が用意されています。
ファン広告対応ではないですが、二次創作が盛んなゲームやアニメ、Vtuberなどのジャンルではあらかじめキャラクターの利用規定が策定されているものもあります。
□課題は広告審査
日本のマスメディアの広告枠は大手代理店が寡占状態で管理しており、申し込み基準が厳しい上に、クリエイティブに対して代理店、プラットフォーム両社の審査が入ります。
企業としての信用がないと判断されれば申し込みができませんし、素材の権利関係の確認、その媒体に相応しいクリエイティブか否かの判断もあります。法律上の制限に加え自主規制としても多くの項目が存在します。
権利処理に関しては関連する企業への規制も強く、グッズを製造する印刷所などでもこれまで自主対応がなされてきました。
近年、新大久保などでよく見られるカフェで開催しているアイドルや俳優の誕生日を祝うイベントなどではアーティストの顔写真を印刷したカップホルダーやグッズを配布していることが多いですが、これは韓国で印刷して日本に送っている例が見られます。日本の印刷所は個人からの依頼を受け付けている企業は二次創作のレギュレーションとたたかってきた歴史が長く、権利関係を明確にクリアしていないものは基本的に作ってくれないのです。
よく知られるように同人誌やグッズでは摘発事例が複数あります。
「鬼滅の刃」便乗商品を「鬼退治グッズ」などと称して販売、4人逮捕https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2107/28/news148.html
□「ファンダムとの協働」のメリットーBTS釜山公演より
2022年10月にBTSが釜山市の万博誘致の宣伝に起用され、コンサートを開催しました。こちら行ったのですが、街中を彩る広告はほとんどファン広告でした。街頭フラッグ、地下鉄の駅、百貨店のデジタルサイネージ・・・世界中の有名なファンダムが広告を出稿しているのは壮観でした。
ファンダムは公式ファンクラブとは違い、メンバー個人につくものです。なので個人別出稿量の差が気になったりはしましたが、自治体としては労せず街中をアーティストでいっぱいにできるので巻き込んでいくのはWin-Winなのだなと思いました。一方で、ファンダムは自由に集まった集団で責任をどこまで背負えるかは不確定な団体です。今年11月、大阪の戎橋のTSUTAYA VISION(グリコ看板近く)にBTSのj-hopeの応援広告が出た際には警備員の配置を求められたようですし、人が集まるものになればなるほどそういった不測の要求に応える責任も出てきます。
□来年からのファン広告
コロナ禍で広告主を失った駅や屋外広告においてはファン広告は救いのクライアントでした。「推し活」という流行語に押されるように、この流れは続いていくと思われます。jekiの「Cheering AD」は事例を見る限り好調なようですし、数百万円単位までの媒体では大きく広がっていくのではないでしょうか。
広告代理店が介入するフローでのファン広告の管理は、規模が大きくなった芸能事務所にとってはファンに勝手に出稿されるよりは管理しやすくなるためです。
一方、クラウドファンディング型はあまり向いていないかなと思います。
手数料が高いというのもありますし、大人数で大規模な出稿をコントロールするのは意思決定が難しいのではないかと思うからです。思想を同じくする少人数で出稿したほうがクリエイティブの合意も、取りやすいでしょう。利用する広告枠の価格が数千万円〜数億円の枠となると媒体側でのクリエイティブの要求基準も厳しくなります。
12月30日は世界最大の金を集めると言われるBTSのVさんのお誕生日があります。日本でもこれまで見られなかったような場所でたくさんのファン広告を見ることになるかもしれません。
この記事のサムネイルの画像はソウルの小規模なショッピングセンターを全面的に使った誕生日祝い広告です。
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