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泉と陽だまり

「君のピアノはとても素晴らしいよ。でも何だろう……こう、冷たい気もするんだ。ひんやりしていて、泉のようで」
そう貴方に言われて、私は己の演奏がそんな風に聴かれていることに驚いた。
温かみがないと言われた私のピアノ。
じゃあどうしたら、貴方みたいな演奏ができるんでしょう。
聴いているだけで心躍るような。陽だまりのような貴方の演奏に。

「え、僕そんなこと言ったの?」
「そうよ。覚えていないのね」
リビングに置かれたピアノのそばにテーブルを持ってきて、私はアールグレイティーを飲み始めた。貴方の演奏を聴きながら飲む紅茶はどの世界の飲み物にも敵わない。
ピアノの前で座る貴方は、楽譜とにらめっこしつつも私の語る昔話に驚いた。
「それはまぁ……酷いこといったね。僕」
へなりと眉を八の字にする貴方は昔から変わらない。
意地悪く貴方をからかう私も、変わらない。
「そうよ、それはショックだったんだから」
でもね、とその続きは私だけのものにした。
貴方は覚えていないかもしれないけれど、こう続けたのよ。

「泉みたいに透明で透き通ってて、とても美しいんだ」

無自覚な口説き文句にやられた私は、それからずっと貴方のことが好きなのよ。
あなたはまだ、気付いてないだろうけど。
少しだけ心の中で舌を出した私に気づかず、貴方は一人呟いた。
「でもきっと、泉みたいに美しいって言いたかったんだと思うよ」
「………」

───ああ、やっぱり変わらないし、敵わない。
そして貴方が指を踊らせたから空間に陽だまりの音楽が鳴り響いた。
昔から変わらない、私だけの愛のピアニストとして。


#小説

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