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『ブラッシュアップライフ』で描かれた「友情×ノスタルジー」

 放送中から評判の良かった『ブラッシュアップライフ』がNetflixに上がっていたので観てみることにした。(※この先ネタバレを含みます)

これは、平凡な人生をもう1度やり直す平凡な女性のお話。地元の市役所で働く実家住まいの独身女性、近藤麻美33歳。彼女はある日突然、人生をゼロからやり直すことになる。気がつくと、そこは産婦人科のベッドの上。目の前には若き日の父と母。近藤麻美の2周目の人生が今はじまった。バカリズムが仕大なスケールを持て余し、不思議な日常を描く、地元系タイムリープヒューマンコメディー。

『ブラッシュアップライフ』公式サイトより

 第1話の途中で、本当に観るのを辞めようとした。というのも、あーちん(安藤サクラさん)、なっち(夏帆さん)、みーぽん(木南晴夏さん)の仲良し3人組の延々と続く会話の内容が、わたしが中学時代に苦手だった女子たちそのものだったんですよね。実際はこれよりもっとおもんないやつだけど。

 なんなのこいつら!? 魔法の枕詞「こんなこと言っちゃいけないんだけど」言えば何言ってもいいと思ってる!? ていうか月に2回会っててずっと昔話しかしてないの何!? 人の善意や、頑張ってる人のことを直接的にバカにしてるわけではないけれど、もうこれは自分たちは頑張ってないわりに頑張ってる人を下に見ているも同義でしょ…… と落ち込んでしまった。

 で、いよいよ停止ボタン押そうと思ったところであーちんが死んじゃって、死後案内所の受付係(バカリズムさん)の話によると「徳が足りないから自分の望む来世の姿になれない」という。じゃあ続きを観てみようかなと思った。わたしも大概性格悪い。 

 主人公のあーちんは人生を周回するごとに幼少期から努力をしてレベルを上げていくんだけど、人生1周目のなっちとみーぽんはずっとそのまんま。だからあーちんが4周目の時に、仲良くするタイミングを失ってしまう。5周目はなっちとみーぽんを助けるために、人間に生まれ変われる権利を捨ててもう一度人生をやり直す。なんて美しい友情なのだろうか!

 でもひとつ腑に落ちない。なっちとみーぽんて、人生何周しても友達になりたい人間ですかね……?

 ストーリーが面白いのにいまいち入り込めなかったのは、これが原因でした。なっちとみーぽん、言葉は悪いけど全然魅力的じゃないんですよ。たぶん製作サイドも彼女たちの魅力を描くつもりもないのでしょう。なっちとみーぽんは普段の生活に不満もなければ、大きく腹を立てることもない。ただただ省電力モードで生きる様子だけが描かれています。

 でもたぶん、あーちんにとって彼女たちが人として魅力的かどうかは、どうでもいいんですよね。あーちんは幼少期を過ごした土地で、その頃に知り合ったなっちとみーぽんと、その頃の話をしていることがとにかく楽しいんだと思います。ノスタルジーに浸かって「楽しかったあの頃」に帰る。同じことの繰り返しであっても、繰り返しだからこそ、安心感があるんですよね。だから居心地がよくて癒される。それが幸せなんです。

 わたしは未成年時代からいろんな街に引っ越したから地元と呼べる場所がないし、引っ越し先で馴染めなくて暗黒時代を過ごしたから、「楽しかったあの頃」がない。思い出は共有できる相手がいないと、どんどん記憶から抜けて実態を伴わない。いま自分が「思い出話に花を咲かせるなら今何をしているのか、どんなことを感じているのか、どんなものに興味を持っているのかを語り合いたい」と思うのも、そういう背景が影響しているのかもしれない。だからより良い未来を追いかけるしか、わたしには術がない。毎日刺激的だけどいつもフルパワー出力必須で、浮き沈みも激しい。省電力モードでは乗り越えられない。

 未成年時代の友達との縁を大事にするのは、いろんな意味で合理的なのでしょう。なんて意地悪な言い方をしてみたけど、あんなに楽しそうに他愛のない話をして楽しむあーちんたちがうらやましいだけなのかもしれない。『ブラッシュアップライフ』は、大人になると二の次にしてしまいがちな「友情」を、見つめ直す機会になりました。

最後までお読みいただきありがとうございます。