見出し画像

令和6年三が日

 今年初めて文章を書いている。今年が始まってまだ72時間経っていないというのに、いろんなことがありすぎて気持ちの浮き沈みが激しい。

 1月1日は毎年0時に近所の神社で初詣をして、そこで振る舞われる甘酒を新年初の飲食にしている。今住んでいる家が今年の秋に取り壊しになるため「いい引っ越し先が見つかりますように」と願った。

 午後は雑煮を食べ、取材で東京に行った。だが取材開始時刻直前に能登半島地震が起き、ひとまずバラシとなった。去年の年末から念入りに準備をしていた案件だったので残念ではあるが、それ以上に北陸の状況が心配だった。

 地震は他人事ではない。阪神淡路大震災で豊中の家も被害を被った。その後引っ越した先の静岡県では、転校初日から「東海大震災は今この瞬間に起こってもおかしくない」など地震に関する知識を叩きこまれた。それから地震が日常茶飯事の生活になった。揺れ方で震度がいくつか、震源からどれくらい離れているかがわかるようになった。東日本大震災では都内で当日の混乱と、長きにわたり二次災害に巻き込まれた。地震は他人事ではない。

 1月1日に予定されていた7ORDERのツアーファイナルは、地震の影響により1時間半押しで開演した。7ORDERに初めてインタビューをしたのは2020年7月。わたしにとってコロナ禍に入ってから初めての対面インタビューであり、人生で初めてのボーイズグループのインタビュー取材だった。そんな背景もあり、彼らの取材や現場に行くと、いつも扉を開くような感覚がある。彼らと接すると、新しいことが始まる予感がする。

 この日もそうだった。今ツアーは「7人の7ORDERで築き上げてきたものの集大成」というコンセプトであったが、これまでを振り返るというよりは、これまでの経験を踏まえて今の6人が再構築しているシーンが散見した。好奇心に突き動かされながら我が道を極め、果敢にチャレンジし、それをしっかりと表現に落とし込んでる彼らは、いつも凛としていて美しい。1月1日にライブが観られて良かった。

実は2023年のライブ納めも7ORDERだった

 北陸の状況がどうにもわからないので、帰り道はずっとTwitterで調べたり、災害に有益な情報をRTするなどしていた。つらいシーンがたくさんあった。今思い返してみると、気付かない間に疲弊していたのかもしれない。帰宅後はすぐに寝た。

 1月2日はぼんやりとしながら箱根駅伝を観ていた。マラソンはいい。エネルギッシュなのに淡々としている。実況者が挟み込む一人ひとりのドラマも、選手の生活が垣間見られて沁みる。実際に現地で選手の走りを観た。雨のなか地面を蹴る靴の音は鈍く、選手たちの爪先の冷たい感覚が瞬時に身体を走った。

 その後は家にひとりでいても何もやる気が起きず、Twitterの広告で見掛けた『モブ子の恋』という漫画をアプリで読んだ。主人公の田中さんに共感できる点が多々あるわたしは、田中さんが勇気を出すたびに涙腺が緩んだ。わたしは恋を諦めたから、田中さんには幸せになってほしいと切に願った。

 その後はYouTubeを観ていた。東日本大震災やコロナ禍の時もそうだったが、巨大な不可抗力のものが世の中を襲った時にわたしはお笑いを観るクセがある。評判の良かったスタミナパンのM-1敗者復活戦動画が途轍もなく面白かった。台詞、動き、声、フォルム、ワードの全部が最高の状態で混ざり合っていた。

 あとは急上昇に上がっていたNumber_iの新曲。曲も映像もスタイリングもコレオグラフもかっこよすぎやろと調べてみたら、まず映像監督は児玉裕一さんだった。かっこよくて当然だった。作家陣は踊Foot WorksのPecoriさん、DATSのMONJOEさん、FIVE NEW OLDのSHUNさんだった。かっこよくて当然だった。

 作家陣のお三方はもともと旧ジャニーズグループにも楽曲提供の経験がある方々で、「GOAT」はそのあたりのシーンへの知見もあるうえでNumber_iのやりたいことに最大限振り切っている印象があった。リスペクトするアーティストとタッグを組んで「これが俺たちのやり方(c/ラッパ我リヤ)」を音楽で示すのはまじでクールっすね。これを聴けば、彼らが3人で走り出した理由が言葉以上にわかる。

 地震の気晴らしをしたものの、SNSで羽田空港の事故を知る。また落ち込む。今年は個人的にも不安が多い年なのに、どんどん飲み込まれてしまった。巻き込まれた人たちのことを考えると、今自分がストーブのついた部屋にいることにも、布団に入ることにも罪悪感が生まれた。自意識過剰なことは頭ではわかっているのだけれど。

 1月3日は箱根駅伝の復路。今年は事前にもらっていた観戦ガイドに目を通して、さらにずっと中継を追い続けたから、各チームのゴールの時にぼろぼろ泣いてしまった。なぜ泣いたのかと思ったら、やっぱり一人ひとりのドラマなんだと思う。

 青学は選抜メンバーがアンカーの選手の到着を待っている時、4区を走っていた佐藤選手が既に感極まって目を赤くしていた。彼は4年生で、雨のなかびしょ濡れで、ぐしょぐしょになった靴でわたしの目の前を走っていったのを観ていたから、彼の心情を考えたら涙が出てきた。駒大がゴールした瞬間、みんな悲しい顔をしていて、これまでの走りやゴールの瞬間を思い返したらやっぱり涙が出てきた。個々のチームの一人ひとりに、今年の箱根駅伝に至るまでの様々な思いがある。当たり前のことを噛み締めた。

 現在進行形で命を削っている選手を観ていて、自分に重ね合わせる。2023年にとんでもない行き詰まりを感じていたわたしは、自分の短所ばかりが目に付いていた。

 SNSでぐいぐいアピールするのが苦手。状況説明やあらすじの説明が苦手、というか書いていて楽しくないから全然筆が乗らない。音楽シーンの分析ができない、というか音楽シーンってなんなんだろう。次ブレイクするアーティストの選出ができない、というかブレイクってなんなんだろう。原稿でアーティストを絶賛したり批判したりできない、というか自分が見て感じた事実しか書けない。テンションの高い原稿が書けない、というか読んでてしんどいから書きたくない。自分が曲げたくないポリシーのほとんどが、世の潮流とは逆である。

 でも箱根駅伝を観ていて思った。やっぱりわたしは、目の前に起こっている事実をテンション高く伝える原稿よりも、その裏にあるドラマに丁寧にスポットを当てる原稿が書きたい。「あなたの原稿は淡々としていて、フックになる強い言葉がない」と言われることもあるけど、意志を持って淡々としているからこそどんな人にもニュートラルに届けられるとも思っている。箱根駅伝がお正月に愛され続けているのも、似た理由だと思う。ファンだけに届く原稿を書きたいわけではない。

 わたしのやりたいことは、いろんなところでいろんな人について書きたいということ。それは売れいないと成し遂げられない。「ネームバリューがあったら」と悔しい思いをすることはたくさんあるけど、そのために売れようとしちゃだめだ。自分のやり方を磨いて、自分なりのやり方で世間に突きつけたいし、突きつけなきゃいけない。心が折れそうになる瞬間も、雨で爪先が濡れてコンディションが悪くても走らなきゃいけないときもたくさんある。でもその先にはきっと、あの時無理やりにでも走っていたから見える景色があると思う。

 今年は引っ越しもあるし、10年以上悩み続けた子宮筋腫のために子宮全摘手術もしなければいけない。もっといい未来に駆けだす準備をする1年にしたい。今年もよろしくお願いいたします。

最後までお読みいただきありがとうございます。