(劇評)『劇処』さよなら、七人のネガティブな私

この文章は、2016年10月15日(土)19:00開演の劇団nono『七人の』についての劇評です。

 劇団nonoは、平成21年に、野々市市の地域住民が作った市民劇団である。現在は、小学校2年生から幅広い年齢層の団員、19名が活動している。今回が初めての野々市市外、金沢市での公演となった。
 上演された『七人の』は、グリム童話の『白雪姫』を原案とし、演劇列車『東西本線』の西本浩明が作・演出を担当している。

 三角屋根に四角い部屋の、家のような形の白い布が、舞台に設置されている。家の前の左隅には木箱がいくつか、右隅には木材やほうきが置かれている。物語の案内人らしき男性が登場し、『白雪姫』のお話を語り始める。
 白雪姫の美しさを妬んだ継母は、猟師に彼女を殺すよう命じる。だが猟師は殺すことができず、森の中に白雪姫を置き去りにする。白雪姫は森の中で七人の小人と出会い、小人達の元に身を寄せる。その後、白雪姫が生きている事を知った継母は、自ら森に出向く。継母が渡した呪いのリンゴによって、白雪姫は仮死状態に陥ってしまう。しかし、森を訪れた王子のキスによって、白雪姫は目覚めることができる。
 白い家の形をした布の向こうには、人影が現れる。照明の元で揺れる影が幻想的に、童話の世界を表現する。白い家の後ろで影絵の手法が用いられたり、家の前で俳優による演技がなされたりして、物語は進む。

 『七人の』に登場する小人には、一般的な『白雪姫』の物語とは何か違う者が混じっている。赤・青・黄・緑・橙の服を着た人々の他に、ピンクの服を着て顔を黒く塗ったラッパー風の人物と、青春ドラマに出てきたような長髪の先生がいる。そしてこの七人とは別に、白い服の小さな子がいるのだが、仲間ではないのか、現れてもすぐに立ち去ってしまう。
 姫が呪いにかけられてから15年目の誕生日。小人の一人が、王子を見たと報告する。待ちに待った、姫の呪いを解いてくれる王子だ。すったもんだの追跡を繰り広げ、小人達は王子とお連れの者に出会う。王子に姫へのキスを要求するが、王子は抵抗する。気が付くと、小人は一人ずつ消えていく。王子は無理やり姫にキスさせられるも、姫は目覚めない。

 実はこの物語は、現代の、非常に現実的な話なのではないか。おとぎ話は、姫と呼ばれる存在の心象風景なのであろう。15年、眠り続けるように、外界を拒絶してきたと思われる。待っているだけでは、自分を救い出してくれる王子様は来ない。誰かに頼るだけでは、現状は打破できない、というメッセージがまず一つ、ここに見られる。
 影絵として挟み込まれるシーンに、学校らしき風景がある。七人の小人達と同じ演者が、休んでいる生徒の事を非難する。これは、姫のトラウマか。眠った姫を取り囲んでいた小人達は、姫を慕う者達ではなく、姫を卑下し、目覚めることをためらわせる存在だったのではないか。
 白い小人に向かい、お連れの者は、昔、自分と仲良くしてくれた子を訪ねてきたこと、もうすぐ結婚すること、おみやげに「しめじ」を持ってきたことを話す。お連れの者に名前を尋ねられた白い小人は、「ユウキ」と答えた。今まで、すぐに逃げ出していた「ユウキ」が、不意の来訪者によって、心を動かされたのかもしれない。「ユウキ」は「勇気」だ。目覚めるための勇気だ。自分の中にあった、起きることをためらわせる七つの要素を、一つずつ消していく。そして、目を開ける。外の世界へと起き上がる。
 15年孤独だった姫には、幼馴染の来訪は嬉しかったはずだ。待つだけで、自分を助けてくれる都合の良い存在は現れないが、手を差し伸べる他者はいるのだ。ここにもメッセージがある。

 この文中、推量形を多く使用した。「そうかな?」と思ったエピソードを「そうだ!」というすっきりした気付きに変える、確証が得られなかったからである。説得力が欲しかった。観客へのヒントをわかりやすく出すこと、演者が脚本をより深く消化すること、メッセージをまっすぐ届けるために、できることはまだまだあるはずだ。

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