(掌編)一人と一人とBBQ

一人、台所で肉を焼く。
日曜の昼に部屋の中で、一人、何かを焼いている。
それは僕だけではなくて。
「一人BBQ参加者募集。条件:今週日曜13時に室内で何かを焼ける人」
この書き込みを見てやってみている誰かが、何人かいるはずだ。

どうせ募集するのなら、その皆でどこかにBBQに行けばいいのに。
と、実体を伴う行動において他者と交流することに長けている人は、思うだろう。
そうできたらどんなにか楽しいだろう。
気の合う仲間、気になる誰か、美味しい食材、晴れた空、目に鮮やかな緑、爽やかな風。
実感できたならどれだけ幸せだろう。

虚像でならなんでも言い合える誰かとでも、
実際に会ったら何も言えないもので。
それならば嘘のぬるま湯に浸かって、のんびりしていたい。

スマートフォンを操作してサイトを開くと、
誰かが肉の写真を上げていた。

焼くものは何でもよいのだから。
僕の部屋のキッチンのコンロが、ガスコンロで良かったと思う。
手紙を火にかけた。
一瞬で燃え移り炎を上げた手紙をシンクに投げつける。シンクの中で手紙は墨になった。
もう、忘れよう。
手紙という実物を送ってくれるくらい優しかった誰かのことは、忘れよう。
さようならの言葉が実在したことも、忘れよう。
はじめましての言葉もかつて実在したことを、思い出そう。

「いつか皆で本当にBBQできたらいいね」
そうだね、いつか。

一人、焼いた肉を食べる。
誰かの実物に触れる勇気を持てないでいる仲間も、僕と同じように、焼いた何かを食べている。

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