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松の木と夾竹桃と合歓木

このところ毎朝、起きてすぐに1杯の水を飲んだ後、老犬と短い散歩をする。

老犬は16歳。ちょっと前までは、私が外に出る雰囲気を察するや否や、「行くの!?」と走ってくるような子だった。耳が大きいのでよく聞こえるから、散歩好きの彼に気づかれずに家から出ることは難しかった。でも今は、耳はほとんど聞こえないようだ。猛烈に怖がっていた花火や雷も、もうまったく気にしない。毎朝、外に出すために抱き抱えても「まだ眠いんですけどね」とぼんやりしている。

この辺の朝は、いい匂いがする。今は松の木の爽やかな香りと、夾竹桃のかすかな香り、合歓木の甘い香り。きっと愛犬にはもっといろんな匂いがするはずだ。外に出して少しすると、あちこちの匂いを嗅いだ彼の顔がしゃっきりしてくる。歩くのが下手になって、曲がった背中でひょこひょこ歩く。白内障が進んで日によってはよく前が見えず、標石に正面激突したりするから目が離せない。見守りながら歩いていると、こちらを見て笑ったような顔をする。

少し歩くと疲れて、立ち止まってしまう。諦めて家の方に向かうと、よく見えないだろうのに私の先に立って、真っ直ぐに門まで戻る。もう少し運動させたいから、ときどき家の前を素通りしようとするのだけれど、「え、わからないの? ここでしょ」と不思議そうな顔して家に戻ってしまう。引っ越しを考えているのだけれど、新しい家になったら困っちゃうかしら。

こうやって今、この子と歩いていることは、後から考えたら奇跡のような幸せなんだろう。日々あわただしく暮らす中で、そのありがたさをうっかり忘れちゃうんだけれど。

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