NiCE(23)　【日記】2008年8月、13歳

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お金に関するフィクション
『NiCE』の23回目です。
本文はそのまま読めます。第1回はこちら。
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8月9日
　二十才のもえ、元気ですか？　今日はいい日だった。アルバイトでおもしろいことがあったの。ごうちゃんが考えてくれた、アルバイト。わたしがカラオケで歌った声をごうちゃんがCD-Rに焼いてくれて、それをわたしがファンに会って売るというやつです。おぼえていますか？

　今日は、ピンクのワンピース（二千円で、アルバイトで買ったの。すごおくお気に入り。サンダルもネットで千円のを買ったんだ。ハイヒール付き。机のかくし場所に入れてる。）を着て、ツインテールにして出かけました。ごうちゃんが、そういう風にするとファンがよろこぶっていうから。

　アルバイトは、ミサキはハンタイしてるけど、ごうちゃんはすごく調べてファンを選んでわたしにつなげてるって言うから、続けてます。CD-Rは一こ2,500円で売っていて、CD-Rは一こ100円とかだから、電車代を入れても一回2,000円くらいになります。すごいでしょ！

　ごうちゃんが、どうやってわたしなんかのファンを探すのかなって思ったら、なんかごうちゃんがホームページ作ってくれてました。あとyu-チューブも。「これ、ネットにアップしていい？」って聞かれたことがあったけど、それだったみたい。ごうちゃんがファンの人とLINEとかDMとかして、変な人じゃなさそうだと確信したら、わたしがCD-Rを売りに行く。で、ちょっとしゃべる。ごうちゃんは「もえは、会いに行けるアイドル、の超お手軽バージョン」って言ってた。

　ごうちゃんが作ってくれたルールはいっぱいあるよ。きっと20歳のもえは忘れていると思うから、ここに書いておくね。

1　店から絶対に移動しないこと。どこかに連れ込まれないようにするため。
2　写真を撮られそうになったら『今日はメイクをしていないからダメ』と言って、顔を隠すこと。写真を悪用されないため。
3　電話番号を知られないこと。スマホを盗られたり、番号を盗み見られたりすることのないように気をつけること。個人的に連絡をとろうとされないため。
4　アイドルになりたい萌と、萌を応援したい人が出会う場だということを忘れないこと。変なことを要求されたら、「応援してくれてありがとう。歌手になれるように頑張るね」とくりかえせ！　話の筋と合わなくてもいい！笑
5　CDを買ってもらうこと。買ってもらう約束で、萌は相手と会っているんだから。もし買ってくれなかったら、その場でオレに電話すること。
6　相手が席を立ってから1時間以上カフェで待ち、それからオレんちに寄ること。萌んちを知られないため。
7　問題を起こしそうにない相手を選んでいるけど、何か問題があったら、すぐにオレに電話すること。萌の仕事の時は、遅くとも30分以内で行けるところにオレはいるようにする。

　ふう。漢字が多いね。ごうちゃんはパソコンで打ってくれたからだ。まだ習ってない漢字があるし、　わたしは漢字が苦手だから、字がきたない。まあいいか、読むのは二十才の私だもん。

　今日のまちあわせは、渋谷のカフェファイブだった。オトナな感じのカフェ。きんちょうしちゃうけど、それがいいんだって。ごうちゃんは「相手もきんちょうするから、変なことしにくい」って言ってた。来たのはヨシオさんという大学生の人。

　なんかCD-Rを二枚買ってくれるっていうから、ちょっとひいた。だって、そういうことを言う人とか、食べ物を買ってくれる人とか、やさしーなーと思ってると、「だから今度デートしよう」「その代わりにキスして」とか言ってくる人がほとんどなんだもん。だからすっごくこわかった。なんて言ってにげようかなって考えていたら、ヨシオさんはそんなこと言わなくて、「メジャーデビューできるようにずっとずっと応えんしてるよ」って言って、帰ろうとした。びっくりしたし、すっごくうれしかったし、うたがってごめんって思った。

　だから、思わず「ヨシオさんに100ナイス」って言っちゃった。前にお手紙に書いた、「ミサキ、ごうちゃん、ゆうじんとわたしの4人で、良いことをした人にポイントをあげるゲーム」、あれにナイスって名前をつけたんだ。ナイス・トゥー・ミー・チューのナイス。「すてきだね、いいね」って意味。1ポイントじゃなくて、1ナイスっていうの。それで、ヨシオさんに100ナイスって言ったのね。そしたらヨシオさんが何それって聞くから、ナイスのゲームのこと、教えてあげたんだ。

　そうしたら、ヨシオさんがおもしろいことを教えてくれた。
　ニュージーランドのマオリ族という人たちは、昔、マナっていう考え方を持っていたんだって。人は生まれた時にマナをいっぱい持って生まれてくるんだけど、そのマナっていうものは、うそをついたり、人を傷つけたりするとへっちゃうんだって。だから、ふつーに生きていると少しずつマナはへっちゃう。だけど、だれかから「ありがとう」って言われるとマナはふえるんだって。むかし、マオリ族の人たちはお金ってものがなかったから、お金もちになろうとは思ってなくて、そのかわりに周りの人にできるだけやさしくしてあげて、自分のマナを増やそうとしながら生きてたんだって。ヨシオさんも、マナのことをネットで読んで、すごい感動したんだって。マナって、なんか、ナイスみたいでしょう？

　今日まで読んでた「少女ポリアンナ」には、「よかった探し」っていうゲームが出てきた。どんなことにも、「良いこと」を見つけるっていうゲームです。たとえば、ポリアンナがおばさんのうちでせまい屋根裏部屋で生活しなさいって言われても、他にも普通の部屋はあるのになんでっておこるんじゃなくて、「景色がきれいに見えるからうれしい」って考えるんです。

　この「よかった探し」もなんとなく、ナイスににてるなって思った。みさきとごうちゃんとゆうじんにナイスをあげようと思って探してると、いっぱいナイスあげられることが見つかる。で、だんだん、他の人にもナイスをあげたくなってくる。教科書わすれたときに見せてくれたとなりの席の男子とか、黒板をむっちゃきれいにふいておいた日直とか、そういう人たちに。

　なんか、今日は、楽しかった。ヨシオさんも良い人だったし。ヨシオさんは、わたしのツイッターのフォロワーになってくれた。今日の日記は、これでおしまい。

＜ (24) に続く＞

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