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図工の「あたりまえ」も変えていく

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎

図工の授業をしている時、いつも思っていました。「どうして、みんなが同じことを、同じ時間しなければならないのだろう」と。どの教科でも言えることですが、特に図工では顕著に感じていました。例えば、絵を描くのが好きで得意な子供は、時間が許せば、無限に描き続けているのではないだろうかと思うほど、生き生きと絵を描きます。一方で、絵を描くのが苦手な子供は、与えられた時間を全て絵に費やさなければならないのは、苦痛かもしれません。でも、粘土を扱わせたら天下一品で、想像力を爆発させて次から次へと我々が思いつかないような作品を生み出す。そんな子供もいます。ハサミを使わせたら右に出るものはいない子供。千切った紙を色々な物に見立てるのが抜群に上手な子供。どれも同じくらい好きな子供。興味も力も色々な子供がいるのだから、図工だって子供によって違う学習をしていたって良いはずです。

図工で個々の興味関心に応じた授業が成立しにくいのは、用具などの準備に手間がかかったり、スペースがなかったりするといった、物理的な理由が大きい気がします。実際、高学年の授業で、電動糸鋸と版画を同時に行うのは難しいかもしれません。安全上の課題もたくさんあります。それでも、最初から無理と決めつけず、工夫をすればどうにかなるのではないか。そこで、まずは低学年で挑戦してみました。4つの学習の中から、子供が深掘りしたい学習を選び、取り組めるようにしたのです。



1つ目は、画用紙に描かれている◯、△、□を何かに見立てて、絵を描くという学習。2つ目は、粘土で紐や球を作り、そこから発想して自由に造形する学習。3つ目は、2回折って小さな正方形にした折り紙を鋏で切り抜き、線対象に浮かび上がる幾何学模様を作り出す学習。4つ目は、折り紙をビリビリと破り、そこからできた形を画用紙に貼り、何かに見立てるという学習。これらの学習を、それぞれ単独で学習する時間を少し短めにし、余剰の時間を使って子供ごとにもっと取り組みたい学習に使えるように計画しました。結果は、大成功でした。粘土や鋏を使うのは苦手だけど、見立てて絵を描くのが本当に上手なA子さんは、目をキラキラさせて2時間ずっと絵を描いていました。「どうやったら、そんな形にできるの?」とこちらが教えを乞いたくなるような芸術的な形をハサミで生み出すB男君。1時間目は粘土を楽しみ、2時間目はB男君と双璧をなす模様を作り出したC子さん。D子さんは、2時間の間、粘土で黙々と紐を作り、大小様々なキャンディーを作っていました。


「今日はこれをやるよ。」というのは、裏を返せば「これ以外はやっちゃダメ」と言われているのと同じです。もちろん、全てを自由にすることはできませんが、基礎基本さえ学べば、そこから先、何をどれだけ深掘りするかは子供によって違うはず。全ての子供にパーソナライズされた授業を目指す。その理想に、ほんの少しだけ近付けた授業だったと思います。