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パリ、あの日の粒マスタード #呑みながら書きました

#呑みながら書きました  、うっかり忘れていました。(正確には、明日だと思い込んでいました。たぶん後夜祭との見間違い。)

楽しみにしてたのに。そしてうっかり外で呑んできてしまったので、呑みながら書きましたというより呑んでから書きました状態です。

ちなみに、今日は外でスパークリングワインと白ワインと赤ワインとサングリアを飲みました。やりすぎました。頭がちょっとくらくらしているし、体はちょっとふわふわしています。久しぶりの飲み屋さんがメニューをリニューアルしていて、とてもおいしかったのです。特に豚肉のパテ。粒マスタードをかけると、酸味とぷちぷちした食感が、お肉の味にぴったりで、まさにお酒とよく合う味でした。

山葵にしても辛子にしても、「鼻にかけてつんとする味」があまり得意じゃないのです。お寿司屋さんで、いまだに山葵抜きを頼むくらい。最近は家族連れ対応で、回転寿司が山葵抜きが頼みやすくてありがたい。この間は立ち飲み屋のおでん屋さんで、「あ、辛子抜きで!」と懇願にも近い声でお願いしてしまい、店員さんをびくっとさせてしまいました。手には大き目スプーンにサービスとばかりにたっぷりすくいとられたまっ黄色な辛子。テンションの危機でした。間に合ってよかった。

さて、そんな味覚お子様な私が、なぜ粒マスタードはうきうきとかけてしまうのか、という話。これは学生時代までさかのぼります。

学生最後の夏、学会でパリに行きました。

(ちょっと宣伝。超初期に描いていた旅エッセイ。まだ文章がちょっと不安定。)

ある日の夜ご飯、見かけた食堂にふらっと入りました。白黒を基調としたおしゃれでこぢんまりとした店には、優しそうな大人の男女と女の子がおそろいのエプロンをしていました。どうも家族経営のお店のようでした。

フランス語のメニューは読めなかったのでおすすめを尋ねると、豚肉のソテー(野菜添え)とのこと。しばらく待って運ばれてきたそれには、粒マスタードが添えられていました。でもそれは、見慣れた黄色じゃなくて、深いピンク色をしていました。こんな色のマスタードはじめて見ました、と言うと、おばさまは笑顔で教えてくれました。

「カシスが入っているのよ。フルーティーで、とてもおいしいの。うちのマダムも、このマスタードがとびきり好きなのよ。」

そう言っておばさまは、女の子の方を向きました。どうやら、マダム、というのは女の子のこと。とにかく若く呼びたがる日本との違いが少しおかしくなりました。

正直、あまり得意ではない粒マスタードだけれど、ここまでおすすめされてしまったからにはつけないわけにはいきません。私は慎重に豚肉の上に粒マスタードを乗せると、おそるおそる口に運びました。女の子はまっすぐな瞳でこちらを見ています。結果がどうだったとしても、「おいしいです」としか答えようのない状況。私は追い込まれました。

そろりそろりと、狂言のようなスピード感で一口。ぷちぷちした食感。かんだら広がる酸味と、その向こうで広がるカシスの香り。驚いたことに、少し様子を見てみても、いっこうにあの嫌なつん、とした感じはやってきませんでした。私はびっくりしながら、おばさまと女の子の方を交互に見て、心からの「おいしいです」と言ったのでした。

粒マスタードを見ると、いつも私は、パリのあのお店の、あの二人を思い出すのです。「おいしいです」と伝えたときの、にっこりした顔。うれしそうで、ちょっと得意げなあの表情。あの表情をまた見られるような気がして、ついつい粒マスタードをたっぷりかけてしまうのかもしれません。

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