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ニンニクパワー


スタミナをつける食べ物といえばやっぱりニンニクなんだろうと思うけど、私はスタミナつけるぞ!といってわざわざニンニクを食べることはしない。それは長年接客業をしていることもあって「ニンニク=口臭=ダメゼッタイ」という掟が身体に刷り込まれているからということもある。みんなはどうなんだろう。スタミナつけるために、ニンニクを食べるのでしょうか。

そういえばニンニク注射というものには、様々なビタミンが配合してあるだけで、ニンニクそのものは入ってないそうだ。てっきりニンニクをすりおろした搾り汁をどうにかこうにかして注射しているのかと思っていた。
一方で、キヨーレオピンという栄養剤を父が昔飲んでいたのだけど、それには濃縮熟成ニンニク抽出液が入っているそう。蓋を開けるとニンニクを煮詰めたような匂いがプーンとして、それをこぼさないようにチュチュッとカプセルに入れ、水でかぶりと飲み込む様子をこたつに入りながら眺めていた。元気が出るぞといって父はよく飲んでいたっけ。
焼肉屋に行っても、父はニンニク丸ごとホイル焼きを頼み、ホクホクだぞといって取り分けてくれたけど私はあまり好きじゃなかった。父はその頃、シャカリキに働いていたことを思い出す。

以前働いていたエステサロンでは、エステティシャンの身だしなみとして口臭や体臭につながる食べ物、それらを調理した"手"などに注意を払えと教えられていた。ニンニク、ネギ、玉ねぎ、ニラなどがその代表選手となる。
私たちは休みの前日にスタミナ系を摂取するようにしていた。
しかしエステの仕事は体力勝負、さらにゴリゴリの女社会をたくましく生き抜くためにはスタミナが必要であり、疲れた日には激しく身体が欲するのだけど、自由には食べられないのだった。
焼肉食べたい、ペペロンチーノ食べたい、餃子食べたい…食べられる日をいつも心待ちにしていた。
それゆえエステ会社の慰安旅行で韓国に訪れたときには、タガが外れたように欲に任せて食べまくった。朝昼晩キムチ、ネギ、ニラ。骨付きカルビを素手で貪り、やかんに入ったマッコリをたらふく飲んだ。その結果私たちのエネルギーは満ち満ちになり、延々と歩き回ってのショッピング、サウナから3時間のエステ、そして夜中までカラオケと遊び三昧。今考えるとこの韓国旅行だけは疲れ知らずだったなと思う。
それにしても、韓国の人は朝からキムチを食べるのだろうか。ホテルの朝食で出されたのは観光客向けなのか、それが"当たり前"だからなのか。
考えてみると、韓国でニンニク臭いと思うことはなかったような気がする。誰もが常にニンニクと共にある生活をしているとその匂いに気がつかないのかもしれない。

そして、韓国旅行で印象的だったのは観光客向け大型エステ施設で働くおばちゃんたちのこと。
まずお客にチマチョゴリを着せて記念撮影をする。そのあと何種類ものサウナでお客を待たせながら、順番に高速アカスリしたあと、全身をボディソープで洗体し、オイルを使ってすみずみまで贅肉を揉みしだく。その一連の流れを次から次へとこなしていくのだ。バスでやってくる団体客も多く、一日の客数を考えると失神しそうなほどの仕事量なのだけど、おばちゃんたちは、おしゃべりしながらエネルギッシュに捌いていくのだった。
それに加えて、声はでかいし、手技も大胆、タオルワークもパンパンッと必要以上に音を立て、シャワーの水圧はMAXでと…彼女たちは"ゆるめる"ということをしない。あらゆる場面でパワーを分散し、放出しているかのようだった。
そして自らの顔面にも容赦はなかった。眉、アイライン、唇にアートメイクがガツンと施され、鼻筋は競い合うように高く、お肌もテラッテラなのだ。彼女らの圧倒的自信満ち満ち生気みなぎるその姿には、唖然を通り越してあっぱれであった。
昨今韓国ブームは勢いを増すばかりだけど、これらニンニクパワーありきなのではと考えさせられるのである。

普段そんなに朝の電車に乗ることはないのだけど、今朝たまたま出張があって8時台の電車に乗った。祝日なので通勤ラッシュはなく、座席にすんなりと座ることができた。すると左隣から私のマスクをすり抜けて猛烈なニンニク臭が漂ってきたので、透明な声でクッサとこぼしながら目をやると、ネクタイを締めたサラリーマンが何食わぬ顔でスマホをいじっていた。
昨晩はスタミナをつけたのだろうか。
今日も頑張れおつかれさんと思いつつ、やはり日本では接客業においてニンニク注意報のお達しがあるのも、うなずける朝であった。

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