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塩人 ショートショート

ちゃぶ台の真ん中、醤油やソースに混じって置いてある小瓶の中に我が家の塩人はいる。

普段は眠っているが、目玉焼きなんかが食卓に出る日は塩人もソワソワしていて、小瓶の蓋を開けると『待ってました』と言わんばかりに、瓶の上に開いた小さな穴から塩を出してくれる。

「俺のところだけ、塩が少ない気がするんだけど」塩人は仕事が終わったと言わんばかりに眠っていた。父は少し不服そうだ。
「健康に気遣って減塩しなさいってことでしょ」母は少しだけ得意げに笑った。

時々、自分が透明なような感覚に陥る日がある。やるべきことはやれているのに、周りの流れが早く自分だけがポツンと取り残されているように感じる日。

そんな日があるたびに、私は塩人を観察する。ゆっくりと、しかし確実に必要な時に仕事をする塩人の姿に、なんとなく自分の存在意義を重ねる。

「明日も頑張ろ」お風呂に入って、その後帰りに買った塩プリンでも食べよう。眠っている塩人を起こさぬように、そっと椅子から立ち上がった。

お題 塩人(420字)

あとがき

〜ちゅって結構種類あるんだな、とサイトを見ながら思ってた。

たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただいています。

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