いにしえからの巡礼道・熊野古道 中辺路(なかへじ)ルートで日本再発見
こんにちは、ライターのさやです。
古代からパワースポットとして人々の心を惹きつける、熊野。2004年7月7日に「紀伊山地の霊場と参詣道」というコンセプトで、ユネスコ世界文化遺産に登録され、地域の人々の手で大切に保全されています。
国内外から評価されているこの熊野の地に以前から興味を持っていたので、実際に歩いてみたのですが、歴史が浅い北海道民には眩しすぎるほど、「日本」が詰まっている土地でした。
今回は、「日本の再発見」をテーマに、一番有名であろう中辺路ルートを歩いてみた感想やその時の様子をお届けします。
全てを受け入れる「ダイバーシティ」の精神を体現した巡礼道
熊野古道とは、京都・大阪・吉野・伊勢・高野山の各地から、和歌山県の中央部にある熊野本宮大社までの全長1000kmにもおよぶ6つの巡礼道のことを指します。熊野の厳しい自然環境は、いにしえより人々に畏怖を与え、「神が棲まう場所」として自然崇拝の教えを育みました。
文化遺産の登録の際に評価されたのは、巡礼道としての歴史の長さや文化財の多さ以外にも、「吉野・大峯(修験道)」、「熊野三山(自然信仰)」、「高野山(真言密教)」といった異なる宗教や、身分・性別を問わず受け入れる「ダイバーシティ」の精神。まさに、お正月・お盆・ハロウィン・クリスマスを受け入れる日本人の精神の源が、熊野古道に現れていますね。
いざ、熊野古道へ。神域の入口・発心門王子から熊野本宮大社まで歩く
関西国際空港から熊野本宮大社までは、電車とバスを使って移動します。
JR阪和線特急くろしおで紀伊田辺駅まで移動し、紀伊田辺駅に到着後は、路線バス「熊野本宮線」に乗車。そのまま本宮へ向かっても大丈夫ですが、バスは中辺路ルート上を走るので、気になるスポットで下車し、熊野本宮大社まで歩くことも可能です。
私が今回出発地点に選んだのは、さらにバスを乗り換え、その最終停留場所である「発心門王子」。本宮まで6.5kmの地点に位置し、ゆるやかな下り道、かつ比較的道が整備されていることから、ハイキング初心者の方でも最後まで歩くことができるため、人気のルートとなっています。休憩なしで歩けば、2時間30分ほどで本宮まで到達できるそうです。
出発地点の発心門王子に到着したあとは、道中に設置された道しるべや道祖神、お地蔵様にしたがって歩きます。
時折、険しい山間の土地に民家が立っているのが見え、ほぼ自給自足の生活を営んでいるだろう設備から、自然と人が共存している様子を垣間見ることができます。
ルート上の路面は、舗装路や山道、石畳、砂利道などさまざま。現地のガイドの方曰く、古代から現代に至るまで生活路として活用され、路面の改良が繰り返されたためだそうです。中には、鎌倉時代より以前に作られた石畳も存在しており、その歴史の長さを感じることができます。
道中には、掃除が行き届いた休憩場所があちこちに設けられており、自由に休むことができます。中にはお店が併設されているところもあるので、飲み物や甘いものを買って、お店のお母さんとのんびりお話しするのもおすすめ。
この休憩所を運営しているお母さんたちは、巡礼道を保全する団体の方々らしく、そのお話しや活動の内容から、熊野古道が地域の方に愛されている様子を伺い知ることができました。
参詣者が社殿を伏して拝んだという伏拝王子から、熊野本宮大社に向けて参道を進むと、やがて左手に「ちょっと寄り道展望台」の標識が見えます。この展望台では、うっそうとした森の視界が開け、正面に熊野本宮大社の大鳥居を望むことができます。
休憩所のお母さん曰く、霧がかかっている日も多いので、大鳥居を見られた人はラッキーとのこと。幸いにも私が行ったタイミングでちょうど霧が晴れ、本当に神様が存在しているのかと思うほどの美しい光景にしばらく時間を忘れて、見入ってしまいました。
本宮大社に到着すると、多羅葉の御神木が私たちを迎えてくれます。
多羅葉の葉は傷を付けると、黒い線が付くことから、古くは爪で文字を書いて紙の代用にされていたため、「葉書」の語源になったと言われています。
このような由来から、御神木の下には黒い「八咫烏ポスト」が設置され、社務所で購入できる「八咫烏ポスト絵馬」を投函することができます。
サッカー日本代表のシンボルとして知られている八咫烏自体も、熊野三山にとって欠かせない存在ではありますが、長くなってしまうので、また次の機会にお話しいたしますね。
社殿を参拝したあとは、「ちょっと寄り道展望台」から見えた大鳥居がある大斎原へ。
熊野川、音無川、岩田川の合流点にある中州にあり、もともと本宮の社殿があった場所とのこと。明治時代の大水害での被害で社殿自体は遷座されましたが、大鳥居だけは残されています。
4月上旬に行ったため、見事な桜が咲いていました。
ちなみに、この大鳥居の高さは34mあり、日本一の高さを誇るそうです。
熊野詣が終わったあとは、熊野の歴史が学べる和歌山県世界遺産センターや熊野本宮館へ。道中に設置されている看板には、歴史上の人物の名前や年号がたくさん出てたのですが、その情報量の多さに処理が追いつかず、しっかりと復習させていただきました。
もう少し日本史を勉強しておけばよかった、と後悔しましたが、この施設では歴史や自然環境の説明がしっかりなされているので、腹落ちさせることができました。
周辺には数件カフェがあるので、バスの時間までのんびり休憩するのもよいかもしれません。
さらに熊野古道中辺路を楽しむために
熊野古道の中辺路ルートには、「熊野古道 中辺路押印帳」というスタンプラリーが用意されています。押印箇所は41箇所(2024年4月現在)。冊子は和歌山県内観光協会で1冊100円で購入することができます。
今回のルート上だと、熊野本宮館内の熊野本宮観光協会で購入しておくのがよいでしょう。
発心門王子〜熊野本宮大社のルートで、押印できたスタンプの数は6箇所。完歩まで道のりはまだまだ遠いようです。
自然信仰と歴史の長さを感じる熊野古道
自然の美しさと厳しさ、日本人の心のルーツを感じる熊野古道。
一見ただの林道に見えてしまいがちですが、その背後に隠れている壮大な歴史と信仰心の強さ、そして懐の深さは、日本が世界に誇れる「文化遺産」です。さらには、これらの目に見えないものを、次の世代に伝えていく地域の努力も目を見はるものがあります。
あなたも日本の心の原点を見出す旅を、熊野で体験してみませんか。
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