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餓 王 鋳金蟲篇

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紀元前十五世紀の古代インド。   このドラビィダ人が農耕と牧畜で生活している大地に、アーリア人が武力を持って侵入している時代。後のインダス川と名前を変えた七大河に戦乱が満ちている…
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2024年3月の記事一覧

餓 王 鋳金蟲篇 2-1

 闇夜の地平線には、プシュヤ星宿が浮かんでいた。  イ・ソフタでの逗留は数日に抑えた。  …

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 幕間

 適齢期というものがある。  恥ずかしながらの年齢を刻み、後悔の多い半生を振り返って、初…

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 1-5

 イ・ソフタは天空の要害都市である。  ヒンディークシ山脈のレーへ峠を越えた圏谷に位置す…

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 1-4

 曙の雲が七色にたなびいている。  光彩が時の経過で移ろう時間だ。  男は膝をついて嘆息し…

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 1-3

「小僧、何を企んでいる」  無言の重圧がひしめいている。迂闊であった。遠巻きに囲まれてい…

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 1-2

 これは興味深い。  私は待つことにした。  一応、錫杖棍は手元に置くことにした。  この…

百舌
7か月前
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餓 王 鋳金蟲篇 1−1

 中天に半月がかかっていた。  雨が近いのか、朧に霞を纏っている。  そのために星空が疎らで、天がひろく見えた。  私の眼でもそう映るのだ。おそらくは唯の人間には、星は見えることはあるまい。なぜなら私は途方もなく夜眼が効くのだ。  風が草原を嬲っていた。  半分枯れた葦原が風を受けて揺れている。そこには風だまりがあって、吹き倒されそうな突風があるらしい。巨人が、大鉈を振るっているようにも、女神の髪を巨大な櫛で梳かしてかしているようにも見えた。  ざぁっと風を孕んで灌木の梢が揺