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旧来、逃げ足は疾い方だ。 戦さ場では生死を分かつ。 その信条は前世譲りかな。 かの…
汚泥の澱が固まったような路地だ。 僕の靴先でさえ躊躇うような暗渠。 凡そ相応しくない…
やっとやっと。 再始動しようかと。 ああ、もう一年を経過してしまったよ、この原稿。 …
父は心肺停止状態だった、という。 文姉に服を貸して事情を聴きながら屋外へ出ると、横た…
重圧がふっと消えた。 まだ羽衣の傘の中だ。 史華姉、今はブン姉か。乱れていた呼吸が…
腐臭が漂ってきた。 それは飢えて渇ききった肉体となって、おろおろと細い腕を翳しながら…
白い霞が宙を舞う。 小魚の群れのように、霞 そのものに意思がある。 それが渦を巻いている。 本堂の、結界の周辺に漂っていたそれが向きを変えて、海岸底流がそこにあるかのようなうず潮が発生している。 その中心にあるのは父の眼だけど、今は怨念に満ちた形相をしていて、とても醜悪で直視したくない。かつてはその胸に無条件に飛び込んでいった父。彼が最凶の魍魎に囚われている。 だからこそ、祓ってあげたいと思う。 その眼を的に見立てて、今は破魔矢をつがえている。 正射正中。
目覚めた。 覚醒した瞬間に、そこがどこだか分からなかった。 布団の中で丸まっている。…
求厭の薄い肉体が変化を、した。 宜しい、我が魂魄を御覧じろ、と彼が呟いたその直後だっ…
中天に月が出ていた。 月齢は20日ほどで、ダイエット効果が出たのか目に見えておなかが凹…
破魔矢には鋒がない。 神事に用いるもので、およそ武器ではない。 獲物を射抜くための…
鏡、剣、勾玉と揃えば三種の神器でしょうよ。 求厭はそう言って、口を半開きにして笑った…
甘利助教は不在だった。 講義か、ゼミなのかも。 さあて手詰まりだよね。 教授棟の2階…
違和感があった。 怨霊の質問をした、男性の異様な姿だった。 彼が纏う服の細部がどうかも認識できない。 斜視の、蒼白い顔だけが中空に浮いている。 多英の眼に彼の存在を不審に思う色はない。 普段通りに見かける人のように捉えている。 別の学生が、それはもう大学生らしい姿の彼が質問をする。 「でも滞留電流に、電気体としての怨霊の意識が乗ったならば、そのような電流ってそもそも空中にあるんですか?静電気でも金属なんかに帯電しているものですよね」 質問が多発して、教授が満足