未来 湊かなえ+のんが紡ぐ世界の絶望
『未来』という湊かなえさんの小説をaudibleにて聴きました。
ナレーションはのんさんです。
『未来』 audible版
https://www.audible.co.jp/pd/B0C7L8GYX6?action_code=SNGGBWS072717001P&ipRedirectOverride=true
著者はイヤミスの女王ともいわれ、「告白」で一世を風靡した後味の悪い内容の作品が有名です。
こちらも、ものすごく重い内容ながらも続きが気になって仕方ない、救いがないその世界に引き込まれました。
最近はもっぱら本で活字を読むより、車を運転しながらの耳で本を聴くことのほうが多い気がします。
語り手がいることで、よりその世界が脳内で場面化されます。個人的にはaudibleにて聴いた作品はより記憶の中に残っているような感覚があります。
この未来という作品では、のんさんがナレーションしているのですが、表現力が他の作品よりはるかにずば抜けていました。
キャラクターの使い分けはもちろん、その心情も伝わるような喜怒哀楽の表現はすさまじく感じました。のんさんのナレーションがなければこんな感情を揺さぶられることはなかったのではないかと思います。
※ここからネタバレがあります
身近に転がりえる絶望
未来の自分からきた手紙からスタートする物語。文章を書くことが得意な章子が未来の自分に綴る手紙を中心に物語は進んでいきます。
ドリームランドに行きたいという希望、未来の自分からの手紙というファンタジー要素とは裏腹に章子を取りまく環境はドンドン最悪な方向に進んでいきます。
こんな悲しい少女の話なんて、あってはならないと感じつつ、確実に今の日本でも近くに転がっているような物語なんじゃないかと思います。
また、章子の周囲にいる少女たちもそれぞれは辛い家庭環境を抱えており、不幸の詰め合わせセットを見せられているような、ズシンと心に重しが乗る展開がひたすら続いていきます。
あとがき(湊さんははじめて書いたらしい)からわかるように、商業作品としてこのような見せ方をしたのではなく、実際に起こっていることでそれに目を向けてほしいというメッセージをひしひしと感じました。
こんなことはあってはならないと思いつつも、結局自分はこの実態をこの目で見ているわけでもないし関心があるわけでもない。
でもたしかに、この未来が見えない子供たちっていうのは自分の生きているこの世界に存在しているんだと考える、表現しようのない気持ちになります。
生きていれば未来で笑える日が来る
とても印象的だったのは、篠宮先生のエピソードです。
章子とありさの担任だった彼女も絶望した過去を持っていました。
篠宮自身も救いようがないような、ゆがんだ大人に搾取された過去があるわけですが、それでも彼女はなんとか夢をかなえて、かなえた後でも過去に足を引っ張られて、それでも生きていた彼女は決して不幸せな人生ではないのでしょう。
人生の絶望の淵にドリームランドで少しの希望をもらって、そしていつの日か「生きていてよかった」と思える日は来る。
そして、その想いを自分と同じような境遇の子供たちにも味わってほしい、『未来』を見せてあげたい。
傍観するのでも、搾取するのでもなく、章子やありさに生きていく希望を与えた篠宮先生の存在がこの物語の核であり救いなのではないかと個人的には感じました。
少しでも手を差し伸べられる大人でいたい
この物語に触れて、「ただただ考えられる作品であった」として娯楽作品として消化させるのは何か違うような気がします。
それでは実際に自分が何ができるのか。それについては答えようもないし、実際に行動に移せる気もしません。
おそらく、社会が便利に豊かになっていっても(そういう風に世界が見えても)こうした問題を抱える子供たちは確実にゼロにはなりません。親も教師も人間であって、人間は誰しもが完ぺきではないから。
ただ、もし自分のまわりに、見える範囲に、そういった境遇を持ってしまった人を見かけたら、ほんの少しに希望を分けられるような、搾取するのではなく与えてあげられるような、そんな大人でいたい。今ではそう思います。
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