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コクガン足環物語④ ~コクガン専門家会議~

前回までは、レナデルタで足環をつけたコクガンがアメリカで確認されたことを機に、国際会議で日ロ共同調査だけでなく、アメリカも中国も巻き込んでしまおうということで、呼びかけを行いました。

さて、この呼びかけをさらに作業レベルに落とし込んでいくためにはどうすればいいのでしょうか。

話は少し前に遡りますが、レナデルタで受け入れをしてくれたロシア科学アカデミー永久凍土研究所(ロシア・ヤクーツク)とトナカイの生態について共同研究をしている北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座の助教授から、
「ヤクーツクと北大で渡り鳥関連の共同研究を推進したいのでフライウェイ・パートナーシップについて話を聞かせてほしい」
と相談を受けていていました。

北大では、北極域研究推進プロジェクト「ArCS」を立ち上げており、その中の生態学研究の枠で渡り鳥の研究を推進していきたいとのこと。これ幸いと、コクガンの共同研究の話をしたのが2016年9月のこと。北大の予算で、レナデルタのコクガン調査でお世話になった研究者を日本に呼んで、今後の共同研究について話し合うワークショップを開催しようということになっていました。

これをさらに拡大して、アメリカ、中国の研究者も呼んで「コクガン専門家会議」にしてしまおう!!

ということになりました。

中国からは、フライウェイパートナーシップの会議で共同研究をしようと盛り上がった、中国科学院のCao Lei教授、アメリカからはアメリカ地質調査所の研究員で長年コクガンの調査研究をしており、カリフォルニアで回収された足環付きコクガンの仲介をしてくださったDavid Wardさん、ロシアからはレナデルタの調査の面倒をみていただいたInga Bysykatovaさんをお誘いすることとなりました。日本からもコクガンの調査研究に関わる関係者に声をかけました。

予算的に3月までに会議を開催しなければならない…。年度末の忙しいなか、なんとか合間をぬって、ワークショップの準備をしました。。。

プログラム・議題の検討から、参加者の調整・Visaの書類作成、コクガン捕獲の許可関係、発表資料作成、さらには会議中のご飯の献立など(北大の臨海実験所を借りたので、食事は自前で準備が必要)、、、

準備は大変でしたが、無事にロシア、アメリカ、中国、日本のコクガン研究者が一堂に会する会議の開催にまでこぎつけることができました。

■ コクガン専門家会議

コクガン専門家会議は、下記の通り無事開催することができました。

【コクガン専門家会議】
 開催期間:2017年3月18~20日
 開催場所:北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター
      水圏ステーション 臼尻水産実験所
 参加者:12名

今回の会議でのゴールは、

「今後の調査・研究プランをたて、各研究者の役割分担を明確にすること」

でした。
下心としては、中国、アメリカから発信器を提供してもらう名目を作る、ということでした。

そのためのプログラムを組み、日本、中国の越冬地における最新情報の共有、アメリカの一大中継地であるアイゼンベックで実施しているモニタリングの解析など、既存の情報を共有した後、東アジアにおける研究課題を整理しました。

日本からは、嶋田さんらが南三陸で捕獲したコクガンの春の衛星追跡調査の結果のほか、道東コクガンネットワークから石下さんに日本全国でのコクガン調査の結果を発表いただきました。

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【関連論文】
Shimada, Tetsuo, et al. "Spring migration of Brent Geese wintering in Japan extends into Russian high arctic." Ornithological Science 16.2 (2017): 159-162.
藤井薫. "日本におけるコクガンの個体数と分布 (2014-2017 年)." Bird Research 13 (2017): A69-A77.

特に、石下さんの発表では、秋の渡りで8600羽が道東を中心に確認されるのに、越冬期には日本全国で2500羽しか確認されず、約6000羽の行方がわかっていないことが課題として挙げられました。

中国からは、コクガンの確認記録のまとめが発表されましたが、主要な記録は黄海の山東半島で1200羽の観察記録が1990年代にあるのみで、中国における定期的な越冬地は不明であることが共有されました。

これらのことから、東アジアのコクガンの全体像を把握するためには、以下が最優先であるとの結論になりました。

・野付湾に秋に飛来するコクガンを捕獲し、追跡することで、不明となっている中国・朝鮮半島の越冬地を明らかにする
・明らかになった越冬地において、現地調査を実施し越冬状況を把握する
・東アジアに飛来する個体群の繁殖地を特定する

そして、野付湾での追跡調査をするために、

・中国科学院から30個の発信器を提供
・アメリカ地質調査所から発信器および技術提供を実施
・日本のチームが野付で捕獲するための準備と資金調達

を実施する共同研究が立ち上がりました。

おや?ロシアは?

と思ったあなた。
ロシアは、繁殖地特定後に現地調査で協力することになりました。
会議の報告書はこちら↓

3日間の会議は、大変有意義なものになり、中国のCaoさんからも
「共同研究をこんな風にたちあげるのは初めて。今後の参考にする」
と言っていただけました。

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懇親会も盛り上がり、エクスカーションでのコクガン捕獲も成功し、これからのプロジェクトの幸先のよい素晴らしいスタートが切れました。

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食事は、近くの居酒屋での海の幸をふんだんに使った懇親会のほか、生姜焼きやうどん、カレーなどをみなでわいわい作りながら合宿のように楽しみました。

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(つづく)

渡り鳥の研究には、旅費や発信器購入、罠の作成など、そこそこのお金がかかります。もちろん科研費や助成金などを最大限獲得していますが、それだけでは大変厳しく、手弁当も多いです。渡り鳥についてもっと知ってみたいという方々のご支援よろしくお願いします。