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ユリカモメってどんな鳥!? ~ユリカモメの足環調査~

このページでは、秋から春にかけて日本に渡ってくる渡り鳥の”ユリカモメ”について、どんな鳥なのかを私の研究内容を含めて解説していきます。

1.ユリカモメってどんな鳥?

ユリカモメという鳥を皆さんはご存知でしょうか?
冬になると、海や川沿いにやってくる、体長40cmくらいのカモメの仲間です。

この動画は東京都の隅田川で撮影しました。気持ちよさそうですね。
ユリカモメは、とても観察しやすい身近な冬鳥なので、東京都福岡県福岡市滋賀県大津市など、いろいろなところで、「自治体の鳥」として指定されています。

日本には8月上旬には、北海道などの一部地域に渡来します。10月下旬以降になると本州でも見られはじめ、冬の間は、九州北部から関東地方にかけて、海辺だけでなく河川や湖沼などの内陸部などで多く見られます。3月中旬ごろから、繁殖地に北帰をはじめ、4月下旬にはほぼ、日本からいなくなります。

2.冬こそ美白夏は顔黒

白くてふっくらしていて、かわいらしいユリカモメ。
英語名は「Black-headed Gull」と呼ばれています。

どういうことでしょうか?
実はユリカモメは、繁殖期になると、頭が真っ黒な羽に生え変わります。これは、繁殖ができる年齢に達していて、なおかつ、繁殖準備ができているよというサインなのです。
昨年の春に生まれた1歳以下の個体は、頭が真っ黒にはなりません。

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冬羽のユリカモメ(2月) ⇒ 冬こそ美白

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夏羽のユリカモメ(4月) ⇒ 夏はガングロ

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冬羽から夏羽に換羽中のユリカモメ(4月)

日本で越冬している間は、頭が白の冬羽に生え変わっていますが、4月頃になると日本でも頭が黒いユリカモメを見ることができます。

3.ユリカモメの故郷は??

秋から春にかけてやってくるユリカモメ。夏はどこにいるのでしょうか?

ユリカモメなど、冬に日本に渡ってくる渡り鳥は、”冬鳥”とよばれ、その多くがロシアやアラスカなど北の大地で春から夏にかけて繁殖します。
ユリカモメは、とても分布域が広い鳥で、ユーラシア大陸北部で広く繁殖し、日本からインド、そしてヨーロッパ方面まで広い範囲で冬を越します。

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黄色が繁殖域で、青が越冬域です(BirdLife Internationalより)。

ユリカモメは、水辺の草原に集団で巣をつくり、子育てをします。(写真は6月中旬にアイスランドで撮影)

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日本にやってくるユリカモメはというと、ロシアのカムチャツカ半島などで繁殖した個体が、日本で越冬していることがわかっています。

なぜ、カムチャツカ半島で繁殖したユリカモメが日本にやってくるとわかったのでしょうか??


4.標識調査によって明らかになる渡り鳥の旅

渡り鳥がどこから来るのか。それを調べるために、鳥に足環をつけてその移動を調べる”鳥類標識調査”が古くからおこなわれています。日本では、1924年から実施されています。

日本にやってくるユリカモメも、標識調査によりその故郷が明らかになりました。きっかけは、40年以上前に遡ります。

1978年から79年の冬、脚に金属の環をつけたユリカモメが、京都をはじめ各地で確認されました。ユリカモメに着目していた京都の研究者が、これが鳥類標識調査によるものと思い至ったのですが、当時の日本でユリカモメに実施しているという記録は無かったのです。

これはもしかして、、、と思っているところ、

1979年2月25日 大阪府岸和田市久米田池で保護されたユリカモメ幼鳥にソ連の足環がついていることが明らかになったのです。その後、モスクワの鳥類標識センターに手紙で問い合わせをし、

1980年4月、ついに調査をしている人の情報が記された返事が来たのです。そこには、1978年にカムチャツカ半島でユリカモメの標識をしたということが書かれており、日本に飛来するユリカモメの故郷の一つが明らかになったのです。

この標識調査の蓄積により、日本に飛来するユリカモメは、カムチャツカ半島やシベリア東部の北極圏から飛来することが明らかになりました。

下図の白い線は、1羽のユリカモメが標識された場所と再確認された場所を結んだものです(環境省 生物多様性センター 鳥類アトラスより)。

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1970年代は冷戦時代。カムチャツカ半島のあるロシアの極東部は、アメリカに近く、西側諸国である日本の研究者が渡航することは不可能でした。そんな中、ユリカモメが日本とソ連の研究者をつなげてくれたのです。

この繋がりは、のちにガン類の渡りの調査と保護に発展していきます。


5.冬のユリカモメの行動を調べる!

日本では、ユリカモメの標識調査は1980年代に、上述の京都の研究者によって関西で始められ、京都に昼間にやってくるユリカモメは、琵琶湖や大阪湾でねぐらをとることなどが明らかになってきました。

私は学生時代、京都でユリカモメ調査の手伝いをしていましたが、仕事で東京に移り住んだことを機に、2010年から東京都墨田川でユリカモメの標識調査を始めることになりました

関東地方では、ユリカモメの標識調査はほとんどされていませんでしたので、冬の間、ユリカモメがどのような動きをしているのかは、わかっていませんでした。そこで、ユリカモメに足環をつけ、観察情報を集めることで、ユリカモメの冬の間の行動範囲を調べることにしたのです。

調査拠点は隅田川の吾妻橋近辺です。

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ここで、ユリカモメに2010年から足環を装着し始めました。2020年3月までに約400羽に足環を装着しています。

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4Tの番号を付けたユリカモメ。

足環をつけたユリカモメをみた観察者の方々から、連絡をいただき、のべ観察回数は約4000件にも上っています。

遠くはカムチャツカからですが、そのほとんどは関東地方に集中しています。

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関東地方を拡大してみると、東京湾沿岸部の西側からさらには、川沿いに内陸部にまで広がっています。

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ユリカモメの中にも個性があるようで、冬の間、ほぼ同じ場所で観察されるものもいれば、広く動き回っているものもいます。今後、さらに詳しい解析をしていきたいと考えています。

6.足環付きのユリカモメを見つけたら!

現在、ユリカモメの標識調査は、関東の他、関西、九州で行われています。

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それぞれの調査ごとの連絡先が、日本鳥類標識協会のウェブページにまとめられています。

 ▶ 日本鳥類標識協会 カラーマーキングの部屋

皆さんから寄せられる、足環付きのユリカモメの観察情報が、ユリカモメの生態解明の第一歩となります。

冬の間、水辺に出かけた際は、ぜひともユリカモメを気にしていただければと思います。足環がついた鳥を発見すると、いつもの散歩道がまた違った景色に見えてくると思います。

渡り鳥の研究には、旅費や発信器購入、罠の作成など、そこそこのお金がかかります。もちろん科研費や助成金などを最大限獲得していますが、それだけでは大変厳しく、手弁当も多いです。渡り鳥についてもっと知ってみたいという方々のご支援よろしくお願いします。