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カリガネ研究のスタートライン

■ カリガネ個体群の現状 

 カリガネAnser erythropusは,スカンジナビア半島からユーラシア大陸の東端まで広く繁殖する鳥類で、繁殖域と渡り経路によって、3つの地域個体群(フェノスカンジア個体群、西側主要個体群、東側主要個体群)に分けられています。全世界での個体数は,24,000-40,000羽と推定されており、IUCNのレッドリストでは,危急種(Vulnerable)に(BirdLife International 2020)、環境省レッドリストでは、絶滅危惧IB類に指定されています(環境省 2014)。

詳細はこちら→ カリガネ識別資料

日本においては、2010年代にまとまった群れが観察されるようになってから、小数ながらも個体数が増加傾向にあり、2019/2020シーズンには300羽を超す数が宮城県伊豆沼周辺で越冬するようになってきました。

しかし、海外に目を向けると、中国では主要な越冬地であった東洞庭湖の環境悪化により、2011年には14,000-19,000羽だった個体数が、2020年には4,190羽と急激に減少していることが報告されています(Ao et al. 2020)。

日本の個体数の増加は、この中国での減少と関連している可能性があり、決して喜ばしいことではなく、早急な研究と対策が必要な状況です。

そこで、日本における越冬生態、渡りルート解明のため、2020年よりカリガネの捕獲調査を開始することになりました。

■ カリガネの捕獲調査に向けて

カリガネに関わらず、鳥の捕獲には入念な準備が必要です。ましてや相手は、日本にまだ300羽しかいない希少な鳥。日本に20万羽以上が飛来するマガンと行動を共にすることも多く、その中からカリガネを捕獲するのは至難の業です。

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捕獲にあたっては、雁の里親友の会により、これまで蓄積してきた観察データをもとに、カリガネの利用頻度が高い牧草地を割り出すことから始まります。そして、そこで捕獲ができるように地主さんを探し、罠を仕掛けていいのかの許可を得なければなりません。

そうした下準備に加え、捕獲のための罠の準備や捕獲許可申請なども進めていくことになります。

そして捕獲調査2週間前には、事前に現地の下見を実施し、罠設置場所の実地確認をしていきました。

■ 2020年捕獲調査速報

上記の準備を経て、2020年11月28日から12月4日かけて、宮城県伊豆沼周辺で、カリガネの捕獲調査を実施しました。

罠を仕掛けるには、雁がねぐらから飛び立つよりも前に行わなければなりませんので、毎朝5時過ぎに現地に到着し、罠の設置を開始します。それから雁がねぐらに帰る16:30頃まで調査です。

カリガネの主な食物は牧草などの草。落ち穂を食べるマガンと違い、人がまいた餌には寄ってきません。罠の位置は、日々、カリガネの行動を見つつ設置場所を変更したりしなければなりませんでした。

なにせ、まだ日本ではだれも捕獲に挑戦したことがない種です。
ほぼすべてが手探り状態。
罠の近くにまでカリガネが来ることもありましたが、射程内にはなかなか入りません。さらには、オオタカやオジロワシ、ネコ、犬、ヘリコプターなどにより、罠の近くに来そうな鳥たちが驚いて一斉に飛び去ってしまうこともしばしば。
そうこうしているうちに、3日がすぎ、4日が過ぎ…と時間ばかりたっていき、我慢が続く展開となりました。

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そして12月3日午前、今までで一番いい感じで罠に近づいてきているところに、近くで電線工事が入り、一斉に飛び立ってしまうという予想外の事態。

しかし影響は少なかったようで、午後にはまた戻ってきました。いよいよ1羽が射程に入ったところで、罠を作動し、見事にカリガネ1羽、マガン23羽を捕獲することができました。

■ カリガネ・マガン標識情報

今回、捕獲したカリガネ、マガンの標識情報は以下の通りです。

【カリガネ】
 右足に金属リング、首に発信器を装着

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【マガン】
 右足に金属リング、首に発信器を装着 → 4個体

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 右足に金属リング、首輪で標識 → 3個体(E01、E17、E18)
 その他、右足に金属リングのみ → 4個体

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発信器を装着したカリガネや、標識を装着したマガンを見つけた方は、
 sawaアットマークyamashina.or.jp
までご連絡いただければ幸いです。

*本研究は、雁の里親友の会、山階鳥類研究所の共同研究として、地球環境基金の助成を受けて実施しています。

渡り鳥の研究には、旅費や発信器購入、罠の作成など、そこそこのお金がかかります。もちろん科研費や助成金などを最大限獲得していますが、それだけでは大変厳しく、手弁当も多いです。渡り鳥についてもっと知ってみたいという方々のご支援よろしくお願いします。