【Web3書籍紹介】『中学生にも分かるWeb3』(Kindle用電子書籍)
本の情報
こういう人にオススメ!
会社から「何でもいいからWeb3をやれ!」と厳命されたが、したいこと・すべきことがまずあってから、方法の一つとしてWeb3(だいたいはブロックチェーンをふんわり指していそうだがWeb3だと連呼されてそういう指摘もしづらい!)を選択すべきだというのを、なるべくページ数が少ない本を上司に読んでもらうことで納得させたい人
ビジョナリーが煽り気味に書いているWeb3本を読んでしまって「これからはWeb3だ!」と息巻いている社長に、「これが社会的に客観視した場合の堅実なドキュメントです」と読んでもらうことで熱を冷ましたい人
Web3に関して淡々としたまとめを読みたい人
総評
Kindleで出版されており自費出版物といえるが、内容的に編集行為が要るほどの複雑な(≒妄想と現実が錯綜するような)構成ではないため、多少の誤字衍字を除けばクオリティに全く問題がない。
1ページあたりの文字数も少ないのでスラスラ読める。難しい本を何ページも読むことができないという人であっても、NFTのプログラミング含む実践的・体験的な内容が始まる79ページまでで良いので、是非読んでほしい、読ませてほしい。
技術としての特長と、それが必ずしも多くのサービスに必要かどうかということについてはとても冷静で、ニーズとシーズの混同が無い。「打つべき釘を探しているハンマー」の例えはまったくそのとおり。
ぼくの私見ですが、ビットコインが最初期に登場しながらそれがブロックチェーン技術を用いた最たるものである故の不幸(とぼくは思う)が浮き彫りになっていると思うのですよね。誕生して10年、さして社会へソリューションを提供していない技術。GameFiは貧困国に新たな労働をもたらしたみたいなポンジスキーム隠しの妄言は聞き飽きたというか。
ビジョナリーや投資家が言わないで済ませておきたい内容にしっかり踏み込んでいるのもポイントが高い。
例えば、ブロックチェーンの演算が世界中でどれくらいの電力を消費するのかについて、他のWeb3書籍がほとんど「SDGs観点からの批判もある」程度で濁しているところ、試算が書かれている。
さらに「the DAO事件」についても触れられており、ブロックチェーンを用いたサービスがすなわち堅牢かというとそんなわけではなく、結局はデプロイしたら基本的に修正できないスマートコントラクトを綿密に書ける人間次第という点を、思い起こさせてくれる。
実態の見えないWeb3へ悪辣な批判を浴びせるのではなく、淡々と問題点を並べていくことにより、読後感として、新たな技術への地に足のついた期待と、それを隠れ蓑にした胡乱なものへの失望の、バランスのよい視点が養われていることと思う。
中学生でもわかるシリーズだけに、定期テスト前に読み返したいまとめノート的な一冊。
各章の解説はしませんが…
本書がそもそもわかりやすいため、各章に何が書いてあるかの解説は割愛する。だが、何を扱っているのかを示すと「これだけの内容をこんなにコンパクトに説明できるのか!」という驚きがあるので、さきほど読んでほしいと書いた79ページまでを下記に目次的に羅列し、見どころは字下げして記載する。
※各章タイトルはアルファベット大文字で記載されているが、読みやすさのために先頭のみ大文字にする等加工している。
Web3とはなにか
Satoshi Nakamoto、ブロックチェーン、ビットコイン
ナカモトサトシの論文に記されている「二重支払い(double spending)」に言及している書籍が少ない中、これを説明しているのは珍しい。
暗号通貨
マイニング、電力消費問題、ガス代
既存のデータベースの処理の説明があるため、その後のブロックチェーンの計算が何を行っているのかがわかりやすい。
電力消費の試算を見ると驚くので、是非該当箇所(P.20)を読んでほしい。
Ethreum、スマートコントラクト、Solidity
ICO、ICOブーム、スピンドル事件、IEO
詐欺にも似た投資について警鐘を鳴らす箇所は、何度でも読み返すべきだと思う。
NFTとデジタルアート
NFTの手数料とロイヤリティ
ロイヤリティの仕組みが現状取引プラットフォーム(OpenSea等)依存であることをきちんと書いてある。これも珍しい。他書籍では理想だけ書いて、それが限定的なものであることを記載しないものが多い。
ジェネラティブNFT
NFTブーム、コミュニティ、ホワイトリスト
先行者利益について『その原資は、「インフルエンサーのポジショントークに影響されて後から参加した人たち」の財布から来ているのです。』(P.43)とバッサリ斬り捨てるのが小気味よい。
Rug Pull
日本語でいうところの「ハシゴを外す」に近い表現がNFT界隈でも使われているのが面白い。そんなんばっか。
Web3の本質と、現状のWeb3が持つ課題
Web1やWeb2については、Web3という言葉が出てから比較のために生まれたので、当時からそう呼ばれていたわけではなく、Web1.0やWeb2.0とも使い道の違う言葉である旨の補足がほしかった。
Web3業界の病巣・リスクが端的に書かれているので、ここも何度でも読み返したい。
WWW、CGI、AJAX、SPA、Dapps
Web2.0的(GAFAM的)サービス、システムの仕組みの初歩を解説しており、これがあるおかげでブロックチェーンやスマートコントラクトが何をしているかが大変にわかりやすくなっている。
DAO, the DAO, Nouns DAO
「打つべき釘を探しているハンマー」言い得て妙。そういうことがブロックチェーンの話題には多い。ひろゆきにでも「それってブロックチェーンじゃなくてもできますよね?」って言ってもらい、小馬鹿にするスタンスを流行らせてほしいくらいだ。
通常のサービスなら重複処理を避けるために処理中のDB(レコード)をロックする等の実装をするものだが、サービス開発経験が少なくそういったイロハがわからない技術者がスマートコントラクトでトークン処理を実装したため、脆弱性を突かれて大量のトークンが流出して損失した「the DAO事件」を取り上げている。これも他の書籍では見てみぬふりをされていることが多い。
DAOの本質が記載されているP.62は必見。
スマートコントラクトを使った「中抜き組織」の排除
DeFi、GameFi、暗号通貨交換所
Play2Earn、Move2Earn、X2Earn ゲーム
ポンジスキームへの批判
同時に「ガチャ」への批判も並べられているが、これを弱者から搾取するスタイルと定義していることについては、ぼくは違和感を感じ、反対。
Web1とWeb2は性欲、Web3は金欲
The Marge、レイヤー2
ガバナンス・トークン
現実の株式の仕組みを説明。確かにここから説明しないとわからない人は多いはず。
(以上)
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