短編小説「くれたもの」
「これあげるよ」
まさきくんがそう言って、車のおもちゃをくれた。
かっこいい、赤の車。
昨日までは欲しかったけど、なんかもういらないなぁ。
「いつも、遊んでくれてありがとう」
のぞみちゃんは手紙をくれた。
ピンクの可愛い手紙。
かわいい字で一生懸命書いた手紙だ。
いつまでもともだちだよ、と書いてある。
「よしきくんが一番好きだった、おやつだよ」
けいこ先生がそう言いながら、クッキーをくれた。
チョコチップのクッキーだ。
おやつの時間にこれが出てくると僕は嬉しくて飛び跳ねる。
「喉が乾いたらこれを飲んでね」
けいたくんとそのお母さんがそう言いながらお水とオレンジジュースをくれた。
ありがとう。
だけど、喉は乾いてないなぁ。
「もうすぐ寒くなるからね」
そう言っておばあちゃんがセーターをくれた。
僕が好きな青色のセーターだ。
つい嬉しくて、僕が喜ぶとおばあちゃんは泣いていた。
「綺麗なお花だよ」
白いお花と黄色いお花をおじいちゃんがくれた。
「愛してる」
おかあさんとおとうさんはそう言いながら、お花とおやつとおもちゃをくれた。
まるで何かのお祝いみたいだ。
嬉しくなった僕はみんなにお礼を言う。
「ありがとう」
だけど誰も答えてくれない。
ポタポタと地面にお水が落ちた。
雨かな?
そう思って見上げるとおかあさんもおとうさんが泣いている。
「ごめんね」
どうして謝っているの?
「ごめんね」
どうしたの?
おかあさん、悲しいの?
おとうさん、痛いの?
「守ってあげられなくてごめんね」
「どうして・・・・・・よしきがどうして・・・・・・」
僕の声は届かなくて、おかあさんもおとうさんもずっと泣いている。
二人が泣いていると僕も悲しい。だけど涙は出なかった。
僕はおかあさんとおとうさんの手を握ろうとした。
でも僕の手は何もないみたいにすり抜ける。
おかしいなぁ、と思っているとおとうさんが泣きながらこう言った。
「なんでよしきが死ななきゃならなかったんだ。あの車さえ、公園に突っ込んでこなければ・・・・・・あの、車さえ・・・・・・」
そこで僕は思い出した。
「そうか、僕は死んだんだ」
誰にも届かない僕の声。
公園で遊んでいたら、大きな車がぶつかって、気付いたらここにいた。
寂しくなったり、悲しくなったりしたけれど、おかあさんとおとうさんが泣いているのが一番嫌だ。
だから僕は泣かないことにする。
僕にはみんながくれたものがあるんだ。
おもちゃをくれた。
手紙をくれた。
おやつをくれた。
ジュースをくれた。
お花をくれた。
そして、いっぱいの愛情をくれた。
そのいっぱいのものを持って僕はいくよ。
そう思った途端暖かなものに包まれた。
最後に言葉を伝えられるならこう言いたい。
「僕は幸せだよ」
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