【音声】「再演される戀の話」【台本】

兄さん
 妹と二人で暮らしている男性。妹のことを大切にしている。
 実は大富豪。本名はソワール


 兄と二人暮らしをしている。
 不器用で努力家
 普段は兄に「シュシュ(お気に入り)」と呼ばれてる。
 本名は「エール」

シーン1
朝・自宅
妹、ベッドで体だけ起こしている。
首を傾げながら、呟いている。

妹「あれ……私……って誰……」

兄「おはよう、シュシュ。どうしたの、寝坊するなんて珍しい」

妹「え、え、あっ!」

兄「どうしたの……手の動きが面白すぎるけど」

妹「ううん、な、何でもない……えっと、おはよう、兄さん……?」

兄「うん、シュシュ、おはよう」

妹「ちょ、ちょっと! 女の子の部屋に勝手に入らないでよ!」

兄「わっ、わっ。君が遅れるのが悪いだろう。朝ご飯は冷めるし、このままだと春の歌も聴けなくなってしまうだろ」

妹「そうだ今日は、セイレーンの歌の日!」

兄「うん……早くおいで。なかなか聞けないんだからね」

妹「すぐに着替えるからっ、まってて!」

兄「はいはい……」

妹「あ、それと! いい加減にその呼び方止めてよね」

兄「んー?」

妹「シュシュって言い方。いい加減、それなりに年なんだから……。私、小っちゃい子じゃないし」

兄「んー、どうしようかなぁ」

妹「もう、ちゃんと聞いてないし!(ベッドから立ち上がる)兄さん、ちょっと……ひゃっ」

妹、突然よろける。
兄、とっさに近づいて背中を支える。

妹「あっ……ごめん」

兄「ううん、足がびっくりしてるんだね……立つのが、不慣れなのかな」

妹「兄さん……? って、何言ってるの。私もう十九じゃない」

兄「(からかうように)うん、知ってる。でもシュシュは不器用なところがあるからなぁ」

妹「うっさいうっさい、いつか兄さんより器用になるんだから!」

兄「ふふ、楽しみにしているよ」

時間経過
台所
兄と妹は食事する

兄「セイレーンと称される歌姫か。一年に一度しか来ないから、このときが来ると、もう一年が経ったのかとおもうよ」

妹「早いなぁ……去年はどんな歌を歌ってたっけ」

兄「……ああ、そうだね。なんというか何を歌うかは彼女の気分次第だから、素人が聞いてもよく分からないさ」

妹「でも、あの歌は好きなの」

兄「ああ、そういえば毎度終わってから君は言うんだよね。絶対来年はもっと良い席できくんだーって。まあ……僕らいつも運がなくて、端の席だから」

妹「今年はどうなの?」

兄「端だねぇ」

妹「あぁ……残念」

兄「うん、そうだね……」

 時間経過
 音楽が流れている祭り会場
 セイレーンの歌姫が兄と妹のいる観客の前で立っている。

妹「わー、歌姫がいるー。でも小っちゃくて、顔まではっきり見えないや」

兄「席が悪いからねぇ」

妹「来年は、もっと良い席をとってよね。兄さん」

兄「来年も、君がついてこれたら、きっと良い席になるよ」

妹「なにそれー、変なこと言って」

兄「だってシュシュがチケットとりの時にいなかったから、この席なんだよ」

妹「え、嘘……」

兄「ホントだよー」

妹「それは悪かったね、来年は協力する、協力……」

ノイズの走る音
妹、自分の胸元をさする。

兄「どうしたんだい?」

妹「ううん、なんか急に寒気がして」

兄「……寒気」

妹「なんだか変な気分になったの、なんだかむつかしい気分」

兄「君がそんなことを言うなんて……これからカミナリかな」

妹「何よ、それー!!」

兄「ははっ……あ、そろそろ始まりそうだよ」

妹「あぁ……うん……そうだ、兄さん」

兄「なんだい?」

妹「ああー……なんでもない」

兄「(小さく笑いながら)変なの」
 
シーン2
夏・自宅
台所のテーブルで伸びてる妹

兄「もー、全力疾走して足ひねるなんて、ドジだなぁ」

妹「だって、猫が、猫がいたんだもん」

兄「猫って、どこにでもいるでしょ」

妹「だってここって町から離れてるから……生き物が新鮮なんだもん」

兄「その言い方はアレだねー狩りをする人みたいだね、獲物を見つけたみたいな」

妹「猫は食べません!」

兄「知ってるよ、猫のステーキなんてぞっとする」

妹「うん、そうだよぉ」

兄「……寂しいのかな。いつも僕と二人だし」

妹「いや、そんなことは」

兄「ホント?」

妹「ほんとう」

兄「そっか」 

妹「そうなのー」

兄「ふふ、ありがとシュシュ」

妹「ずっと……こんな風にいられるといいね」

兄「そうだね……」

時間経過
台所で工作をしている妹
 
妹「貝殻……丸いガラス……りゅうぼく……」

兄「結構たまっているね、もうこんなにたまっていたのか」

妹「砂も綺麗に洗われてて……箱に敷き詰めたら綺麗だろうね」

兄「うん、これで何をつくるの」

妹「そうだな……箱庭、とか? 海と砂浜に、私と、兄さんと……」

兄「閉じ込めちゃうの? 僕たちを」

妹「閉じ込めちゃうのかな、私たちを」

兄「その中なら、永遠かな……」

妹「永遠?」

兄「永遠に、君は可愛いシュシュだよ……」

妹「またぁ、子供扱いして」

兄「子供扱いしてないよ」

妹「ほんとにぃ?」

兄「ホントに。僕の大事な妹だよ」

妹「……」

兄「どうしたの?」

妹「ううん、箱庭……うまく出来るといいな」

兄「うん……」

妹「あっ、兄さん」

兄「なんだい」

妹「この近くに、海があるよね」

兄「うん」

妹「私も、何か拾いたいな……」

時間経過
砂浜
兄と妹は海を眺めている

兄「どうだい、何か拾えた?」

妹「ガラス……この丸い碧(みどり)、きれいじゃない?」

兄「うん」

妹「箱庭で、海の色になると思うの。深い碧と蒼……きれいだろうなぁ」

兄「海か」

妹「うん、どう思う、兄さん」

兄「うん、良いと思う」

妹「うーん、次は流木、見つけられるかなぁ。いいのがあると思うけど」

兄「そうだね……あ、シュシュ、あそこに鯨がいるよ」

妹「わっ、すごい」

兄「うん、潮吹いてる、高いね」

妹「ん? もしかして……二匹、いるのかな、いるよね! 親子、兄妹かな」

兄「もしかしたら、恋人同士なのかもしれない」

妹「えっ」

兄「きっと、長い旅をしてるんだよ。仲良くね」

妹「……そうかな」

兄「……そうだよ」

妹「不思議な感じがするね……海を泳いで、泳いで、どこに行くのか」

兄「さあ? ただ……こんな話があるらしいよ」

兄、妹に水筒のコーヒーを手渡す。
 
妹「あ、おいしそう……いい匂いだね」

兄「僕、お手製のアイスコーヒー」

妹「ふふ、それで? どんな話をしようとしたの兄さん」

兄「ああ、うん……あのね……ここからずっと遠い、北の海に、鯨の墓があるんだよ」

妹「鯨の墓……」

兄「雪と氷でかたまった土地に、鯨の死体が行き着くんだ……やがて鯨は骨になる。白いピカピカの。そんなものがいくつも、そこにはあるんだ」

妹「すごい場所だね」

兄「ああ、月に照らされると……とても悲しいくらいきれいらしい」

妹「そうなんだ……もし恋人同士の鯨が一匹死んだら、そこに行き着くのね」

兄「辛いねぇ、置いていかれた側は」

妹「そうだね……私なら、歌を歌うかも」

兄「歌?」

妹「歌」

兄「どうして?」

妹「そりゃあ、忘れないためだよ……相手との思い出を歌うの、愛を、歌うのよ」

兄「……」

妹「忘れなきゃ、永遠だもの」

兄「……コーヒーぬるくなるよ、早く……飲みなよ」
 
時間経過
二人は家路についている。
歩きながら、妹は遠くを指差す。

妹「兄さん……あの丘はなんだろう」

兄「え?」

妹「前から気になっていたの……あの丘、どうしてあんなに烏がいるのかな」

兄「ああ、あそこは墓なんだ。たくさん、あるからね」

妹「そうなんだ」

兄「うん……僕らには、関係のないところだよ」

妹「そう……」

シーン3
台所、兄は机に突っ伏して寝ている。
妹は兄の顔をのぞきこんでる。

妹「兄さん……こんなところで寝ちゃだめだよ。最近冷えてきたんだから……もう、秋も終わりなんだよ」

兄「(寝息)」

妹「駄目だなぁ、兄さんは。私のこと、心配してばっかりなのに、それなのにこの始末。情けないですねぇ」

兄「(寝息)」

妹「兄さん、兄さんってば……ほんとに、起きないんだね……」

兄「……」

妹「(額にキスする)ん……。ああ、どうして私……」

妹駆け足で自室に戻る。
兄、目を開ける。

兄「……そうか、君もか。また、なのか……」

時間経過
 
シーン4
妹の寝室
妹は寝込んでおり、兄が看病している。
窓の外は吹雪いており、兄は窓から眺めている。

妹「ん、んん」

兄「……起きたんだね、シュシュ」

妹「うん……ずいぶん、寝てたみたい」

兄「そうだね、よく休んでた。熱はひかないね」

妹「ありがとう、ここ最近、ずっと看病してくれて」

兄「いいよ、大丈夫だ」

妹「雪が降ってるね……ひどい、吹雪」

兄「そうだね、何にも見えない」

妹「世界で二人きり、みたいだね」

兄「そうかもね……シュシュ」

妹「あのね、最近分かったの……どうして兄さんが、名前じゃなくて、シュシュと呼ぶのか」

兄「それはどういう」

妹「んー、んー……その前に、聞きたいことがあって」

兄「なんだい」

妹「私は、何人目の私なの?」

兄「君は……そうか、気づいていたのか」

妹「私は何人もいた……そうなんでしょ」

兄「……そうだよ、君は僕の妹のクローンだ。去年の春先に生まれた」

妹「クローンだから、こんなに体が弱いの?」

兄「いや……そんなことは、そんなことにはならないはずなんだ。だけど、いつもこうなる……」

妹「兄さんは……どうして、妹を……ううん、違う、兄さんは」

兄「……」

妹「今度こそ、妹が欲しかったんだ。だから私が思い出さないように、シュシュと呼んだ」

兄「君はどこまで……」

妹「分かるの……私たちは分かってるの。私たちのはじまりが教えてくれる……」

兄「やめろシュシュ……やめてくれ」

妹「ねえ、兄さん……ううん、ソワール。私たちは」

兄「(崩れ落ちるように)あぁ……」

妹「恋人だった……」

シーン5
回想
十年前
納屋の中

妹「ソワール、あったかいわ……どうしてなのかな。私と全然違う」

兄「……エール、君は冷たいね、手も、足も」

妹「ずっとこのままでいたいな……」

兄「ああ……もどったら、また兄妹だ……」

妹「……ねえ、ソワール、どんなことがあっても好きだよ、だから、もう少しだけ……」

兄「ああ……エール……君をどうやったら」

妹「うん……」

兄「(キスをしながら)幸せに出来るかな」 

時間経過
雨・小屋の中

兄「……エール、こんなに弱って……僕のせいだ、僕の……」

妹「はあ、はあ、ソワール……」

兄「僕が君に恋をしなければ……こんなことには。エールが町から追い出されることはなかったのに」

妹「いいの……魔女と呼ばれても、良いの。兄をたぶらかしたって詰(なじ)られてもかまわないから……」

兄「そんな! 僕が最初だったのに、何故君がっ」

妹「兄さんはすごいから、皆期待してるのよ……早く、町にもどって……私は大丈夫」

兄「離れるものか!! 君を置いて、離れるものかっ」

妹「嬉しい……ああ、本当に愛して良かった……大好きよ、大好き……ソワール……」

兄「エール……? エールっ! 目を覚ましてくれ!! ……そんな、嘘だろ……嘘だ……エール、エール!!」

シーン6
現在
妹の私室

兄「あの時、僕はエールを失った……何度だって夢に見る、あのときことを。僕が彼女と恋に落ちなければ……こんなことにはならなかったんだ」

妹「ソワール……」

兄「妹として一緒に暮らしていれば……あんな最後を迎えることはなかった!!」

妹「ソワールはそれから、どうしたの」

兄「ああ……あの、憎い町へともどったよ。そして財をなした……それから、エールのクローンをつくりだした。何人も、何人もっ……後は君の、知っての通りだ」

妹「……ねえ、ソワール。夏に鯨を見たよね」

兄「ああ……」

妹「もし私が……恋人が逝って、とりのこされた鯨だったら……って話をしたじゃない」

兄「うん……」

妹「私はやっぱり歌うわ……ううん、謳うの……ソワール、愛してるわ……私は、私たちは、ずっと、あなたを愛してる……」

兄「どうしてこんなことになってしまうんだ……どうして僕は君を……」

妹「ああ……ソワール、そんなことないよ」

兄「エール……?」

妹「私は本当に……幸せだよ……」

シーン7
春先・風が吹いている
家の近所の丘
兄は電話をしている。
 
兄「ええ……こちらの準備は……以前の彼女は埋葬しています。次のエールの準備はどうでしょうか……はい、はい……期待してます、よろしくお願いします」

電話を切る

兄「エール、今度こそ君を……君を幸せに……」

おわり

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