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少女は本当に白いワンピースを着ていたのか


夏が来れば思い出す。国語の教科書に載っていた戦争関連のお話。
その中でも異彩を放つ「夏の葬列」。


ひたすら重い内容だと思っていたのですが…


最近、引っかかることがあるのです。それは、物語の核となる、「ヒロ子さん」が着ていた白いワンピース。この話は戦時中が舞台です。そして、彼女が「真白なワンピース」を着ていたことで悲劇が起きるのですが…ヒロ子さんは本当に白いワンピースを着ていたのでしょうか?


…というのは、太平洋戦争中の服装って女性(子ども含む)はもんぺだったと思うからです。ちょっと思い出していただきたい。「火垂るの墓」の節子も「ちいちゃんのかげおくり」のちいちゃんも、もんぺ姿で描かれています。

「火垂るの墓」より
「ちいちゃんのかげおくり」より


「ヒロ子さん」はおそらく母親と疎開してきたようなのですが、疎開しているいうことはある程度戦況が悪化しているはず。


つまり戦争初期ではないだろうと思うわけです。もんぺが行き渡っていたはずなんです。そして、「ヒロ子さん」は「勉強もよくでき大柄」つまり大人っぽい小5、年齢は10歳か11歳。そして一番戦況が厳しい東京から疎開してきている。そんな賢い小5女子が「真白なワンピース」を戦時中に着たのでしょうか?5歳だったら分かる。大人の目を盗んで大好きなワンピースを着ちゃった、とか。でも小5。「偉い人が言うことには従わなきゃ」と思ったはずです、当時の小5なら…



あとそもそも小学生って毎年成長するのに、「ヒロ子さん」に誰かが戦時中わざわざ「真白なワンピース」をあつらえたんでしょうか?いや、多分それは物資不足で考えにくい。
お母さんや親戚のお下がりという説は考えられる。だがしかし。元の持ち主だった大人よ、戦時中にそれ引っ張り出すか?贅沢は敵、のご時世では綺麗な服は仕舞い込まれたか売られたかのはずです。


以上の点を考えると「ヒロ子さん」が戦時中の疎開先で「真白なワンピース」を着ていた可能性はかなり低くなります。(戦時中を知る祖父母たちは亡くなってしまった、そして知り合いで当時を知る人たちも施設に入ったりご病気だったりで確かめられないのですが)



気になって作者についてWikipediaで調べると、子ども時代に太平洋戦争での疎開を経験されている。当事者中の当事者。



ん?んんん?ということは、「ヒロ子さん」が「真白なワンピース」を着ていた時の「戦争」ってもしかして太平洋戦争じゃないのかな?それに似た架空の戦争?
または、作者が伝えたいことを書くには当時の状況よりもあえての「真白なワンピース」だったのか。



非常に気になる、そして物語の鍵となる「真白なワンピース」。ひょっとしたら何かの隠喩だったのでしょうか。
わかりません。



いずれにしても、「ヒロ子さん」が戦争中のあの日「真白なワンピース」を着ていたというのは実はすべて夢だった、というオチであって欲しいと思うほど、読後感の苦い短編です。
それほど白いワンピースが効果的に使われている作品です。


まだ読まれていない方でご興味があればぜひ。青空文庫で読めます。


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