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バレンシアの公園で

バレンシアの火祭りの朝、アヤカはホテルの窓から下の道路を見下ろした。人の頭が虫のように行列にならんでごった返している。アヤカの横からケイが顔を出す。 「やばい人の量だね。まるでディズニーランドだ。」ケイが呟く。
ケイが起きるの、マサとヤスも起きてきてマサは肩を擦り、ヤスは目を擦っている。
「ちゃんと寝れた?流石に3人で1つのベッドはきつかったね。」ケイがマサとヤスに話し始める。
「寝返り打てなくて、肩痛いわ。」とマサ。
「ベッドで寝れただけでもありがたいと思わなきゃ」とケイが言う。
「今何時ですか?よく寝た。」最後にマナミが起き、天井に向かって両腕を上げた。

とりあえず、アヤカ達は、ホテルの前の道にでると道路には沢山の人と店、そして大きな火祭り用の人形達が間隔をあけていたる所に並んでいる。
既に人の流れが凄くて、立っていられない。するとケイが声をかける。
「とりあえず、皆俺の後に続いて歩いて。前の人の肘を掴んで歩こう。一番後ろはマサね。よろしく」そう言うと、ケイはアヤカに目で合図をし、アヤカはケイの後ろに立ち、後ろからケイの二の腕の辺りを掴む。アヤカは一瞬昨日の事を思い返し顔を赤らめるが、次の瞬間にマナミがアヤカがの後ろに付き、更にヤス、マサと続き、5人のムカデが完成した。皆必死で中央の広場まで向かって歩こうとすると、5メートル先の人形が燃やされ「ワーオ!」という歓声と共にアヤカ達も足を止め、燃え始めたうさぎ型の人形に目をやる。

火祭りの前日にバレンシアに辿りついたアヤカ達男女5人組は、ホテルの宿探しに悪戦苦闘していた。3月の大学の短期留学のプログラムで出会った彼らは、交流学校のマドリッドでの語学研修を終え、3日間の自由時間を授けられた。留学メンバーは15名ほどだったが、それぞれ違う興味ある所へ行ってしまった。ミーハーなアヤカ達は、王道の火祭りがみたいとバレンシアきたものの、有名なお祭りという事もあり、どのホテルの満室だった。

「あ〜やっぱり無理かな。お祭りの前日に予約なしで泊まろうとするなんて」マサが言う。「これで4件目だよ、断られたの。空いてない上に、通常の3倍以上の値段するし、2部屋取るなんて無謀かな〜」ケイが頭の後ろに手を組みながら呟く。
「とりあえず、次行ってみよう。まだ、2時過ぎだし。夕方までは頑張ろうよ」アヤカがテラスでアイスティーを啜りながら言う。

カフェで休憩をとったアヤカ達は今までとはちょっと違う門構えがきちんとした細長いホテルの前に辿り着く。ケイが先頭になり、ホテルの受付へと向かう。

アヤカ達はバレンシアにきて、結局スペイン語をあまり話していない。もちろん簡単な注文などはできるが、観光地であるバレンシアにきてからは、はじめはスペイン語で話し、通じないと英語でそれでも通じないとジェスチャーでどうにかした。ケイは5人の中で唯一英語が流暢に話せる。幼少期にアメリカに住んでいた事があるらしい。結果、ホテル予約はケイにお願いしたのだが、アヤカも英文学科だったので、上手く話せないにせよ聞く事はできた。

「僕には2名にしか見えないけどね!それでは、ダブルルーム1部屋で予約いたします。」そう英語でいって笑顔で笑うホテルの受付の男性と共に、ケイがこちらを振り返り、笑顔でマサとヤスにハイタッチしている。
「え、なになに?今予約します、って聞こえた気がしたんだけど、部屋2部屋空いてたの?」と」アヤカがケイに聞く。
「部屋はダブルルームが一部屋しか空いてなくて、2名までしか泊まれないんだけど、特別に5人いいんだって。しかも2名の金額でいいんだって。やばくない?それを確認したら、僕には2名にしかみえないよ!って。めっちゃいい人。俺たちツイてるよ!」とケイが興奮しながら話す。
アヤカは状況を理解するのに時間がかかったが、とりあえずこのホテルに泊まれる事はわかった。案内されたホテルの部屋は、思ったより広く、大きめのベッドが2つとソファが一つあった。歩き疲れたアヤカ達は、スーツケースをベッドの脇に置くと、一斉にベッドに倒れ込んだ。
「やったね〜。もう半分あきらめかけてたよ。あのホテルの人すごいね」一番年下のヤスが言う。

宿なしでもうバレンシアを離れなければかもと思っていたアヤカ達は、緊張から開放されると同時にお腹が空き始めた。もう気づけば夕方になり、お昼も軽食だったので無理もない。宿代は思ったよりも安くすんだが、これからの旅の資金を考え、アヤカ達は近所のスーパーに行く事にした。

アヤカは色々な街のスーパーに行くのが好きだった。日本にはないカラフルなパッケージや見たこともない食材を美味しいのかわからないまま、カゴにいれていく。ホテルにもどってそれを食べ、美味しいとおもったものだけ写真をとっておいた。しばらくすると、ケイが散歩に行くと言い出したので、アヤカとヤスは一緒に行く事にした。

外に出るとさっきよりは少し涼しいが、気持ちいい温度だった。ちびっこヤスが、はしゃぎながら走っていく。昼間人が多かった街もだいぶ落ち着き、同じ街とは思えないほどの静けさだ。少し大通りを抜けた所に小さな公園を見つけた。そこには小さなすべり台とベンチが3つだけあった。グエル公園をはじめ、観光地ばかり観ていたアヤカ達には、なんだかこの大きさの公園がむしろほっとさせた。

一番乗りでヤスがすべり台の階段によじ登る。
「最高に気持ちいいよ。2人共おいでよ。」とヤスが叫ぶ。
ヤスはいつも素直で可愛い。ケイとアヤカは順番に階段を登る。上にたって見ると綺麗な月が出ていた。最高だ。辺りは静まっていて、近くの道路の脇でタバコを吸う青年が一人いるだけだった。
3人はすべり台の上でしゃがみ込み、静けさの中で、ただただ月をみていた。ヤスが何か話し始めたがアヤカもう別の世界にいっていて聞こえなかった。すべり台の上にいる分だけ、自分が宙に浮いているような感覚さえあった。

ふと時計を見ると21時を過ぎた所だった。「もうそろそろ帰るか」ケイが言う。「了解でーす」と言い、真っ先にヤスがすべり台を降りる。すると、思ったよりカーブがあるすべり台だったのか、着地と同時に前に体重がかかりかけはじめるヤス。一瞬あせったが、すぐにニヤつく。「たのし〜!」続いてケイが滑り、最後にアヤカが滑ると下でケイが右手を出して待っていた。降りてきた勢い少しひやっとするが着地するとにアヤカの手の平はケイの手に重なる。「ありがとう」とアヤカが言うと同時にヤスが大通りに向かって走り出す。「待てよ〜」とケイは言いながら、ケイはアヤカの手引き、二人は手を繋ぎながら走り出す。

街灯の光が彼らが走る道を照らし、その上のお月さまが更に3人を照らしていた。

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#私の小さな物語  #ショートショート

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