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二人きりのぞうきんがけ

登場人物: 藤原拓也(8歳)中野百合(8歳)小山健児(8歳)渡辺友美(8歳)

神奈川県の川崎市にあるその小学校は、住宅街にあり、子供の数が多かった。一学期も終わる頃、昼休みにあるノートが百合にまわってきた。ノートのタイトルは「好きなものノート」ジャポニカのてんとう虫の写真の自由帳を開くとマス目状に欄が分けられていて、左側には名前、上には項目が書いてある。好きな本、好きな科目、好きな色、好きな事、好きな人。そこには百合の名前が書いてあり、最後の方だったののか、他の友達の書いたのもで、ほぼ埋め尽くされていた。百合は、藤原拓也の欄を目で追う。すると、自分の名前が書いてある事に気づき、自分の耳が熱くなるのを感じる。そして、後ろの席の友美が言った。友美「百合〜ノート書けた?今日中に皆に回したいから、早めに書いてね。」百合「わかった。ちょっと待ってね。急いで書くね」百合は、左から順にマスを埋めていき、最後の好きな人の欄は、小山健児の名前を書いた。

百合のクラスの2年3組は、男17名女子15名のクラスで、特段やんちゃな子がいる理由でもなく、男女共に仲が良かった。中でも、目立っていたのが、スポーツ抜群で、サッカーチームにも入っている拓也だった。キリッとした目つきで足が抜群に早く、体育の時間は、皆彼に釘付けだった。一方、もうひとり、勉強ができ博士と呼ばれていたのが、小山健児。彼は虫が大好きでいつも、虫の事を熱く語っていた。ものすごく物知りで、なにかわからない事があると、だいたいの事に答えてくれていたので、歩く広辞苑と言われていた。

その日は、1学期最後の日だったので、皆で大掃除をした。机と椅子を皆で運んでいると、友美が急に「拓也くんの好きな人、百合だって。きゃ〜!」と叫びだす。そしてぞうきんを持った百合は、顔が赤くなる。その日の床掃除の当番は、5人いて、百合も拓也もそこにいた。百合は拓也の顔を見ることができないでいた。拓也が先に雑巾がけをしたのを確認し、その右横から百合は雑巾がけをはじめる。窓から太陽の光が差込み、拭いた床がきらきらと光る。その二人を横目で眺めながら、健児はほうきでゴミをはく。ああ、暑い夏休みがはじまる。

#私の小さな物語 #ショートストーリー #夏

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