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ポテトフライとポテトチップ


フライパンの上を細長い形に切られたジャガイモがプカプカ浮いている。ぱちぱちと油がはねる音がして、しばらくすると音が小さくなる。
「そろそろもう取り出していい頃じゃない?」ユウの祖母ヤスコが言うと、ユウはまわりが少し黄金色になったポテトをすくいあげる。軽く塩をふると、ローストビーフののった大皿の脇にポテトフライが並びにはじめる。お祝いプレートの完成だ。
 
夕食時にユウのママ、アヤカはプレートを見て大喜びする。ヤスコはユウがポテトを一緒にあげた事を伝えるとアヤカはポテトを口にしながら学生時代の事を思い出す。

 
 アヤカの仲良し友人、ハナは料理上手だった。ハナの家は両親が共働きだった為、ハナは自炊もしていたし、おやつなども自分で作ったりしていた。環境的にやらなきゃいけない状況だったが、単純にハナは料理が好きだった。ある年にバレンタイン用のチョコクッキーを作ってクラスの女子に配ったら思いのほか喜んでもらえ、そこから人に食べてもらう喜びも知ってしまったのだ。
 
 ある日の放課後、ハナの家でアヤカを含め、4人で映画をみようという話になった。岩井俊二の「スワロウテイル」だ。ハナは岩井俊二の「打ち上げ花火、下からみるか?、横からみるか?」が好きだったし、この映画は大好きなCHARAもでていた。アヤカを誘って一緒に見ようと言うと、その話をきいたマユとエリも一緒にみる事になった。
ハナの家には大きな中華鍋があった。お菓子好きのアヤカが遊びにいくと、ハナはいつもクッキーなどお菓子を作ってくれた。アヤカはいつも手伝うといいながら、ほどんど食べる担当だった。4人が集まったその日、ハナはそのフライパンを眺めながら突然
「ジャガイモたくさんあるし、ポテトチップスでも作るか!」と言い出した。
この日は、学校の授業も早く終わったので、14時にハナの家に集合にし、お菓子を持ち寄る約束をしたのだが、なぜか持ち寄ったものがクッキーやチョコやら甘いお菓子だけだった。そこでハナがしょっぱいものが欲しいと言い出し、自分でつくるかと思いっ立った。

ハナはジャガイモを5つ取り出し、皮をむいていく。アヤカも手伝うがハナとはスピードが違う。あれっ、とか、いてっ、とか言っている間に、ハナはジャガイモを薄く切り始める。アヤカも見よう見まねでやるが、薄くは切れない。「アヤ、さすがだね、その厚さ。でもいいよ。とりあえず映画みたいし、頑張ろう」そういって手際よくジャガイモを切っていく。

そしてついに、ハナは黒い中華鍋に油を入れていく。少し時間がたつと、菜箸を油の中に入れて温度をみる。もういいかも、とつぶやくとアヤカのおかげで厚さがバラバラになったジャガイモを鍋の中に入れていく。鍋には真ん丸の白い模様がたくさん広がり、アヤカはドキドキする。鍋が大きいこともあり、油が床にはね、ハナがアヤカに気を付けるように伝える。油の音が鎮まるとハナはじゃかいも達をひっくりかえす。最後に網ですくいあげて塩をふった。あつあつの状態のポテトチップスを手でつかみ、二人でほうばる。「うま~」の一言が重なって部屋中響き渡る。

テレビの前のテーブルに甘いもののお皿と、ポテトチップスのお皿が二つ並べられた。その後ろのソファーに四人で並んですわり、映画上映会がスタートした。とりあえず、熱いうちがおいしいので、皆ポテトチップスに手を伸ばす。作り立てを食べられる幸せを噛みしめながら、映画に集中する。
映画は、主人公の伊藤歩とほぼ同じ年だった4人には少し難しかったが、すごく圧倒されたという感覚だった。最後の歌に酔いしれていると、ハナのママが帰ってきた。「ただいま~」というと、キッチン奥の部屋に向かう途中にハナのママは大きな中華鍋の残った油に目をやる。
「ちょっと、ハナ、これなにしたの?まさか、あげものしたの?」
「しょっぽいもの食べたくて、ポテトチップス作ったの」とハナ。
「え、ちょっと待ってよ!家で料理するのはいいけど、揚げ物はやめて!火事とか怖いから。ほんとに無理!」と怒ったのと同時に落胆した様子でハナに伝える。ハナは怒られて、少ししょげていたが、「でもね上手にできたんだよ」、っと言ってみたが、ハナのママはその言葉を受け止めることはせずに自分の部屋に着替えにいってしまった。
 
「ハナちゃん、ポテトチップスとっても美味しかったよ。今度さ、ウチでもママがいる時にみんなで作ろうよ!いつも美味しいものをありがとうね」といつもマイペースでおっとりとしたマユがゆっくりとした口調で話す。
「え~いいね。いいね。マユちゃんのおうち大きいし、今度は皆で料理する会しよ~。ポテトチップスめっちゃ美味しかった。しばらくは売ってるポテトチップスは食べれないかも」食いしん坊のアヤカが言うと、ハナには笑顔が戻り、その後4人は解散した。

 
 アヤカはユウがあげたポテトフライを口に入れるとジャガイモの甘味が口の中に広がった。お店のものではないポテトを食べるのは久しぶりだ。「ユウ君、ありがとう。美味しいね」そう伝えるとユウは、ローストビーフには目もくれず、ひたすらポテトフライに食らいついている。ユウのお皿にはたっぷりのケチャップと、そして口元はドラキュラのように赤いケッチャプの口紅が付いている。アヤカはそんなユウを微笑ましく見守る。

#デジ近note部 #ショートショート  
#私の小さな物語

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