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縁側

知り合いの男の子がある日ぽつりと言った。
縁側の風の匂いが好きだったと。

彼の親の実家にあたる家は関西の北の方。
事情があって、彼は三歳の頃半年ほどそこで暮らしたことがあるらしい。
もう青年となる年になっても、彼は年二回は祖父母のもとに足を運ぶ。

帰るのは苦じゃない。
今は俺のほうが近いから。

何のためらいもなく関西で就職した子だった。
不思議ではあったのだが、その理由を一つ理解したように思った。


縁側から入ってくる風を受けて、ボーッとするのが好きだった。
本を読んだり寝転んだり。
心地いいくらいにほっといてくれる。
夏に、開け放った窓からの風を受けて、何も考えない時間が好きだった。
今でも、出来るなら一週間ぐらいそうしていたい。

けれど。

不便なところにあるから、維持も大変で。
あと何回行けるかと思うと少し寂しい。
今はなかなかいけないから、同じ匂いの場所を探してる。

大人になった少年は、そう言って少し笑った。

彼の中にあるもの。
縁側から見える風景、風の匂い。
見えるはずないそれが見えるような気がして、なぜか泣きたくなった。

私にはあるのだろうか、いつまでも覚えていたいものが。

知らなかった彼の一面とともに、一瞬感じた風を、
私はきっと忘れられないけれど。






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