『逃げ上手の若君』第13巻での目から鱗 ~11月の逃げ若を撫でる会より~
『逃げ上手の若君』コミックス第13巻(11月2日)の発売を受けて開催いたしました『逃げ若を撫でる会』(通称『撫で若』)ですが、雰囲気はとても和やかながら、作品やキャラクターへの愛は深く、作品内にちりばめられた史実や小ネタへの指摘が毎回鋭い……。
そこで、会だけでクローズにしてしまうのはもったいない!と個人的に思われた内容を、こちらでシェアしたいと思いました。
『逃げ上手の若君』の魅力の再発見、そして、やはり松井優征先生はスゴイという思いを新たにしていただくことができればと思います。
また、けっこう真面目で面白そうなオンラインイベントなんだなと思われた方は、ぜひとも次回以降ご参加くださいね(単行本発売月に開催しています)。
【尊氏のうどん好き】
(高師直)「殿 そんな事よりうどんがあります」
(足利尊氏)「やったー」
(佐々木道誉)「久々の関東の味ですなァ」
かつて京にて、尊氏が正成の屋敷に招かれた時にも、うどんがネタになっていますね(第58話「帰郷1335」)。
(足利尊氏)「ところで今日の献立何?」
(楠木正成)「尊氏殿の大好きなうどんがござるよ」
(足利尊氏)「やったー」
(高師直)「うどんは我らが下野国の名物 拙者より美味く打てる者などこの京にいるかどうか」
(足利尊氏)「張り合うな師直」
さらには第13巻で、正成が京を「罠場」にして「尊氏を誘い込み」、 「あらゆる虚報で油断させてから本陣を突いた」と顕家が言うその「虚報」の中に「おいしいうどんあります」があったことに、皆さんお気づきでしたか(第111話「インターミッション1336①」)。
うどんというと、「うどん県」を自称する讃岐うどんの香川県が有名なのですが、上野国(足利)出身の尊氏とうどんとの関係はどうなっているのかという疑問を会の中で投げかけた方がいらっしゃいました。
すると、関西にお住いの方から、群馬のうどん「おきりこみ(おっきりこみ)」をおみやげにもらったことがあり、その中に由来も書いてあったということを伺いました。ーーそしてそこに、上野国にうどんをもたらした思いもよらない人物の名が登場しました。
群馬県と埼玉県北部の郷土料理
「おっきりこみ」は「おきりこみ」、「煮ぼうとう」とも呼ばれる群馬県と埼玉県北部の秩父地方に伝わる郷土料理です。
季節の野菜と手打ちの幅が広い小麦粉の麺を煮込んだ麺料理です。
季節の野菜は里芋、大根、にんじん、じゃがいも、椎茸、長ネギ、下仁田ネギ、白菜、ほうれん草、なす、さやいんげんなど様々です。
野菜の他にも油揚げや鶏肉、豚肉を入れる事もあります。
群馬県は昔から小麦粉の生産が盛んで現在でも全国有数の生産高ですが、「水沢うどん」、「館林うどん」、「桐生うどん」、「太田焼きそば」や「焼きまんじゅう」など粉物の食文化が発達しており、「おっきりこみ」もその一つです。
「おっきりこみ」の歴史
「おっきりこみ」は平安末期の12世紀に新田義重が中国から伝わって宮中で食べられていた料理を上野の国、現在の群馬県に伝え広めたといわれています。
新田義重は源義家の孫で源義重とも呼び、上野の国を本拠地とした豪族新田氏の開祖です。
義重は当時宮中で「大炊介(おおいのすけ)」と呼ばれる食材の手配や食事の準備をする役目をしており、その時に中国から伝わった「ぶと」と呼ばれる料理に触れ、それが後に日本では「ほうとう」として広まったといわれています。
その製法を上野の国、上州に持ち帰って「上州ほうとう」ともいわれる「おっきりこみ」として広まったとされています。
※下記より引用させていただきました。
〔日本各地の郷土料理の定義、特徴、由来や歴史を解説「にっぽんの郷土料理観光事典」〕
ーー『逃げ上手の若君』の足利尊氏の大好物であるうどんを上野国で広めたのは、新田義貞のご先祖様である「新田義重」だったのでした!
現在、国立科学博物館で特別展「和食~日本の自然、人々の知恵~」が開催されています。そこでの企画のひとつとして、ビックデータにより分析された各都道府県を代表するとみなされる食べ物上位5位までをそれぞれ発表していました。
やはり「うどん」なのですね!?
『逃げ上手の若君』の新田義貞や徳寿丸(義興)も、うどんが好きそうな雰囲気です。でも、足利直義が尊氏と一緒に、はふはふしながらうどんを食べるイメージがあまり浮かびませんでした。すると参加者の方から〝直義は現代だとカロリーメイトとか食べてそうです〟というご意見をいただきました。ーー納得!
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うどんの記事でも話題となりました新田義貞が、「決着をつけよう尊氏!」「どっちが偉くて強いのか!!」(第111話「インターミッション1336①」)という、後醍醐天皇の命で軍を率いていることがわかっていないかのような物言いに、彼の「?」はどこまで本当だったのかと、しばし議論(?)に……。
湊川の戦いにおいて、正成の弟(正季)が「あーもう新田のアホ! 見え見えの分断策に!」と呆れています(第113話「インターミッション1336③」)が、義貞の部下たちが「囮」の方にラッシュしたために義貞も窮地に陥ったと『太平記』にはあります(真相はいかに!?)。
まあ確かに、昨年の夏の南北朝フェス(「南北朝時代を楽しむ会」主催)でご一緒した新田義貞顕彰会の役員(皆さまご高齢)の方までもが、〝義貞は勾当内侍に夢中になって尊氏に負けたんだよ~〟と笑顔でお話されるような感じの、愛されヒーローであるのは間違いないでしょう(笑)。
※「勾当内侍(こうとうのないし)」とは、義貞が後醍醐天皇より賜った絶世の美女です。『太平記』に登場し、現在では実在しない人物とされています。
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そのほか、楠木正成VS足利尊氏がいろいろな意味で異次元の戦いであることや、武田信玄が北畠顕家にならったという「風林火山」の旗の由来についても盛り上がりました(もしかしたら、信玄の側からの顕家への敬意と憧れが先にあって〝作られた〟可能性があるかも……といった鋭いご指摘も)。
そんなわけで、定期的にコミックスを読み返してみたいですし、「逃げ若を撫でる会」で今後もご参加者にいろいろと教えていただけたらいいなという思いを、またしても新たにしております。
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