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駆け落ちず

「じゃあ、明日夜が明けたら……。そしたら電話するから。私、もう決めたから。もういいのこれで。これしかないの。隆一、あなたについてくからね。もう全部、家も仕事も捨てて、このまま、このままあなたと一緒になる。それしか、それしかもう……道はないから」

「うん、でも……。ちょっと一つだけ」

「ねえ、絶対一人で行かないでよ!私も行くんだからね!私達は、私達は一緒になる運命なんだからっ!」

「ちょっと、ごめんね。一つだけいいかな。あのさ、明日、夜が明けるかどうかはまだ決まってないんだよね。夜が明けたかどうかは明けてみて初めてわかるのであって今はまだ確定してないから。今手に持ってる受話器だって手を離したら落下するのかどうか、それもわからない。上に飛んで行くかもしれない。この受話器に地球の引力が作用するなんて誰が決めたの?そもそもさ、引力なんてあるのかな?結局さ、経験則だけでしょ。宇宙には地球上にある全ての砂粒より多い星があって、惑星や恒星なんか毎日のように夥しい数が死滅してるんだから。それが明日地球に起きない保証なんてないんだよ。え?確率?確率的には夜が明ける?ちょっといきなりそんなこと言わないでって。運命論者なんだよね。法則が全てを支配してるんだよね。都合の良いときだけ確率なんて言葉使われてもさ……。俺、ちょっと混乱してきたわ……」

「はい!ということで、今までのことはなかったことで」

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