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頷キスト

はい、じゃあ、今日はね、話を聞く際の重要な動作、「頷き」についてね。これはついつい軽視しがちだけど、実はとても重要だからね。あ、こいつ聞いてないなっていうのは頷き方でバレるし、逆に、聞いてなくても頷き方一つで相手を満足させることもできるから。

で、これは会話っていうより、会議やプレゼンの場での参加者としての振る舞い方ね。伝説の頷キストと呼ばれた開発部の中山さんね、彼は頷きだけで執行役員になったから。「あの人がいると発表がしやすい」なんて言われて、関係ない会議にも引っ張りだこだから。彼、仕事は腰が砕けるほどできないらしいけど、まあ、頷いてればなんとかなるってことだね。

ポイントは相手と完全同調すること。これに尽きますよ。自分の意見なんてありません、僕は馬鹿です、完膚なきまであなたの意見と同一ですってことを全身全霊で示すことが重要ね。別にディベートや討論会じゃないんだから、あなたの意見なんてどうでもいいんですよ。手を上げて相手の間違いも正す必要ないからね。とにかくなんて素晴らしい発表なんだ、プレゼンなんだって感動してることを相手に伝えることね。発表者はどんなに大きな会場だろうが全員を見てるからね。あなたのそういった姿勢に勇気づけられるんですよ。

具体的には、やや上目遣いに相手の目を見つめる。そして、ちょっと眉間に皺を寄せてみる。これで相手に自分が集中していることが伝わるからね。しかもこれは対等に向かい合っていて、決して媚びているわけではないという姿勢にもなってるから。ま、別にそんなのはどっちでもいいんだけどね。次に腕を組み、大きく、ゆっくりと首全体を上下させること。その際、唇をちょっと動を動かすといいね。感極まって言葉が溢れ出た、みたいに見えるから。首を上下する際、ゆっくりであれば背中からいっちゃってもいいから。もう上半身をぐわんぐわんさせてさ、椅子から落っこちるんじゃないかってくらいでも効果はあるからね。隣の人に迷惑かもしれないけどね、執行役員になりたかったらそれくらいは耐えるようにね。

一番やってはいけないのは首の上下が早過ぎることね。これ、ノッキングって言ってるけどノッキングが早いと赤べこみたいになっちゃうから。カクカクしてるだけで、こいつ聞いてないなって言うのを自分から宣言してるようなものだから。あと、小さな会議や対面での取引なんかでの注意事項だけど、「ウンウンウンウン」を連発しないことね。これ逆効果だから。たまに甲高い声でウンウンを連発してる人がいるけど、喘ぎ声に聞こえて気持ち悪いからね。更には「ああ」とか「それはまずいなあ」みたいにそれっぽい感嘆詞をぶっ込む人がいるけど「聞いてるふり感」丸出しだからね。やめるように。

ということでね、頷くときは、言葉は要らないから。とにかく表情と動作で相手と一体化すること。そしてこれもかっていうほど首から背中に掛けてぶるんぶるん上下させること。これだけできれば中山さんみたいに執行役員にはなれるから。関係ない会議室でずっとぐわんぐわんしてるだけで偉くなっちゃうんだから。こんな簡単なことないよね。で、もっと上を目指したいっていう物好きな人はね、ついでに仕事もちゃんとやってください。じゃあ、今日はここまで。



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