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「将棋が強い人は何手先まで読めるのか」という問いに、一将棋ファンが出来るだけ丁寧に答えてみる

※書いてみたら結構長くなりました。お時間のある時にでもどうぞ。


こんばんは(今、夜だからね)。

私の趣味の一つに「将棋」というゲームがあります。誰もが知る羽生善治九段の存在だったり、ここ最近は藤井聡太七段の登場などでかなり注目を集めていますね。

私自身は、それほど将棋が強い訳ではありません。分かりやすい(将棋を知らない方にはこれでも分かりにくいと思いますが)基準で言うと、スマホなどで全国の将棋好きの人とオンライン対戦が出来る「将棋ウォーズ」というアプリがあるのですが、このアプリでの私の段位は「(アマ)初段」です。段位の説明をし始めるとこれまた長くなるのでまたの機会にしますが、「アマ初段」というのはざっくり「将棋で勝つということがどういうことなのかなんとなくは分かっている」くらいだと思って貰えればいいと思います。


さて、将棋を知らない方と将棋の話になった時によく出てくる話題の一つに、

「将棋が強い人って何十手も先まで読めるんでしょ」

というものがあります。「プロの人って何十手先まで読むんですか?」など、少し文脈は違う場合もありますが、この話題は非常に良く出てきます。私くらいの実力の人間ですらこれを聞かれる事があります。

ただ、実はこの質問、答えるのが非常に難しいです。

そもそも将棋って、例えば一言で「7手先まで読みます」などと言い切るのがとても大変なんですね。これはもう、その時の状況によって随分と変わってきます。とはいえ「その時々で違います」なんて回答をしても、将棋を知らない方にしてみたらなんの回答にもなっていないですよね。

なので今日は、「将棋の強い人は何手先まで読めるのか?」「そもそも【何手先まで読める】という言葉にどのくらいの意味があるのか」を、ただの一将棋ファンの私が出来る限り丁寧に説明してみたいと思います。


大丈夫かな。


将棋には「序盤・中盤・終盤」という言葉があります。

これは厳密に区切りがある訳ではありませんが、おおざっぱに言うと

序盤=対局が始まってしばらくの段階(大体1手目~40手目くらい。もちろんもっと長かったり短かったりする場合もあります)

中盤=駒同士がぶつかり(取ったり取られたり)ながらお互いの陣地に攻め込んでいく段階

終盤=相手の王様を詰ませに行く段階

だと思ってください。

で、まずこちらの図から。

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序盤も序盤(序盤っていうのかなこれ)、まだ対局が始まる前の図です。

この段階では、ある程度将棋を指せる人は「一から数手先を読む」という事はあまりありません。この段階でいくら先を読んだとしても、相手が指す一手で展開がまるで変わってくるのであまり意味がないからです。その代わりに、「こう指しちゃうとまずいことになるぞ、こう指すとこういう作戦になるぞ」という手をたくさん覚えておいて、その中から指したい手だったり指すべき手だったり指しておかないとまずい手を選ぶ事になります。

これを「定跡」といいます(厳密には定跡という表現に当てはまらない部分もあると思いますが、今回はざっくりとそういう事にします)。

ここからしばらくの間(早い時は序盤の最初の方、遅い時は中盤の最初くらいまで)は、ある程度「今まで指されて間違いのなかった手、という知識」の中から手を選んで指していきます。プロ棋士ともなるとその知識がまず膨大にあるので、よほどの奇襲でない限りはしばらくこの状況が続きます。ただ、相手が定跡から外れた手を指してくる可能性が常にある以上、この段階でも「全く先の手を読まずに指している」という訳ではないです。


さて、いったん中盤の話は後に置いておいて、次は先に終盤の話をします。「将棋が強い人は何手先まで読めるのか」という話の説明には、終盤の話をするのが一番分かりやすいと思います。

将棋の終盤の話をする為の分かりやすい道具の一つに「詰将棋」というものがあります。これは将棋のパズルみたいなもので、「正しく王手(王手=相手が何もしなければ王様を取るぞ!という手)を続ければ何手かで王様が取れる」という遊びです。将棋は「一手指したら次は相手が一手指す」というルールなので、相手の手数も合わせて「〇手詰(合計3手なら3手詰、合計7手なら7手詰、です)という表現をします。

さて、次の図をご覧ください。

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これは、さっき私が電車の中で作った11手詰めの詰将棋(厳密に詰将棋のルールにのっとっているかは微妙なところがあります)なのですが、実のところ、この詰将棋は王手の方法がずっとほぼ一通りしかありません(厳密に言えば、無駄に手数が伸びる王手がいくつかと、最後の最後に間違えると詰まない手が一つだけあります)。なので、将棋の駒の動き方が分かっている方であれば、おそらく一分もかからずにどなたでも解くことが出来ると思います。

※一応手順を書いておくと「①1二歩(成りでも成らずでも) ②同玉 ③1三香打 ④同玉 ⑤1四香打 ⑥同玉 ⑦1五香打 ⑧同玉 ⑨2七桂 ⑩1四玉(1六玉でも) ⑪1五飛打 まで11手」です。

続いて、次の図をご覧ください。

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※日本将棋連盟ホームページ「詰将棋」コーナーより引用(https://www.shogi.or.jp/tsume_shogi/everyday/201912011.html

これは、プロ棋士の今泉健司四段が作られた11手詰の詰将棋です。

当然、これはさっきの詰将棋のようにはいきません。最初の一手で王手出来る方法ですら8通りありますし、それに対する相手の対応は8通りどころではないです。そのあとの変化も当然多岐に渡ります。とりあえず、私は10分考えてみましたがこの詰将棋を解くことが出来ませんでした。(答えを知りたい方はリンク先で)


随分と極端な例を出してしまいましたが、つまりここで私が言いたいのは「【11手先が読める】という表現をするにも色々な状況があるし、ただ【何手先が読める】と言うだけの事には実はそんなに意味はないんだよ」という事です。最初の図のような局面(さすがにこんな局面はないですが)に近い状況、私くらいの実力でも「11手先」が読めてしまう状況もあるし、今泉四段の詰将棋のように、私くらいの実力ではしばらく考えても正解が分からない「11手先」もあります。

で、将棋の強い人、あるいは(もちろん私とはものすごい実力の差こそあれど)プロ棋士の方でも、もっとずっと高いレベルでこれと同じことが起こっているんですね。終盤の王様が詰むか詰まないかのところでも時には「分かりやすい状況、分かりにくい状況」があるし、ましてそこへ繋がる中盤の部分なんて、「今までに指された事がない局面で、かつ無数に選択肢がある」訳です。


「将棋が強い人は何手先まで読めるのか」という問いに対して「何手先まで読めます」というはっきりとした回答をすることは、上記のような理由により非常に難しいです。むしろ「何手先まで読める」という表現には、実はそんなに大きな意味はありません。ものすごく読みやすい25手先(将棋では「一直線」というような表現をします。こっちもこの手しかないし、相手もこの手で対応する以外にないだろう、という状況がずっと続くことを指します)もあるし、変化が無数にあってものすごく読みにくい11手先もあるからです。

下記の図は、「第15回詰将棋回答選手権」というプロ棋士もたくさん参加する詰将棋の大会で、「全5問、120分という制限時間の中で、藤井聡太七段以外誰も解けなかった37手詰」です。

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※「81将棋.COM」より引用(https://81shogi.com/post-3023

もちろんこれを解いてしまった藤井七段がとんでもない実力なのは間違いありませんが、だからと言って「他のプロ棋士は37手先が読めない」という事には決してなりません。ちなみに、私の実力ではこれはもう説明を聞いてもさっぱり分からないくらい難しい問題です。

私の感覚では、「将棋が強い人」というのは「何手先を読んでいる」というより(もちろん終盤は何手先が読める事が勝利につながる場合も多々ありますが)も「無数にある選択肢からより良さそうないくつかの手を見つける能力と、そのいくつかの良さそうな手の少し先を正確に読み通して、一番良い手を指せる能力」が非常に高い人なのだと思います。(プロを含め)きちんとした将棋の大会では「持ち時間」と言って、自分が考えられる時間が決まっているので、その中でいかに「良い手と思う手を見つけて、その手を先まで見通せるか」が、「将棋の強さ」という事が出来るのではないでしょうか。


いやー、思ってたよりすごく長くなりました(笑)

私よりかなり棋力の高い将棋好きの友人も「将棋が強い人は何手先まで読めるのか、という質問は相当いっぱい受ける」と言っていました。で「ざっくり言うと、何手先まで読めるとかそういう事じゃないんだよな」とも。

私自身も同じことをずっと思っていたので、一度出来る限りの言葉でこの件をまとめてみたいな、と思い、この文章を書きました。

少しでも言いたい事が伝わるといいな、と思っています。


最後に、これも別の友人から教えてもらったのですが、私が作ったような詰将棋(をさらに厳密にした、本当に「王手とその対応が1種類しかない詰将棋」)を「一本道詰将棋」というそうで、現在最長で55手(!)の一本道詰将棋が製作されているようです。(画像の無断転載不可、と記載があったので、問題の詰将棋が載っているリンクを掲載しておきます)。

詰めパラブログ「鑑賞室」より(http://www005.upp.so-net.ne.jp/tsumepara/contents/4appre/appre/appre10.htm


長々と読んで頂きありがとうございました。

ではまた。


#将棋

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