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デング熱とデング出血熱(2014)

デング熱とデング出血熱
Saven Satow
Sep. 03, 2014

「よー、なんで『テング熱』って言うんだ?かかるとテングみてーになるからかな?」
「バカ!『テング』じゃねーよ、『デング』!『デング熱』!点々が足りねーよ!たくー、点が足りねーのは、おめーのテストだけにしろよ!」
高校生の会話

 第二次世界大戦中の1942年夏、九州から関西にかけてデング熱が流行する。患者数は100万~200万人と推定されている。2014年の夏の流行は、当時と衛生環境が違うので、おそらくそこまでいかないだろう。

 デング熱はデングウィルスによる感染症で、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊を媒介して伝播される。東南アジアやカリブ海沿岸が主な流行地として知られる。「アジアの黄熱」と呼ばれていた時期もあり、19世紀頃から患者数が急増したとされる。

 亜熱帯に属する琉球列島はかつてデング熱の常任流行地域として知られている。1914年と31年に大流行している。

 42年の本土での流行は沖縄とは無関係である。日米開戦のため、戦線が南方にも拡大する。その南方からの艦船によってウィルスが持ちこまれたと考えられている。

 現在の沖縄はデング熱の流行地ではない。水道施設の整備を始め公衆衛生の環境改善により、事実上、制圧できている。

 ただ、デング熱を媒介する蚊は都市に適応できる種類である。捨てられた空き缶や古タイヤにたまった水でも発生できる。その特性によりデング熱はマニラやバンコク、ジャカルタといった東南アジアの都市の病気になっている。東南アジアに渡る日本人が増えるにつれ、邦人の患者数も増加している。

 戦後、日本国内で発症・治療した人で死亡例はない。しかし、日本で昼間に人を刺す蚊にヒトスジシマカ等も含まれている。グローバル化のみならず温暖化に伴い、日本での流行は以前から危惧されている。デングウィルスに効くワクチンは開発されていない。蚊に刺されないよう予防するほかない。また、特効薬もなく、発症した際の治療は対処療法しかない。

 デングウィルスに感染しても、半数以上は発症しない。それによる病気は二種類ある。一つは自然回復する比較的軽症のデング熱、もう一つは死亡率5%を超える重症のデング出血熱である。初めて感染して発症するのは前者である。

 デング熱の病型は、1週間ほどの潜伏期間の後に急速に発熱、同時に頭痛や筋肉痛、関節痛などインフルエンザに似た症状が出る。また、リンパ節の腫れ、発熱後1~2日後にはしかに似た発疹が現われ、中性多核白血球を中心に白血球が減少する。ただ、発病7日目くらいから熱が下がり、数日で治る。

 一方、デング出血熱は発病から4日くらいより紫班などの出血傾向が現われる。肝臓や消化管などから出血、毛細血管の透過性が高まり、循環血量が減少、ショック症状を起こし、死に至る。

 この二つの病気には、直観では理解できない関連があり、疾病への警戒にも特徴がある。 なぜデング出血熱が発病するのかに関して最も有力なのはハルステッド・モデル、すなわち再感染説である。一つの学説であるが、非常に興味深く、説得力がある。

 デングウィルスは1~4の4種類ある。初めて感染した場合、いずれのタイプであっても発症する病型はデング熱である。けれども、2回目の感染が初回と違うタイプの場合、発症する病型はデング出血熱となる。デングウィルスの最初の感染時に抗体ができる。同型の抗体下でデングウィルスに再度感染しても、増殖は起きない。ところが、異型だと、増殖が増強される。

 通常の感染症は免疫ができれば、感染しにくくなる。また、抗体のない異型のウィルスに感染しても、極端に重症化することはない。一方、デングウィルスに二度感染すると、デング出血熱を発症する危険性が生じる。感染歴のある人は、昼間、蚊に刺されないように注意する必要がある。そもそも、再感染説はワクチンの前提に異議を申し立て、その開発を非常に困難にする。

 デングウィルスへの警戒のポイントは二つある。一つは媒介する蚊が昼間に刺すタイプであり、行動することである。もう一つは二度感染すると、デング出血熱を発症する危険性があるので、さらに注意して行動しなければならないことである。グローバル化・温暖化の現状ではなかなか実際にすることは難しいだろう。しかし、意識して対応する行動をとることがリスクを軽減する。

 感染症は恐ろしいものだ。しかし、それぞれに個性がある。この固有性を知って警戒する必要がある。感染症は健康的に恐れることが基本の姿勢である。
〈了〉
参照文献
藤田紘一郎、『空飛ぶ寄生虫』、講談社文庫、1996年

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