イノベーションが生まれる時(2013)
イノベーションが生まれる時
Saven Satow
Jan. 08, 2013
“Stay hungry, stay foolish!”
Steave Jobs
安倍晋三政権は日本経済再生本部を2013年1月8日に初めて開き、緊急経済対策の骨子を示している。その中にイノベーション創出の促進が見られる。現首相が前の任期でも主張していたように、経済成長にはイノベーションが不可欠だと日本政府は認め続けてきたが、期待通りの成果が上がったという話は聞かない。現首相を始め政府はイノベーションが生まれる過程を考えたことがないのではないかと思わずにいられない。
経済成長におけるイノベーションの重要性を説いたのがヨゼフ・A・シュンペーターである。彼は『経済発展の理論』の中で技術革新として次の五つを挙げている。
1.新しい財貨の生産
2.新しい生産方法の導入
3.新しい販売先の開拓
4.新しい仕入先の獲得
5.新しい組織の実現(独占の形成やその打破)
シュンペーターは、元々、技術革新を「新結合」と呼んでいる。この名称は技術革新の創造にとって非常に示唆的である。新たなアイデアは無から生まれるのではなく、既存の知識の創造的組み合わせと教えてくれるからだ。
新結合のためには、まずは既存の秩序を解体しなければならない。ただ破壊しただけでは、従前の構造以上のものは生まれ得ない。新しい多くの材料を用意する必要がある。そこから新結合が誕生する。
イノベーターたちにおける新結合の流れは秩序から混沌、さらに再編になろう。既存の知識が秩序立っている安定状態があるとしよう。そこに新たにさまざまな知識を導入し、それらを混在化させて相互作用する混沌状態へと変える。その中から新たな組み合わせが生まれ、イノベーションにつながるアイデアが創出される。
複数の知識が複雑に絡み合うことで、個々の要素からは予想もできない新しい効果が生じる。新しい組み合わせの構造からイノベーションが出現するのだから、とにかくできる限り多くの雑多な知識を用意する必要がある。混沌とした状態を作り出し、知識の相互作用を試行する。新たな組み合わせの構造が出現するが、これがイノベーションである。
混沌から新たな構造を洞察するのがイノベーターである。イノベーション創出には、アナーキーが必須だから、非常に広範囲な知識が不可欠だということになる。専門バカでは難しい。知識は何も書物からのみ得られるものではない。さまざまな人と話し合ったり、いろいろな体験をしたりしても体得できる。多種多様なコミュニケーションはそれだけで新たな結合である。大切なのはいかなる話題にも対応できるような知識を持ち、それらによって混沌状態を招けるかどうかだ。
日本近代文学最大のイノベーターの一人である正岡子規は「獺祭書屋主人」と自称している。また、子規は交友関係の幅広さでも知られている。豊富なコミュニケーションが彼のイノベーションに寄与している。イノベーション創出を促進するには、獺祭魚が欠かせない。これは、実際には、社会的環境の問題だ。多種多様なコミュニケーションがなくてはイノベーションは生まれない。トキワ荘を思い出せ!
〈了〉
参照文献
シュムペーター、『経済発展の理論〈上〉』、塩野谷祐一他訳,岩波文庫、1977年