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ブランド化の落とし穴(2013)

ブランド化の落とし穴
Saven Satow
Jul. 02, 2013

「政治家も初めから抽象画を描かない方がいい」。
佐藤栄作

 安倍晋三首相は、2013年7月1日、福島県を訪れ、広野町の農家を視察後、「地域のブランド野菜への取り組みを復興推進調整費を使ってモデルケースとして支援していきたい」と記者団に語っている。言うまでもなく、これは選挙目当てのバラマキの一つである。

 政治家はいわゆるブランド戦略を好む。マスメディアが華々しく取り上げてくれるし、予算も獲得しやすい。有権者にアピールできてなおかつ予算も確保できることもあり、政府は日本農業の復活策の一つとしてしばしば農産品のブランド化を挙げる。

 しかし、農産品のブランド化には落とし穴がある。確かに、ブランド化で成功した産地もある。魚沼産コシヒカリや前沢牛など全国的に知名度の高い産地ブランドもある。

 産地ブランドは、実は、消費者の求める品質保証ではない。生産者を識別するための商標である。標準化された階級や等級とは異なる。農産品の場合、農協や任意組合など出荷単位である特定地域の生産者組織が設定する。

 ブランド化の対象になるのは大半が集約型農業に属している。畜産や果樹、施設園芸などの狭い土地でも手間暇をかければ生産性が向上できる。しかし、農産品は動植物の増殖・生長の過程を利用している。そのため、品質や数量は人為的管理が困難である。

 理由は天候だけではない。農業は各生産者が独自の方法で従事しているため、技術水準のばらつきが大きい。また、消費者にしても、曜日や天気、イベントなどによって必要とする質・量が変わる。自分で包丁を握ればわかるが、料理は食材の組み合わせであるから、ヴァリエーションが多様で、ちょっとした変更によっても使う農産品が入れ替わる。

 イメージアップを狙い、自治体等がバックアップして組合はブランド化戦略を採用する。しかし、産地ブランドを地域振興の起爆剤と考えているとしたら、とらぬ狸の皮算用である。イメージは継続しなければダウンしてしまうからだ。

 ブランドを冠したら、その品質や数量を一定水準に維持しなければならない。しかし、人為的制御の難しさから、保つのが困難である。それはブランドの信頼性に関わる。他の地域の同じ農産物とどのように違うのかを直観的語句で曖昧に示すだけで、ブランド・イメージを守れるものではない。

 商品は実体以上に想像上の意味づけに大きな影響を受けている。だからこそ、企業は広告を行っている。逆に、イメージが崩れると、信頼を取り戻すのに苦心する。結局、それが叶わず、倒産に至ることも稀ではない。

 ブランド戦略は流通の再検討も必須である。質と量が不規則であるから、流通で弾力性を確保する必要がある。取引先を柔軟に変えることができるように、顔の広い卸売業者とゆるい取引契約を結ぶことが考えられる。ただ、ブランド産品には生産コストが余計にかかる。生産者は取引先の確保や取引条件の安定化、取引費用の削減から小売や加工業者との契約取引を望む場合もある。その際には、遵守範囲に弾力性を持たせるほかない。質や量の不規則さは、そうは言っても、取引業者にとっては頭が痛い。

 ブランド・イメージをつくろうとしても、品質や数量が変化するため、思惑に反して悪印象を消費者に残しかねない。その農産品の品質や数量に実質的な根拠があり、それを生産者と消費者が共有できていなければ、ブランド戦略は失敗に終わる危険性がある。
〈了〉

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