見出し画像

グッドモーニング,レボリューション(12)(2014)

12 ラジオの時代
 ラジオの放送が始まって、日本は八〇周年だけど、かれこれ一〇〇年近くになる。一九〇八年、リー・ド・フォレスト(Lee de Forest)がエッフェル塔からラジオ放送を行ってます。一九二〇年一一月二日、アメリカのピッツバーグで開局したウェスティングハウス・エレクトリック社のKDKAが世界初のラジオの実験放送をするんですね。それはウォーレン・G・ハーディング大統領の選挙結果の報告。トーマス・エジソンのライバルだったジョージによって創立された会社はラジオ受信機を売るために、放送を本格化させ、一九二二年に本放送を開始する。二〇年代には、交流の推進者の野望通り、アメリカを中心に、ラジオのブームが起きている。ラジオは、最先端のメディアであり、最もオシャレな小道具。今のテレビと同じように、お気に入りの番組をみんな持ってて、その時刻になると、ラジオの前にいて、それが次の日の話題にもなってます。アボット&コステロといったコメディアンを全米規模のスターにしたのもラジオ。ジャズはラジオと切り離せない。♪Da, da, da, di, do, de, do.そんなラジオは、一九三八年一〇月三〇日、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)によるH・G・ウェルズ(Herbert George Wells)の『宇宙戦争(The War of the Worlds)』の放送によってその影響力の大きさを見せつける。あのパニックはライバル番組の一割程度の聴取率しかない番組が引き起こしたもの。まあ、うちよりも、聴かれているでしょうけれど。こっちはミニミニ大作戦だから。ハーバート・ジョージよりもオーソンはeが多い分、その声は遠くまで大勢の人々に届く。E? Electrical echo.

 『宇宙戦争』事件はラジオの扇動性を示したとも言われますが、実際には違うと思いますね。あの番組は、ハロウィンの特番で、ラジオ・ドラマだと断っていて、最初から聞いておれば、まず誤解しようがない。でも、裏番組が圧倒的に強くて、残念ながら、最初から切聞いている人があまりいない。その人気番組で音楽の時間になった時、リスナーがザッピングを始める。なんか面白い番組ないかなと。ダイヤルを回していたら、たまたまオーソン・ウェルズの局にあったその瞬間、ちょうど火星人がアメリカを襲っている場面が聞こえてくるわけです。アナウンサー役の俳優が前の年の三七年五月に起きた飛行船のヒンデンブルク号爆発事故を伝えるハーブ・モリソンの涙の中継を真似してたから、聞いてる人たちも本当だとパニックに陥ってしまうんですね。時代も全体主義が伸長して、何か悪いことが起こるかもしれないって雰囲気もあって、冷静さを人々が失ったということだと思います。

 他には、歌手のケイト・スミス(Kate Smith9が、この人は1930年代からラジオ番組を持てて、人気が合ったんですが、第二次世界大戦が始まると、一八時間のマラソン放送をイェって、戦時国債を買いましょうと呼びかけてます。24時間テレビとか日本でありますが、実は、このフォーマットはラジオで、しかも古いんですね。

 ラジオのリアリティはいかにリアルな効果音をつくり出せるかにかかっている。オーソンの番組はうまくSEを挿入して、臨場感を高めています。日本でもQRの玉井和雄さんなんて名人もいる。ラジオの競馬中継のゲートの開く音と蹄の響きは、実は、SE。ゲートの位置は距離によって違うし、蹄の生音はすべて拾えない。ただし、こういうのは競馬の中継だけ。野球やサッカー、競艇なんかは集音マイクで拾った音を放送に流してますよ。

 二〇世紀の前半、ラジオは歴史的瞬間を伝えている。一九三七年五月六日、ヒンデンブルク号が突然炎上したのも、一九四一年一二月七日の早朝、日本海軍による真珠湾攻撃を全米に報道したのも、一九四五年八月一五日の正午、「堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ」と敗戦を日本国民に伝えたのも、ラジオ。シャルル・ド・ゴール将軍は、ラジオを通じて、第二次世界大戦中、ロンドンからレジスタンスを呼びかけ、アルジェリア独立戦争に際し、フランス軍兵士に軍事行動の自粛を促している。ラジオは政治的なメディアとして利用された歴史を持ってるんです。ナチス・ドイツは、一九三〇年代、ファシズムを宣伝し、東西冷戦下、両陣営共に仮想敵国の住民へ向けたプロパガンダを放送し──お互いにジャミングをかけあってっから、結局、何も聴こえないけど──、冷戦終結後の一九九四年、ルワンダの国営ラジオはフツ族虐殺を扇動している。戦争中に、航空機から放送を行い、敵兵に投降を促す声の爆弾なんてものもある。声のアタックです。「ジェットストリーム・アターック。今晩は。細川俊之です」も真っ青って感じ。

 一九五〇年代を舞台にした、つまり「郊外」ね、アメリカの小説では、ラジオが重要な小道具。持っているラジオがその家庭の経済状況を暗示させる。金持ちはピッカピッカのメタルな高級ラジオで、貧乏人はプラスチックの安物って感じ。今なら、何だろ?自動車?で、ジョン・チーヴァーの『巨大なラジオ』には、隣近所の夫婦喧嘩が聴こえてくるってラジオが描かれている。裕福で幸せそうに見ても、内実は…ね。日本でも、聖日出夫さんが『生徒ドンマイ』で、聖さんは受験ものを描かせるといいですな、未来を聴ける短波ラジオ──模試の問題がわかるって奴──を登場させている。これが日米の違いかな。アメリカは家族生活、日本は受験。そんで、スチュアート・ダイベックの『ペット・ミルク』には、シカゴに住む貧乏な祖母のラジオからギリシア語とか、スペイン語とウクライナ語かがかすかに混信してるって描写がある。ラジオは混信しつつも、共生してる。どこか開かれている世界だから、混信によって平衡に達し得ない。混信がラジオにおける非平衡性。

 五〇年代、ラジオから流れたきたこの曲が歴史を変えたと言っていいよね。説明は要らないでしょう。Elvis Presley “Heartbreak Hotel”!

Well, since my baby left me
Well, I found a new place to dwell
Well, it's down at the end of Lonely Street
At Heartbreak Hotel
Where I'll be--where I get so lonely, baby
Well, I'm so lonely
I get so lonely, I could die

Although it's always crowded
You still can find some room
For broken-hearted lovers
To cry there in the gloom
And be so, where they'll be so lonely, baby
Well, they're so lonely
They'll be so lonely, they could die

Well, the bellhop's tears keep flowin'
And the desk clerk's dressed in black
Well, they've been so long on Lonely Street
Well, they'll never, they'll never get back
And they'll be so, where they'll be so lonely, baby
Well, they're so lonely
They'll be so lonely, they could die

Well now, if your baby leaves you
And you have a sad tale to tell
Just take a walk down Lonely Street
To Heartbreak Hotel
And you will be, you will be, you will be lonely, baby
You'll be so lonely
You'll be so lonely, you could die

Well, though it's always crowded
You still can find some room
For broken-hearted lovers
To cry there in the gloom
And they'll be so, they'll be so lonely, baby
They'll be so lonely
They'll be so lonely, they could die.

 “Remember the King!”


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?