移転・新築は唯一の解決策なのか?

「神宮球場の大幅リニューアルが困難」とする週刊ベースボール記事について


「神宮球場の大幅リニューアルは困難」とする記事が、週刊ベースボールONLINEで2回に渡って配信されています。(2023/7/10, 9/9)
しかしその内容は、新球場計画の詳細にもその問題点にも触れることなく、球場の取り壊し・移転建替えを一方的に主張するもので、さまざまな議論を呼び起こしているこの問題の報道としては、バランスを欠いたものと言わざるを得ません。

以下に、この記事の問題点について述べます。



新球場計画の問題点にはまったく触れず

新球場計画については、これまで事業者サイトのイメージ図程度の情報しか公開されていません。記事の中で、神宮球場を運営する球場長が述べる「これからの100年」は、どこで検討されどんな内容なのか? それが示される前に、唐突にリニューアルは不可能という結論だけが先行することにまず違和感があります

署名「『野球の聖地』伝統ある、緑の神宮球場を守ろう」では、新球場に関する懸念事項として、以下の点を訴えてきました。
・超高層ビルに囲まれることによる環境悪化
・アマチュア野球の排除
・建築物としての価値の喪失
・銀杏並木枯損への影響
・工事による環境への悪影響

以上の点については、まったく触れられておらず、懸念は払しょくされないままです。

”工期が確保できない” というのは本当?

まず、オフシーズンは3か月半しかないため、工期が確保できないと、球場長は述べています。
しかし、2014年から3期にわたって行われた耐震補強工事では、シーズンオフの作業期間は毎年5カ月確保されていたはずです。2012年から現職であるという球場長が、それを知らないはずはありません。

神宮球場サイト過去記録より

例年11月に行われる明治神宮野球大会、ヤクルトファン感謝イベント等については、工事期間中は別会場で開催するといった柔軟な対応もできるはずです。その可能性について、なぜ語らないのでしょうか。
オフシーズンイベントの一時的な別会場開催について、ファンの理解は得られるのではないでしょうか。

”外周スペース用地不足” は解消できない?

現地リニューアルができない理由としてあげられている外周スペース不足については、第二球場跡地を活用できるのではという声が、これまでも寄せられてきました。その可能性について、どのように検討したのかも不明です。

また、”新たな機能の増設によって外周スペースがこれ以上狭くなると、雑踏事故の危険性があり、現場の問題点を解決できません。” と言いますが、新球場計画ではどうなっているでしょうか。
現在、事業者計画で球場併設の新たな施設として示されているのは、ホテル棟とショッピングモールです。現秩父宮ラグビー場の場所にこの施設を押し込むため、狭くなるのは外野席です。

安全性についての懸念

同時に、ここで触れられている安全性についても懸念があります。”外周スペースがこれ以上狭くなると、雑踏事故の危険性があり” と述べながら、再開発で新設される新球場と新ラグビー場をつなぐ歩道橋は幅員8mと狭く、「群衆津波」の危険性が指摘されていることについては無視されています。(イコモス要請 2023/3/6 参照

また、再開発計画では、長期にわたる工事期間中の避難場所の代替案が示されていないこと、神宮球場の避難場所として指示されている軟式野球グラウンドがなくなり、代わりとなる中央広場は面積が大幅縮小すること、球場は外苑前駅直結となりアクセスが集中すること、超高層ビルができれば昼間人口が大幅に増加することも相まって、安全性の懸念が多方面から指摘されています。

リニューアル改修不可の理由として安全性の問題を持ち出すのであれば、再開発計画全体の安全性についても検証されなければなりません。不可の口実としてのみ取り上げるのは、移転・建て替えありきの偏った内容と言わざるを得ません。

移転・新築が唯一の解決策なのか?

記事の中で、リニューアル改修不可の理由としてあげている「甲子園球場と神宮球場の条件の違い」については、上記で述べてきた点のほか、他球場の事例も参考にすべきではないでしょうか。
立地が公営公園という楽天モバイルパーク、横浜スタジアムも、さまざまな制約の中で改修を続けています。神宮球場のみリニューアル改修は不可で
「隣地での建て替えが、唯一の選択肢」と言い切る前に、さまざまな意見を取り入れ、検討すべきです。

建築の専門家に、移転・新築ではなく改修で神宮球場の課題を解決できないのかを取材した以下の記事も、ぜひご参照ください。


新球場計画はいったん白紙に

記事では、「安全と快適を提供」するために「隣地での建替えが、唯一の選択肢」という事業者の主張に沿った論のみを紹介しています。しかし、ここで提示されている「唯一の選択肢」は、安全性も快適性も無視された新球場計画であることは繰り返し指摘してきた通りです。

一度壊したものは元には戻せません。これからも取り壊し・移転を前提とした新球場計画の撤回を求めていきます。


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