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5年前 <17>

退院後初めての通院。渡部先生の外来はいつも混雑している。まずはレントゲン撮影をしたけれど予約時間を2時間以上過ぎてから診察室に呼ばれた。
「こんにちは。その後いかがですか?」
「身体はそこそこ元気なんですけれど、やっぱり食事が出来ないことで少ししんどいし、歯磨き出来ないから気持ち悪いです」
「そうですよねぇ。あともう少し辛抱なさって下さい。次、こちらにいらっしゃる時……来週ですけど、ボルトを外します。そうなるとお粥ですとか軟らかめのお食事なら出来ますからね。こちらでボルトを抜いた後は矯正歯科にそのまま行って頂いて、矯正装置にゴムを掛けるフックを取り付けてもらう流れです。今日にでも奥山先生(矯正歯科の先生)にお電話して予約して下さい」
ボルトを埋め込んだところや縫ったところから出血してどうやら少し膿んでるみたいだと訴えると、口が開かないように固定してあるゴムを少し外して診てくれた。
「そうですね、少し膿んでますね。とにかくマメにイソジンで消毒して下さい。それしか現状、出来ないんですよね。気持ち悪いでしょうし、お辛いでしょうけれど。あ、レントゲンご覧下さい。順調ですよ」
ゴムを付け替えてもらってから特殊なカメラで顔面の写真を何枚か撮って終了。
「ありがとうございました」
「お気を付けてお帰り下さい。まだまだ寒いですし、お住まい、ちょっと遠いですよね。フラフラしてホームに落ちたりしたらそれこそ大変ですから」

来週には少しマシな食事が出来る。嬉しい。歯磨きも出来る。嬉しい。
矯正歯科に早速予約の電話を入れる。
「手術お疲れさまでした。渡部先生からお話し伺っています。来週火曜の午後ですね、お待ちしています」

ボルトを抜く小手術はそこそこ痛いと経験者のブログで読んだっけ。ゼリー状の麻酔を塗ってからグイグイとペンチみたいな器具で抜くんだってさ。用心のためにロキソニンを飲んでから臨んだって人もいた。私はどうだろう?これまでに顎変形症の治療関連で痛い、嫌だって感じたのは
1.自己血採血←ダントツで嫌だった
2.矯正装置を入れる前の処置で小さいゴムを歯間に何個か挟む
3.矯正装置が唇や頬っぺたの内側に食い込む
これだけだったんだよねぇ。
手術経験者が口々に語っていた術後の痛み、苦しさはマジでなかった。ボルトを抜く手術くらい、きっと耐えられるさ!

ジェットウォッシャーでの口内洗浄は相変わらず痛かったけれど、口をゆすぐと溶ける糸が吐きだした水に雑じるようになった。濃い紫色なんだね、糸……。口が開かないので縫った部分を目視出来ないから知らんかった。まだ重湯とスープとエンシュアリキッドだけの食生活だけど、回復してるんだなぁと実感出来て本当に嬉しい。やっぱり、目に見える変化ってのは嬉しいものだよ。

麻痺はまだ続いている。麻痺が残るかどうかってのは人によっては半年以上経っても分からないらしい。顔を剃刀で剃るとゾワゾワして気持ちが悪いし、唇の端っこは感覚がない。口から下~顎は入院中と同じく、皮膚の下で炭酸がはじけたような感覚。

顔は手術直後よりマシだけど、めちゃ腫れていてアンパンマンみたいだし、やや細めの体型なのに二重あごなんて嫌だ。これもいつ治るのかなぁ。麻痺が残るより嫌だ。麻痺は見た目じゃ分からないけれど、腫れは……。麻痺も困るけどね、ダラダラと食事をこぼしたりするなら人と食事するのは躊躇ってしまう。

手術をして後悔している人も結構いるらしい。後戻りといって骨や歯が手術前の位置に戻ってしまったり、顔面が見て分かるほどに引きつってしまったり。治療ブログの中には術後の経過途中で更新されていないものもいくつかあるのはどうしてだろう。

手術は魔法じゃない、って言葉は痛いほど分かる。メリットとデメリットがあるのを承知の上で手術を受けたけれど、出来れば最小限のデメリットがいいに決まってる。受けたことを後悔する羽目になったらどうしよう。ま、受けて良かったと言っている人も沢山いるしね。それになによりもう、私は手術しちゃったんだから。

来週、無事にボルトが抜けて少しだけマシな食事が取れますようにーーまずそこからだ。治療終了まであとどれだけかかるか分からないけど。

ああ、お菓子が食べたい!ヌガーモンテリマールが食べたい!