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酔いどれ雑記 110 明かりの灯る部屋

私は長いこと、旅行中は明かりをつけたままじゃないと眠ることが出来なかったーーいや違う、それより前、一人暮らしをしていた頃もそうだった。何故だかはよく分からない、けれども何となく不安で、というのが一番近いだろうか。明かりをつけたまま眠るのは心身ともによくないそうだが、そんなことは気にもしていなかった。

旅行が好きな友人知人たちに、旅先で眠るときって明かりを消す?となんとなく訊いてみた。すると一同不思議そうな顔をして「え、消さないの?」。

遠い国でゆきずりで同衾した。シーツを目深にかぶったけれどもテレビはついたまま、明かりもそのまま。「ねぇ、テレビ消さないでいいの?」と小声で訊いた。「静かだと眠れないんだ」と答える彼をいとおしく感じてたまらなかった。遠い国で、お互いの母語じゃない言葉を介して知った共通点。彼は黙って起き上がり微笑んで明かりを消して、それから私はテレビを消した。しばらくすると寝息がきこえてきた。今宵はよく眠れるような気がする。