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フリーのミュージシャンとお客さんの距離・マナーについて

先日、音楽活動を応援してくれているお客さんからtwitterの中のダイレクトメッセージがきていた。4月から活動をお休みしていてライブ予約などのやりとりもなかったので、お客さんからメッセージが来るのは久しぶりのことだったが、DMを開ける前、その内容にしばらく心を大きくかき乱されることになるとはその時の私は知るよしもなかった。


そのお客さんは以前からライブによく来てくれたり、会場や通販で音源や配信の投げ銭を買ってくれたり、あらゆる形で応援してくださり、その度に律儀にちょっとしたコメントメッセージを付け加えてくる方だった。その内容もライブや曲の感想だったり特に変なものではなく、純粋に応援してくれているのだなと思っていたし、私の音楽を好きでいてくれてよく差し入れもしてくれる良識があるファンの方という印象だった。

現在その方とのやりとりの履歴を私が全削除してしまったので、もうそれを見ることができず若干ニュアンスが違うかもしれないが、大体こんな内容だった。

「最近は恋愛や婚活をしているのかな、頑張れ〜と応援していますよ。 

それで、どう?奢るから、一回ご飯に行かない?話聞くよ〜?」


これを見た時、一瞬意味がわからず数秒間固まった。「音楽活動を応援してくれているお客さん」であるその人と、このメッセージの内容が私の中ですぐには繋がらなかったのだ。

この文章を見て「なんだ別に普通じゃん」と思った方もいるかもしれない。しかし、この文章を何度も読み直してその内容やそれをわざわざDMで送ってきた意図を考えるにつれ、私は吐き気に似た気持ち悪さや、激しい怒りや悲しみなど、あらゆるものが入り混じった負の感情が一気に襲ってきた。


とりあえずお世話になってたお客さんなので返答はしようと思い、「お客さんとライブ以外でお会いすることはしていませんので、すみません」という内容だけ一度送ったのだが、それを送った後もそのDMの内容やそれを送る意図や自分の音楽活動を通してその方とそれまでやりとりしてきた背景などについて考えてしまい、ぐちゃぐちゃになった感情を整理して伝えなければいけないと思った。

精一杯感情を抑えたつもりだが「このような内容をDMで送られるのは正直不快です。DMは音楽活動のやりとりだけで使用しています。関係ない内容は控えてください、お願いいたします」という趣旨を再び送信した。その後一言だけそのお客さんからの謝罪の返答があり、終わった。その後すぐ、もうこのやりとりを二度と見返したくないと言う気持ちが強くなり、その方とのDMの全履歴を削除した。


まず、私がこのメッセージを見て最初に込み上げてきたのは「気持ち悪い」と言う感情だ。これは、このメッセージが正しい・正しくないとか、倫理的にどうだとかいうこと以前に「生理的に無理だ」と思った。

まず整理したいのが、この方は中年の男性で(確か奥さんがいて家庭を持っている方だったと思う)、見た目が特段に嫌とか今まで応援してくださった時のやりとりで違和感を感じていたことはなかったのだが、あくまで音楽活動を応援してくれているお客さんであり、私のような弱小の規模ではあるが「ミュージシャン」と「ファン」と言う関係性なのである。

つまり、この方にお会いするのはライブ会場だったり配信だったりの「自分が音楽をしている場所」、この方とのやりとりは「自分の音楽活動に関すること」、と言う当たり前の前提が敷かれていて、私は他のお客さんとのやりとりもこの前提条件が守られているからこそ、安心して活動できている。


ところが今回のこのメッセージはまず「恋活・婚活してるのかな」から始まり、かいつまんで言えば「会って話を聞いてやるよ」と言う内容だ。まず音楽活動とかその方の容姿とか印象とか以前に、何十歳も年が離れた男性に「恋活してるのかな」みたいなワードが唐突に送られてきた時の気味悪さを、もう少しその方には自覚して欲しかった。

私はフェミニストでもないし女性蔑視とか女性関連のそういった考えに全く疎い方ではあるのだが、自分がいざそのような発言を向けられてみると、流石にめちゃくちゃ気持ち悪いと思ったし自分の奥底から強い拒否反応が出た。

思い返すと、私はその少し前にtwitterに恋愛に関するツイートをしていて、恋愛は難しいな〜みたいな内容のことを呟いていた。音楽活動の名前でやっているアカウントであるが、私はtwitterはプライベートなことも感情も関係なくつぶやいてしまう方なので、それ以前もそんなことを呟いたりすることは何度もあったし、お客さんもいいねだけしたり良識の範囲でリプをしてくださったりすることはあった。

加えてその時は表立った音楽活動も休んでいる時だったので、twitterで呟くときはそういったプライベートに関することの割合が高くなっていたのも事実だ。そういった自分の恋愛関連のツイートやライブでの発言を解釈したことを、その方はわざわざDMしてきたのかもしれない。

そして、このような背景を思い返した上で沸々と怒りや悲しみが湧き上がってきた。上述の気持ち悪いと言う感情の上に生まれたこの気持ちについては、この「直接会おう」と言う発言はフリーで音楽活動をしている人間に純粋なお客さんが一番言ってはいけない「タブー」だと私は思っている。

「会いに行けるアイドル」みたいな言葉も生まれて久しいが、その前提としてミュージシャンやアイドル、その他のエンタメを生業としている人たちは、ライブに来てもらったり、イベントにきてもらったり、「活動してる人が主催や出演している場所にファンはお金を払ってくる」と言うことでミュージシャンたちはお金をもらったりして活動や生活することができている。

「ファンと会う場所=活動の場である」と言うことが、規模は違えどミュージシャンのミュージシャンたるプライドでもあるのではないかと、思っている。

それが私たちのような事務所に所属していない「フリーのミュージシャン」またインディーズの小さな事務所のミュージシャンだったりすると、こういった前提がぼやけて正直曖昧になっていたりもする。

配信をするときは自宅からただお喋りするだけだったり(音楽活動のことに限らずプライベートの内容とか)、ライブに友達を呼んでそのまま一緒に飲んで帰ったり、ライブに来た歳の近いファンができてそのまま友達になったり。

またお客さんが主催してイベントを開いているケースも今まで何度かあり、そのときはその出演者たちとイベンターであるお客さんが食事をすることもあった。またお客さんがミュージシャンの方で一緒にコラボしたり、仕事をしたりするケースも稀にある。そう言ったケースで様々な人脈が生まれたり助かったりしたことも事実なので、お客さんとライブ外での交流を全くしていないというわけではなかった。


そして私はミュージシャンとして、「お客さんの人間性」に関して言えばとても恵まれている方だと思っている。確かに何年も活動していてちょっと厄介なお客さんがいたことは一度や二度ではなく、活動初期の頃の若かった頃は特にそう言った人が目立って見えた。

今回の件で思い出したのは、直接会おうというお客さんからDMが来たことが実は以前にも一度あった。まだ活動を始めたばかりでライブに来てくれるお客さんも少なかった頃、よく来てくれる常連のお客さんができたのだが、その方から

「恵比寿のレストランで覆面捜査の依頼が来たんです。一人で行くと怪しまれるので一緒に行かない?」

と言うDMがきて、シカトしたか断ったか忘れたが、それをきっかけにそのお客さんは来なくなったことがある。今思えばその方は毎回ライブで酔っ払ってライブの感想もなく、単に若めの女子と話したいだけでライブに来ている典型的SWおじさんだったな〜と思うので、単純に自分の実力不足が引き寄せていたんだと思うし、今でも笑い話である。

そう言う変な人も若い頃にはよく遭遇していたが、だんだんライブ経験や実力もついてきたし、本当に自分の音楽を評価してくれてきてくれるお客さんが増えてきた。そしてSNSやライブでも思ったことはどんどん言っていくキャラ(自称)を確立してからは、それによってお客さんをふるいにかけていたのか、変なお客さんは淘汰されていき、そもそも全く寄り付かなくなった。私の悪いところでもあるが、お客さんと変なやりとりがあればこのようにtwitterやブログみたいなもので書いてしまう性格なので、それでその方とは離れていくことが多い。ただ、今は応援してくれる人も当初よりはたくさん増えたので、そう言った一人のマナーのない人を追いかける必要がなくなったとも言える。


こうして振り返ると、私のようなフリーのミュージシャンは自分で活動の全てをやっている方も多く、お客さんとのトラブルもないわけではないのだが、自分自身の活動や発信によって自分の周りの治安を保って自分を守っていくしかないのだな、と思う。

今回のこの件のお客さんは本当によく応援してくれていたし、自分の音楽をちゃんと評価してくれていた方だったと思うので、正直こんな状態になってしまったのは残念ではあるのだが、私自身としてはその上でこのような内容をわざわざDMで送られてくると言うのは、自分の音楽活動や自分自身が「舐められている」と感じてしまった。

もっと価値のある人間であれば直接会おうなんて気軽に言ってこないのではないか、自分が身近な手の届くような軽い人間だと思われたからこう言うことを言われるのではないか、と言う自己嫌悪もすごく感じた。
確かにライブ会場でお客さんにお酒を奢ってもらって乾杯したり、ライブ会場でライブ前後に普通にご飯をもりもり食べてたり、ライブや配信やtwitterでプライベートや仕事の愚痴を言ったり、そう思われても仕方がないようなことは十分してきているのだが、

「音楽のお客さんとは音楽の場で会う」と言うことだけは私のミュージシャンとしてのプライドでもあるのだと、今回の件で感じた。


今回のことに関して言えば心が狭くて申し訳ないのだが、一度嫌悪感を持ってしまうとそれがゼロになることは難しかったりもする。それだけフリーのミュージシャンにとってお客さんとの距離感を守ると言うことは、自分の身や音楽を守ることでもあると言うことを、少し理解してもらえるとありがたい。

終始偉そうで申し訳ないし、できるだけ感情的にならないよう少し落ち着いた今になって書いたつもりではあるが、この機会にフリーの活動をする上で大事だと思ったお客さんとの距離感について書かせていただきました。

今後も、音楽のお客さんには音楽の場だけで評価し、認めていただけるよう、私自身も精進していきたいなと思います。本当にいいお客さんばかりでいつも助けられています。ありがとう。これからもよろしくお願いいたします!



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