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心因性頻尿になった話

 だいたい2年くらい前から、心因性頻尿を患っている。色々と試行錯誤を繰り返して悩んだ挙句、先日初めて3時間トイレに行かずに過ごすことができたので、それを記念してどういう経緯で症状が進行していったか、どういう工夫をしたか記録しておきたい。
 もちろん症状が違う人ももっと重い人もいるだろうし、克服にあたって医師の直接な治療は受けていないのであくまでケース1として見てほしい。また、一般的に恥ずかしいものとされており、排尿のコントロールは自分の意志でできるもののとされることも多い中で、そうではないこともあるということを、これを読んで知っていただければと思う。

1,はじまり

 2021年年明け後の冬、夜寝る前にやたらトイレに行きたくなることに気がついた。トイレに行くが、布団に戻ってきてさあ寝ようと思ってもまた尿意がある。もともと寝つきはあまりよくないほうだったが、尿意のせいでさらに眠りにくくなってしまった。キリがないので「知らん、もう漏らしてもいいから寝る!」と開き直って眠りについていた。それでも最初のうちは毎日ではなかったし、日中はなんともなかったので、そういう日もあるか、くらいの気持ちでいた。

2,気づき

 日中の活動にまで支障が現れはじめたのは2022年の6月くらいからだったと思う。ちょうど立て続けに試験を受けることがあり、3時間くらい座っていなければならないことが多かった。試験はかなり難しく、かなり緊張するものだった。
 試験中、突然強い尿意に襲われた。最初は我慢しようと思ったが、今すぐ行かなければ間に合わないかもしれないくらいであった。やむを得ず試験監督に申し出てトイレに駆け込んだが、戻ってきて続きの問題を解こうと思っても強い尿意が収まっていない。水を飲みすぎたからかなと思ってもう一度トイレに立っても、尿の量が少ない。とてつもない恐怖と恥ずかしさに襲われ、一体自分はどうなってしまったのだろうと個室で泣いた。焦り、震え、脂汗を流しながら自分の胸を撫で、大丈夫と言い聞かせた。しかしそれでも収まってくれなかった。
 何度か同じくらいのボリュームの試験を受けたが、そのたびに同じような状態になり、試験を受けるのが恐ろしくなっていった。トイレに行くための時間を確保するために異様に早いスピードで問題を解くようになってしまい、試験の結果も思わしくなかった。

 痛みなどはなく、ただただひどい頻尿だった。しかしもともと病院嫌いでもあり、症状にも波があったため、何かの病気だろうと思いながらも、気のせいと思い込むようにした。そこから半年はどこの病院も受診しなかった。生活には、色々なところで支障が出ていた。
 ふと不安になると、勝手に体に力が入り、瞬時にあの強い尿意が襲ってくる。外出しようとして、トイレは行き先にあるだろうかと心配になると、到着するまで車の中でずっともじもじしていなければならない。排尿につなげる連想ゲームがとても得意になった。それを阻止し、他のことに気を逸らすことが必要だったが、それも難しかった。
 趣味だった映画鑑賞やドライブ、山散歩はまともにできなくなっていた。生活上しなければならない電車通学や大学の講義、講演会などにも心配がつきまとうようになって、とうとう受診をしなければならないと思うようになった。

3,受診、そして診断

 最初は泌尿器科に行った。痛みや異常な尿量の増加などはなかったので心因性頻尿だろうとは思っていたが、念のため診察を受けた。
 尿検査をし、エコーで膀胱を見、触診で腫脹がないか確認した。予想通りどこにも異常は認められなかったので、ストレスを緩和する漢方薬と、一応ということで過活動膀胱の薬を処方された。
 もともと漢方薬は好きではないし、効いているかどうかいまいちわからない感じがしたので早々に勝手にやめ、過活動膀胱の薬のほうは飲むとやたらと喉が渇くようになり、結果として普段よりたくさん水を飲み、トイレの回数も増えてしまうように感じたのでやめてしまった。

 しばらくは受診前のつらい生活をつづけた。2023年の1月から3月までは毎日外に出なければいけない用事もなかったので、外出先で困ることも少なかった。
 2023年の4月になり、大学院に進学し、また毎日大学に通うようになったら支障が大きく出始めた。90分の授業中、トイレに行きたくなっては我慢し、授業よりもその我慢で疲れ果てる毎日だった。ちょうどそのころ抑鬱っぽい症状も出始めたため、とうとう心療内科の受診を決意した。

 心療内科では心因性頻尿との診断書を書いてもらい、不安時に服用する頓服の薬と、毎日飲む薬を処方してもらった。医師からは、根本的に治療するには精神分析を受けるといいが、自分にはできないので緊張を和らげるという方向でいこうと言われた。精神分析をやっているところも調べたが、評判が驚くほど悪いところしかなかったので断念した。
 たしかに頓服を服用すると気持ちが落ち着き、なんとなく体全体の力が抜け、頻尿には効いている気がした。なにより、「薬で抑えているのだから大丈夫だ」という意識を持てるのが一番よかった。頓服なので毎日服用するわけにはいかなかったが、授業の前や映画を観る前、初めての場所に行く前などに服用した。

 2023年8月か9月に定期的な通院を卒業し、抑鬱の方もだいたいよくなったように思えた。そして2024年1月現在、まだ不安は残っているがほぼ寛解といっていい状態まで回復した。

4,いくつかの気づきと工夫

①水分補給の量について

 これが一番難しかった。水分を摂りすぎると当然頻尿はひどくなるし、かといって水分を控えるのもよくなかった。水分を意図して控える=トイレのことを気にしているという等式が成立し、喉の渇きを感じるたびに尿意までもよおしてしまうことにつながる。
 いまだ試行錯誤の途中だが、通常より水分補給の量は減った気がする。2023年の夏も、(異常に暑かったからというのもあると思うが)例年より頻繁に熱中症になった。朝食時に水分を摂りすぎると一日のコンディションが悪くなると気づいてから、今でも朝はコップ1杯までにしている。

②みんなに伝えることの重要性

 家族には症状について話していたが、一緒に遊ぶ友人に症状のことを話した方がよかった。私は恥ずかしさからふんわりとしか伝えておらず、こんなに詳細に症状について話すのはここが初めてかもしれない。周りの人が知ってくれていているという安心感は、トイレに頻繁に行くということのハードルを下げる。どう思われているか気になりにくくなる。

③骨盤に気をつかう

 外科的・内科的になんの異常もないとはいえ、心因性のもの以外の頻尿にならないようによいコンディションに整えておくことは重要だろう。
骨盤がゆがんだり周辺の筋肉が衰えたりすると器質由来の頻尿になりやすいと聞き、姿勢をよくしたり鍛えたりしている。「頻尿 対策 筋トレ」などと調べて出てきたものを参考に行った。

④ストレス管理

 全ての心因性の病気に言えることだと思うが、余計なストレスをためない工夫は必須だった。私の場合は自分を頻尿にまでさせたストレッサーがなんだったかのかわかっていない。そのため自分の心全般に気をつけていた。私は特に効果的な休息をとることがとても下手だったので、睡眠やリラックスの方法を試行錯誤した。
 今のところ、毎日ちがったBGMを入眠に使うことで寝つきはだいたい改善され、一人で蝋燭を焚いて火をみつめることや湯舟にゆっくり浸かることでリラックスを図っている。力を抜く時間ができたことも、改善に役立ったと思う。

5,おわりに

 心因性頻尿はその苦しみが人に理解されにくく、治ったかどうかの判断もしにくい病気だ。改善されたかと思えばまたひどくなる、そんなのの繰り返しでずいぶんつらい思いをした。私よりはるかに長い期間苦しんでいる人もいる。いつまでも、100%治ったかといわれれば正直自信がないだろう。

 ドラマや映画で、急いで車に乗って出かけるシーンや出陣、戦場、手術のシーン、長尺で会話が行われているシーンなどを見ると「オイオイ、トイレに行きたくなったらどうすんだ」と思ってしまう。これは心因性のみならず頻尿の人あるあるかもしれない。

 どうか自分の周りの人のトイレの回数を気にしないでほしい。トイレ行き過ぎじゃない?と言うのもよくない。気合いで我慢できるものと捉えるのもやめてほしい。行きたいと言えば何も言わず待っていてほしい。

 今後は、海外旅行を計画できるくらいまで回復したい。

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