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全国自然博物館の旅【28】石川県立自然史資料館

生物好きにとって、石川県の生物相はとても魅力的に感じられます。奥深く広がる森林、麗しい砂丘地帯、清廉な淡水環境、さらにはダイオウイカの現れる豊かな日本海まであります。
石川県の大地は、あらゆる生き物のマニアの心を刺激する一大フィールド。ぜひとも、多様で魅力的な生態系を理解したいところです。この度は、県内の自然科学の重要基地である自然史資料館を訪れ、謎と魅力でいっぱいの石川県の生命と環境を学んできました。


大自然への好奇心を駆り立てる魅惑の資料館

スタートはJR金沢駅です。東京から北陸新幹線でまったりと来ました。金沢駅の駅舎、駅周辺の街並みはとってもきれいです。ここからレンタカーやバスを利用して、自然史資料館へと向かいましょう。

北陸新幹線に乗って、金沢駅に到着。伝統と先進が融合した雰囲気が漂っています。
来館の前後で街歩きするのもオススメです。目的地の資料館は同じ金沢市内にありますので、市街地の観光を楽しむ時間も十分作れます。

市の中心部から車で20~30分ほど走ると、北陸大学の太陽が丘キャンパスが見えてきます。自然史資料館は大学から近いので、1つの目印になると思います。車を運転している方はそのまま直行、バスをご利用の方は最寄りのバス停(「北陸大学太陽が丘」または「銚子口」)で降りてから徒歩10分ほどで到着します。

北陸大学が近くにあるので、市街地と往来するバスの本数も多いです。公共交通機関を使って来館するのも大いにありだと思います。
銚子町は静かで自然豊かな町です。季節によっては、資料館観覧の後、近辺で生き物探索ができそうです。

資料館の建屋はまさに公共の学術基地といった感じで、生物マニアの方にはとても趣深く見えると思います。多様な自然環境を有する石川県の生態系、本館にて存分に学びたいと思います。

石川県立自然史資料館に到着。いかにも資料館、といった雰囲気がマニアにはたまりません!

広がる海・山・森! 石川県の壮大な自然環境を知る

クラーケンが現れる神秘の大自然

入館すると、さっそくエントランスで数々の生物標本が出迎えてくれます。
まず誰もが一目惚れするのが、勇壮なイヌワシの剥製標本。かなり精悍な個体であり、かっこよく翼を広げた姿に見とれてしまいます。他にも、大型動物の標本が立ち並んでおり、とても壮観な空間となっています。

超絶かっこいいイヌワシの剥製標本。翼を広げると幅2 mにも達し、石川県の森の上空を悠然と飛行します。
一般の方より寄贈されたオオシャコガイ。大型個体では重量200 kgを超えることもあり、確実に世界最大の貝類です。
エントランスホールに佇む動物の骨格。旧制第四高等学校(現在の金沢大学)にて、明治時代から教育用に使われていた標本です。
標本となったのは、アジアゾウとウマです。アジアゾウの骨格標本は現在では入手できないので、とても貴重です

多様な環境を有する石川の大自然。生物マニアの皆さんは、どういった虫たちが棲んでいるのか気になっておられると思います。
地方博物館の醍醐味の1つ、地域に生息する昆虫標本の展示。さらに豪華なことに、虫たちの隣には、植物の乾燥標本の展示コーナーが併設されています。1点1点が大切に作られた標本資料ですので、ゆっくりと美しい虫たちの姿を味わいましょう。

立ち並ぶドイツ箱。昆虫標本展示の王道スタイル、大好きです。
日本最大のガガンボことミカドガガンボ。一般的なガガンボよりも数倍大きく感じられます。
昆虫標本の隣には、植物の乾燥標本が展示されています。とても美しく作成されていて素晴らしいと思います。
オドリコソウの標本。植物体を丸ごと使い、葉や根を見やすく広げることが標本作りのポイントです。

動植物の標本を堪能したら、エントランスホールの隣の階段を上がって2階へと向かいます。そこには、本館が世界に誇る素晴らしい生物標本が座しています。それはなんと、日本最大級のダイオウイカの液浸標本です!
能登半島にて回収された大型個体であり、胴体の長さは4.2 m(触腕の長さは推定10 mクラス)に達します。おまけに保存状態は素晴らしく良好であり、体内には内蔵や卵までも残されていました

本館のダイオウイカにまつわる展示は極めて濃厚であり、お目にかかる標本も驚異的で貴重なものがいっぱい。その威容は、まさに伝説のクラーケンです。謎のベールに包まれた深海の巨大イカの神秘、そして最先端の研究成果に触れてみましょう!

2階の展示コーナー。とっても貴重な大海のクラーケンと出会えます。
国内最大級のダイオウイカの液浸標本。奇跡のごとく良好な保存状態であり、極めて貴重なサンプルです。
回収時のダイオウイカの写真。南方から対馬暖流に乗ってやってきた個体であると思われます。
ダイオウイカの口器の液浸標本。鋭いクチバシのような形状となっており、力強く獲物を噛み砕きます。
顕微鏡で撮影されたダイオウイカの卵の写真。長さは1~2 mmほどです。
実物の卵もルーペで観察できます。なお、ダイオウイカの内蔵も展示されていますが、苦手な方もいらっしゃるかもしれませんので、本記事には載せません。ぜひ、現地で驚異のサンプルをご覧ください。

2階では体験展示として、様々な動植物の標本にタッチできます。ふさふさのイノシシ、すべすべのアルマジロ、カチカチのヤシガニに触れて、個々の生物の質感を感じてみてください。触覚を通して、生き物たちの特徴を学べると思います。

剥製などの標本が立ち並ぶ体験展示コーナー。激しく引っ張らず、優しくタッチするのがルールです。
2匹のエゾリス。ジオラマ風の展示ができるのも剥製の強みです。
ココノオビアルマジロの剥製。よーくなでなでして、普通の哺乳類の表皮とは異なる装甲の質感を感じてみてください。
超硬い外骨格を備えるヤシガニ。その丈夫なボディにタッチすれば、彼らの強さが伝わってくると思います。
大きなヤシの実にもタッチ可能。これほど頑強な種子を実らせるとはすごいですね。

奇跡の生態系を学ぶ展示学習空間

石川県の自然環境は多様性に富んでおり、一言では表せません。海にも山にも森にもユニークかつ壮大な生態系が構築されており、県内の大自然を理解するためには、それぞれの環境の濃密な学習が必要です。
奇跡の大自然を知るための学術情報は、本館1階の「自然たんけん広場」で得られます。生き物好きな子供たちはもちろん、筋金入りのマニアでも熱中して見入ってしまうほどの学びがいっぱいの展示室です。まさに、石川県が有する生命の楽園への窓と言えます。

1階展示室「自然たんけん広場」。ここでは、すさまじい量の情報が得られます。
広い室内には工夫がたくさん。数々の標本や濃密なキャプションに加え、映像展示もあります。
天井には鳥たちの実物大パネルが設置されています。イヌワシの桁違いの大きさに圧倒されます。

本展示室では、大胆に壁2面にたくさんのキャプションパネルや標本スペースを配しています。各ブロックごとに明瞭で濃密な解説をしてくれているので、知識を体系的に消化しやすくなっています。
本当に石川県の自然環境はバラエティに富んでいるため、まずは水域から見ていきましょう。石川県の海洋も淡水域も、不思議で魅力的な世界です。そこには絶滅危惧種に懸命に生きているため、彼らについて本館でしっかりと学びたいと思います。

壁面に立ち並ぶのは、キャプションパネルと標本の展示スペース。石川県各地の自然環境を深く学べます。
解説パネルがたくさんあって、膨大な知見を脳にインプットできます。能登半島の海には海草アマモの群生地があり、多くの海洋生物の生息場所となっています。
キャプションと合わせた海水魚の稚魚の液浸標本の展示。彼らはまだまだ小さな子供であり、アマモ場で身を隠しながら生活しています。
とっても貴重なサンショウウオの液浸標本。ホクリクサンショウウオもアベサンショウウオも限られた地域にしか棲んでいないため、里山環境の保全が必要と考えられています。
ゲンゴロウ類の標本。サンショウウオと並んで希少な淡水生物であり、能登半島の溜池が重要な生息地となっています

次は地上の生き物たちに目を向けてみましょう。たくさんの昆虫・動植物標本を拝めるうえに、解説もかなり詳細なところまで述べてくれています。見れば見るほど、どんどん石川県の自然フィールドへ飛び込みたくなります。

水辺のスナイパーことカワセミの標本。かつて石川県では魚釣りの毛針が作られており、カワセミの羽が材料として使われていました。
かっこよさ抜群のトンボたち。里山に生息するアキアカネは、水田などの人工水域に産卵することもあります。
砂浜に棲む小型甲虫イカリモンハンミョウ。かなり希少な昆虫であり、本州では石川県にしか生息していません
イソコモリグモの液浸標本。砂浜に生える植物の側に穴を掘って暮らす珍しいクモです。
自然林に自生するスギは、日本海側と太平洋側でタイプが異なります。日本海側に生えるのがウラスギ(写真左)、太平洋側に生えるのがオモテスギ(写真右)です。

言わずもがな、石川県は北陸地方の1県であり、比較的寒冷な地域です。しかし、太古の石川県は丸っきり逆で、なんと暑い熱帯地方でした。
その事実を雄弁に語ってくれるのは化石たちです。加賀市では熱帯地方にしか生息していない生物化石が産出しており、当時の環境を読み解く重要な手がかりとなっています。大昔の石川県が東南アジアのように暑い世界だったという事実は、とても不思議に思えますね。

古環境学に関する解説パネル。熱帯地方に棲む貝類の化石が見つかったということは、太古の北陸地方が熱帯環境だった証なのです。
石川県で発見された新生代の貝類化石。マングローブに棲む貝もいれば、大型のカキ類もいます。
エゾタマガイの化石に開けられた謎の穴。実は、これは他の貝類に襲われた跡です。殻に穴を開けられて、中身を食べられてしまったのです。
貝類の他にも、様々な海洋生物の化石が見つかっています。ウニ類の体(写真中央・写真左)に加え、アシカの骨(写真右)も出土しています。
こちらは中生代の地層より出土した植物化石。針葉樹ラインマキ(写真下)は、ドイツ人科学者のライン博士にちなんで名づけられました。

石川県の自然は本当に壮大であり、まだまだ学習の楽しみは続きます。室内には、動物の骨格や剥製などの大型標本をはじめ、興味深い展示が盛りだくさん。ミステリアスで愛らしい生き物たちの秘密を探っていきましょう。

渡り鳥の剥製標本。石川県の海の沖合には、渡り鳥の中継地点となる島が存在しており、約350種類もの鳥たちが訪れています。
海鳥カンムリウミスズメの成鳥・ヒナ・卵の標本。石川県の七ツ島は、日本海における本種の生息北限地です。
石川県に漂着することのあるカイダコの殻。タコの仲間ですが、メスだけが薄い殻を備えています。
石川県の海辺の町には、ふぐ提灯を作る風習がありました。ハリセンボンの提灯を軒下に吊るしておくと、魔除けになると信じられていたそうです。
スイレンの仲間オニバスの葉の標本。石川県では1969年に絶滅していますが、もしかすると休眠卵が発芽して復活するかもしれません

自然環境と生き物の秘密を肌で理解するために、本展示室には体験展示が豊富に設けられています。実際に標本に触ったり、顕微鏡でミクロスケールの構造を覗いてみたり、様々な感覚を通じて理解できるように工夫されています。
子供から大人まで、誰もがわかりやすく学べるギミック満載の展示。楽しい学びの時間に浸ってください。

ギミック満載の特殊展示。口の形のパネルを動かして、生き物の餌の食べ方を肌で学ぶことができます。実物標本と合わせて展示されているので、とても理解しやすいと思います。
顕微鏡にて、小さな生き物たちのサンプルを観察できます。ミクロの視点の重要性を改めて気づかせてくれます。
顕微鏡で観察できるサンプル。微小なダニの体やハリアリの毒針など、たくさん拡大してみて楽しみましょう。
美しい動物たちの骨格標本。この中にも、体験展示が含まれています。
なんと動物の頭骨にタッチが可能(優しく触りましょう)。かつてこの骨には肉がつき、命が宿っていたことを感じてください。

施設全体の展示を振り返り、幸せな時間を過ごせたことを実感しました。心から楽しいと思える素晴らしい学習施設です。
本館での学習により、石川県の自然に魅せられたので、今度はぜひともフィールドに繰り出してみたいと思います。自然林・里山・能登の海に息づく生命との出会い、考えるだけでワクワクしてきますね!

石川県立自然史資料館 総合レビュー

所在地:石川県金沢市銚子町リ441

強み:国内最大級のダイオウイカの液浸標本及び研究成果の展示、石川県の自然環境を網羅的に解説する膨大な学術情報量、写真・イラストを多用した解説展示や各種体験展示など五感で学べる創意工夫

アクセス面:市街地から少し離れた場所にあるので、オススメは車です。レンタカーや自家用車があれば、本館観覧後の探究心MAXの状態で野外フィールドへ直行できます(笑)。なお、公共交通機関を使用してもスムーズに移動できます。JR金沢駅前から北陸鉄道バスに乗り、「北陸大学太陽が丘」もしくは「銚子口」バス停にて下車すれば、徒歩10分ほどで資料館に到着します。大学が近いということもあり、路線バスは多く通っています。きちんと発車時刻を確認し、のんびりと資料館で学びましょう。

石川県の自然を深く理解できる学術施設。素晴らしい学習ができるうえに、基本的に年末年始以外ずっと開館・入館料無料という超嬉しいスタイルを取ってくれています。とても多くの学術知識を無償で来館者に与えてくれるので、コスパ最強の自然史資料館と言えます。
本館で得られる学術情報はとても多く、石川県固有の自然環境を詳しく学んでいくうちに、多種の生き物についての知識が大幅にアップグレードされます。古環境から現代までの生物相と生態系の体系的な解説に加え、県内の代表的な自然環境に関する展示がものすごく充実しています。そして、国内最大級にして最高レベルの保存状態を誇るダイオウイカの液浸標本がありますので、目玉展示のインパクトも特筆レベルです。
貴重な動植物の標本をたくさんお目にかかれますので、生物好きの人ほど強く惹かれる博物館です。不思議な生き物たちの展示に興味を持ったら、そのまま石川県の自然環境に魅了されるはずです。県の自然史資料館は、人々を地域自然の世界へ誘う扉であると改めて感じました。

本館は「ダイオウイカハンター団」という生態研究チームを擁しています。ダイオウイカの発見報告が多い北陸地方の海、今後の研究発展に期待ですね。

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