ABC座星劇場2023 A.B.C-Zは伝説になったのか
それはあまりに突然の報せだった。
最初で最後のEPが発売されても気持ちの整理なんてつく目処もないまま、12月はやってきてしまった。
きっと答はステージの上にしかない。
時間はいつか全てを解決してしまう。
だから全てを帝国劇場に持っていこうと思った。「ありがとう」を、「大好き」を、「ごめんね」を、「悲しい」を、「寂しい」を、「分からない」を。
あの日から癒えずに掻き毟り続けた傷もこのまま痛み続ければいいと思った。もうそれだけが蒙昧な私と5人を繋ぐ最後の絆にさえ感じた。
ABC座星劇場2023 5 Stars Live Hours
去年一昨年と帝国劇場で上演した彼らの代名詞とも言える演目は、もう二度と陽の目を見ることはなくなった。その「青春」は、「原点」は、第1幕のラストシーンのように儚く煌めきながら消え去ってしまった。
後に五関くんが語ったところによれば、今回はそもそもABC座を上演できるのかというところから二転三転していたという。当然のことだ。
塚田くんの休養、事務所の混乱、そして河合くんの脱退。
全てを共に受け止め帝国劇場という最高峰の舞台に5人を立たせてもらえたこと、東宝さんには感謝以外の言葉がない。
それでもやはり上演決定が急すぎたのか、今年のABC座はライブ形式であることが雑誌のインタビューなどで漏れ聞こえるようになり、グッズでペンライトが発売されるとの報せまでもが飛び込んできた。
私は旧事務所帝劇公演のパイオニアたる堂本光一さんのおたくでもあるので、正直暗澹たる気持ちになった夜もあった。光一さんがどれだけ事務所をファンを馬鹿にされながら闘い続けあの舞台を作ってきたか、少しは知っているつもりだったから。
全く前向きにはなれないまま迎えた初日。
帝国劇場のグッズ売り場で購入したペンライトは花束の形をしていた。舞台の客席で振るにはあまりに大きなペンライト。今までと同じ順番で5色+ファンの白と全色が当たり前のように優しく灯るペンライト。
彼らは卒業公演をやろうとしている。
実感したのはこの時だった。
宝塚や女子アイドルを推したことはないから卒業公演と呼ばれるものがどんなものなのかは分からなかった。でも5人はこの奇跡のような機会を「さよなら」に捧げるのだと突き付けられた気がした。
Act.A
内容はこれまで2幕でやっていたような事務所メドレーをノンストップで繰り広げるAct.Aと正真正銘A.B.C-ZのショータイムであるAct.Zの二部構成。
Act.Aは5star(装置)を使ったざえびで幕を開け、5人でハットを投げるSecret Agent Manにアニメ主題歌みたいな塚五のRUNに最強シンメ曲として歌い継がれる欲望のレインを歌うふみとつや錦織さんが乗り移ったような戸塚くんのソロ、河合くん以外の4人でのパフォーマンス、最後の「オリジナルストーリー」まで本当に息吐く暇もなかったけれど、やっぱりどうしても特別に聞こえたのはSMAPのSTAYだった。
今目の前にある別れ。
それぞれの道に進んだ大先輩。
5,60年という「それだけ」がどれだけの奇跡なのか、私たちは痛いほど知っている。
それでも彼らは祈ることをやめない。
生傷を抱えた私たちにはあまりにも残酷な響きが劇場を満たすのを呆けたように見つめることしか出来なかったけれど、彼らが私たちに伝えたかったのは「この先も道は続く」というメッセージだったのだと思う。
そしてそれぞれのグループが、彼ら一人ひとりが受け継ぐ「遺伝子」が紡ぐ大小さまざまなオリジナルストーリーはまさに続いてく伝説で、それを伝え続けることにはきっと意味がある。2023年という年を生きた私たちに5人が手渡してくれた勇気は、眩いほどに輝いていた。
Act.Z
第二幕となるAct.Zは5色の星に腰掛ける5人の「雪が降る」から始まる。この夏コンサートで会えなかった悲しみを消し去るように、今という時間を大切に抱き締めるように。そこからはもういつも通りのコンサートで、マッシュアップやら2階含む客降りやらペンラ芸やらシルエットvanillaに闇堕ちした5stageみたいな新装置(正式名称不明)まで何でもありの濃縮還元A.B.C-Zみたいなライブだった。
花言葉の「幸せになろう」で紫一色になるところも5人最後のステージなのに此処に居るって誓っちゃうS.J.Gも五関くん渾身のfragranceも全部全部大好きなA.B.C-Zで、だからこそ悲しくて寂しくて本当に心がどうにかなってしまいそうで、でもそんな涙も受け止めた5人が日に日にもっと優しく美しく変わっていって。
中でも河合くんのソロ曲「君の優しさvs僕の愛情」の演出は衝撃的だった。
10周年のベスト盤に収録されたこの曲は河合くんがファンに向けたラブソングとしてつんくさんに書いていただいたものだった。私は河合くんとおよめさんたちの相思相愛ぶりが大好きだったからABCXYZでの演出もとても微笑ましく見ていて、今回もイントロが聴こえたときには「河合くんは最後までおよめさんたちに愛を歌うんだなあ」と感じたのだけど、違和感を覚えたのは誰も居ない場所をスポットライトが照らした時だった。
スポットライトはステージ上の4箇所を照らし、サビのタイミングでセンターに立つ河合くんの周りに集まった。次の瞬間、4つの光の筋は赤、青、ピンク、黄色に染まる。
信じられなかった。考えるより先に涙が溢れていた。このラブソングを彼が最後に捧げたのは、かけがえのない4人のメンバーだった。最初に見た時は気付かなかったけれど後ろのモニターでは4人の星座が輝いていて、解釈を間違える余地は残されていなかった。
そして楽曲の終盤、これまでのABC座に出演した河合くんの映像が流れる。そのラストカットは初代が解散を決めるときに着ていた鮮やかなピンク色の衣装だった。
あまりにも綺麗な幕切れ。
これが河合郁人という誰より芯の通ったアイドルの誠意なのだと思った。
また出会える日まで
1人ずつの挨拶を終え、5人が5人で最後に届けてくれたのは「また出会える日まで」。
まるでこの日が来ることが分かっていたような、前向きさの中に寂しさが滲む別れの歌。大きな五つの階段が5色に光ったりひとつになって大きな星を形作ったり、間奏で河合くんとメンバーがひとりずつ一緒に踊ったり(五関くんとのシンクロ具合に毎回泣いた)、あまりにも寂しくて美しいパフォーマンスは5人の選んだ答そのものだった。
それでも伝わってきたのはやはり5人の旅路がこれからも未来に続いていくこと。一度最終回を迎えても、また歩き出すことができること。ショーはまだ続いていくということ。
彼らが私たちにこのことを伝える為に、一度きりのさよならをする為に、劇場に立ち続けてくれたこと。1番寂しいのは自分たちなのに、客席の涙を受け止め拭い続けてくれたこと。これが愛でなければ何だったのでしょう。
A.B.C-Zは伝説になったのか
ABC座2023は5人の軌跡をなぞりつつも決してそれを懐古する為のステージではなかったと思う。河合くんが新しい道を選ぶようにA.B.C-Zも新しい道で旅を続けていく。劇場で、コンサート会場で、これからも自分たちだけのストーリーを紡ぎ、未来へと繋げていく。
堪えた涙も置いてきた夢も、形を変えいつか誰かに届く日がくるかもしれない。たとえ遠く離れても、それぞれのステージで輝くことはA.B.C-Zの帯びた使命ですらある。
五つ星が夜空に描く果てない夢はきっとこれからも誰かを照らし優しく寄り添い勇気を与える。少なくとも私はそう在ってくれることを祈りたいと強く思った。
だからまだ、伝説になるには早すぎる。
この先に待つ第二章の夜明けが、暖かく鮮やかに輝きますように。この12月に受け取った愛を、どこまでも優しい彼らに返すことができますように。
ありがとう、これまでのA.B.C-Z
よろしくね、これからのA.B.C-Z