日本航空123便墜落事故

 もうあの凄惨な事故から35年が経つのかと思うと時の流れの早さを感じる。
 だが、遺族の方々にとってみたらいつまでもあの時のまま止まっているのかもしれない。

 あれは、私が小学校6年生の夏の夕方に起きた。
 どこのテレビ局かは忘れたが、突如、チャイムと共に白文字で「羽田空港を離陸した東京発大阪行きの日航機、レーダーから機影が消える」というニュース速報だった様に記憶している。(もしかしたら文言が違うのかもしれない)
 風呂上がりの母にニュース速報で旅客機が消息不明らしいと話した記憶がある。
 子供ながらにレーダーから機影が消えたということは墜落したのではないかと思ったのが、率直な感想だった。

 すべての番組が特番に切り替わり、長野県の私の聞いたことのない村に墜ちたことをテレビのアナウンサーが何度も繰り返していた。

 翌朝になり、墜落地点は群馬県の御巣鷹山の尾根だと報じ始め、昼前には山肌をえぐるように墜落した機体の残骸が広がる空撮映像をニュースで見たように記憶している。

 親が買ってきた写真週刊誌(FRIDAY)の写真には見るも無惨な焼死体の数々が写っていた。思い出せばあの頃の写真週刊誌は他誌よりもより過激でリアルなものという報道合戦を繰り広げていたということは、歳を取った後で知るのだが、あの写真がモノクロームであったことに安堵する。
 
 あの頃も嘆き悲しむ遺族に対してマスコミの容赦ない「お気持ち」取材が苛烈だった。突然の事故で、大切な人の身元さえ判らないくらいに遺体の損傷が激しく、真夏の事故ということもあり腐敗も著しかったのだろうと今なら想像できる。
 そんな遺体の数々から、自らの大切な人を探すのだから心理的に参ってしまう中、遺体安置所から出てくると記者に揉みくちゃにされる。
 あんな報道、必要なのかといつもながら憤りを覚えると共に苦々しく感じる。

 ボーイング747SRジャンボジェット機、(機体番号JA8119)乗員乗客524人というデータは、インターネットで検索しなくても私の脳裏に焼き付いている。

 後に判ることではあるが、機体が反転し旅客機の屋根を下にして、時速500km/h以上のスピードで山肌に激突するという想像を絶する事故であったにも関わらず、奇跡的に4人の女性が助かった。

 生存者の証言によると、墜落直後はまだ多数の人の生存を感じさせる呻き声などが上がっていたが、それも次第に聞こえなくなったそうである。

 生存者の中に私と同い年の女の子もいた。家族をすべて失い、自身も傷ついている最中、収容された群馬県高崎市の病院の周りには多くの報道陣が詰めかけ、その姿を納めようと超望遠レンズで狙っているような光景も記憶している。

 そっとしておいて欲しい彼女の「私は聖子ちゃんじゃない」という叫びも悲痛だった。

 それから10年ほど経った我が国のインターネット黎明期、ボイスレコーダーの音声ファイルが公開されていたことがある。(公式のものではないと思われる)

 コックピット内でクルー達が最期まで望を捨てず「ダッチロール」と呼ばれる制御不能の状態でジャンボジェット機と格闘し、「航空事故調査委員会」(当時)(現在は「運輸安全委員会」)の調査報告書のボイスレコーダーの文字おこしでは公式に認められていないが、機長の「もーダメだ」とも聞き取れる絶叫の後に、激しい激突音で終わるその記録は、何度聴いても涙があふれ出て止まらない。

 この事故には不明な点も多く、陰謀説の様なものが出て映画化もされたようである。しかし、それは事実には基づかないものであって、実際あの事故で判ったことは、フェールセーフを施し簡単には墜ちないといわれたボーイング747であっても、重要部が破壊されれば制御不能になり墜落する。
 油圧などが上手く働かず、補助動力装置で飛行できるのは30分程度ということなのだろうと思う。

 日本航空の96.5%の社員が日航123便事故後の入社の社員で占められるそうだ。(※)事故を風化させないということが課題という報道を見た。これは、他の社会を揺るがすような大事故、中央線東中野駅列車追突事故、信楽高原鐵道列車正面衝突事故、関東鉄道常総線列車衝突事故、営団日比谷線中目黒駅構内列車脱線事故、東海道線救急隊員死傷事故、JR福知山線脱線事故、羽越線特急脱線転覆事故、中央自動車道笹子トンネル天上板落下事故など(事例の選出に当たっては筆者の主観が多分に入っていることをお許しください)数多の事故にも共通していることだと思います。

 事故を風化させず、いかに事故を未然に防ぐか。人間は失敗する生き物であって、完璧はないからだ。1つの事故には300のヒヤッとする出来事があるという(ハインリッヒの法則)そういう些細な出来事でも、見逃さない、気を緩めないという姿勢と間違いを起こさせにくい仕組みづくり、絶え間ない見直しを丹念にコツコツと行うことで、大きな事故をなくしていけたらと思う限りです。(これは私の仕事にも共通すること)

<事故報告書など>

運輸安全委員会
日本航空123便の御巣鷹山墜落事故に係る航空事故調査報告書についての解説
日本航空123便の御巣鷹山墜落事故調査報告書
https://www.mlit.go.jp/jtsb/kaisetsu/nikkou123.html

(いつのまにか解説書が追加されています。事故報告書をすでにご覧になっている方も新たな発見があるかもしれません)


NHK 首都圏 NEWS WEB
事故35年 羽田で社員ら黙とう