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出町柳〜淀屋橋を一晩中歩いて考えた

物事との向き合い方をこだわって考える方だと思う。


7月8日、3週間ほど前に人生で初めてトレランのレースを走ってきた。40kmのコースを5時間50分で頑張って走ってきた。
その日までにトレーニングした結果を出し切ることができてとても充実した気持ちになれたのだが、あまりにもスポーツすぎるなと感じてしまった。「スポーツすぎる」違和感とはなんだろうか。



山を登る時、人間社会の枠組みの外側に出ていきたいと強く思っている。舗装のない道で、誰もいない場所で、野垂れ死んでも見つけ出されないところで、自分の生を実感する。
でも人間の社会化パワーはとても強いので、登山道を整備し、遭難しないようにGPS発信機を開発し、登山道具を大量生産して売りさばく。登山業界の重鎮みたいなのも現れてくる。
生きることも死ぬことも本来自分の裁量で決められるはずだし、どこまでリスクを取るかは自分で決めていいはずだ。

社会の枠組みの外側に行くことは時代が進むうちにどんどん難しくなってくる。
服部文祥のサバイバル登山が自分の興奮するやり方に相当近しいと思うんだけれど、服部がサバイバル登山について書いてそれを自分が読んでしまった時点で、サバイバル登山がノウハウ化されて僅かにスポーツとしての色彩を帯びてしまう。

もうひとつわかりやすい例をあげると、自転車のキャノンボールがある。
東京〜大阪の国道一号550kmを24時間以内に自転車で走破するというチャレンジだ。
初めてこれを知った時、人間にこれができるのか!とびっくりしたし、心が震えた。いつかやり遂げたいと思った。新幹線で移動する距離を人力で行くなんて、クレイジーだ。
しかし、キャノンボールが有名になるにつれて達成へのノウハウが蓄積されて、未知の部分は失われた。キャノンボール ルートで検索すると分かるだろうが、無駄のないルートが比較検討されて、かつてキャノンボールに僕が感じたクレイジーさは失われてしまった。

そういうことをつらつらと考えながら京阪の出町柳から淀屋橋まで一晩中歩いていた。54kmの距離を、ずっとひとりで月を見ながら歩く。河川敷には誰もいなくて、虫の鳴く声だけがうるさかった。

なんで徹夜でひたすら歩き続けているのか。
 2週間ほど大学の期末試験の勉強でほとんど運動をしていなかった。
快適な冷房の効いた空間で、ipadに向かって黙々と手を動かす。大学に行って座って授業を聞いて、要点をまとめて、試験を受ける。
全くもって快適で、どうしようもなく退屈な日々だった。薄ぼんやりとした繭に包まれて自分の中の野生が鈍麻していく音が聞こえるようだった。
試験が終わったタイミングで自分の体に負荷をかけ、研ぎ澄まされた精神を取り戻さないといけなかった。同行者をtwitterで募集したが、1人も集まらなかったので一人で歩いた。

この先自分はどうなっていくんだろうなあといつも思う。どうやって自分の中の野生と社会との距離感を取っていくのかは大きなテーマだ。
就活で丸の内を歩いた時に、ここにいては狂ってしまうと本気で思った。せめて道路の脇に排泄物のひとつでも落ちていたら僕の心は安らぐけれど、あの街には不確定要素がなくて、どこまでも快適だった。

ひたすらに淀屋橋に向かって歩くいていると、徐々に足に激痛が走るようになった。
トレランシューズを温存して安いランニングシューズで歩いたせいで、マメが沢山出来ていた。マメが潰れる痛みを感じながら1歩ずつ踏みしめて歩く。
残り10kmで足の痛みは最大になり、筋肉痛とマメと関節が主張しだすので、道端に寝転がって仮眠した。
ここで辞めても誰からも怒られないし、なんの問題もないのに、それでも歩き続ける。
自分の立てた目標に向かって、自分一人の力で、ゆっくりと歩き続ける時に、行動の純度が高まって行くのを感じる。
たとえば通りすがりの富豪が「淀屋橋まで行けたら1万円あげよう」と言ってきてそれを受諾した瞬間に目的が不純になり、歩く行為は面白みを不可逆に失う。

痛くて、辛くて、しんどくて、心の底から楽しいなあと思っているうちにようやく淀屋橋に着いた。淀屋橋は丸の内にも似たキレイな高層ビルが立ち並ぶ街だ。月曜の朝、慌ただしく歩くサラリーマンに紛れてボロボロの自分がいる。やってやったぜ、という気持ちになって、自分が街の「想定外」になっていることが嬉しかった。

ということで京阪にのり、一瞬で出町柳について僕の一晩の旅は終わった。

ディズニーランドのアトラクションで、シーシャ屋で、金沢21世紀美術館で、大阪のネモフィラ畑で、大学の構内で、自分の求める心からの面白みは得られないことが分かってきてしまった。それならせめて自分なりの興奮を純粋に追い求めて、その様子を面白がって見てもらえると嬉しいなと思う。
ではまた。


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