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5月にはシロアリ

 5月3日から何度かシロアリの羽アリが発生した。蒸し暑い日の日中、あるいは午後、浴室とその周辺に沸いてきた。一匹一匹は小さくて弱くて、すぐに死んでしまう。ガムテープでペタペタつかまえた。つかまえてもつかまえても、魔法のように沸き出てくる。無から生じるのかと錯覚するほど。
 でも刺すわけでも噛むわけでもないし、怖れるようなサイズでもない。ならば、なぜこんなに怖いのだろう。おぞましく感じるのだろう。
 少しでも彼らのことを知りたくて、数冊の本を読んでみた。

『アナタの住まいは大丈夫⁈   これで安心!シロアリ対策』
神谷忠弘/著 エクスナレッジ
 タイトルから住居におけるシロアリ対策の本だと思って読んだが、もっと広く深いものだった。シロアリの生態や種ごとの特性、住まいの在り方など細かく書かれていて興味深く読んだ。
 とくにヤマトシロアリの兵蟻は、敵が攻めてくると一匹で通路に踏ん張り戦うというのがおもしろかった。ここは俺にまかせろ、と少年マンガのような想像をしてしまう。一匹じゃ負けることはわかっているけれど、仲間を逃すために立ち向かう。
 それからシロアリ対策に予防などはないということもわかった。発生したら、そのシロアリを駆除するだけ。忌避剤などもそれほど意味がないらしく、シロアリが来るときは来るし、来ないときは来ないのだろう。様々な生き物が家屋にいるのが当たり前だということに深く納得した。家や床下をビオトープとする考えを大切にしたい。
 実際のシロアリ駆除でわかったのだけど、私が住んでいる家(賃貸、一軒家)は床下が区切られていて、中にもぐって確認できない構造だった。業者の人は見当をつけて穴を開け、薬を注入するという方法で駆除した。床下にもぐって確認することの大切さは、本の中で再三書かれていた。もし家を建てる機会があったら、床下はコンクリートじゃなくて地面で、全体を目視できるようにしたい。建てることなんてないだろうけれど。

『シロアリ -女王様、その手がありましたか!』
岩波科学ライブラリー202
松浦健二/著 岩波書店
さらに詳しくシロアリの生態を知りたければこの本を読むしかない。シロアリ社会の仕組みには驚かされる。例えば、病死した個体がいると感染しないようにしっかり埋葬すること。自分でグルーミングができないので、互いにグルーミングしあう必要があり、単体では生きられないこと。永遠の命を持つ女王アリのこと。
 またシロアリの卵に擬態するカビもあり、その戦略もすごいなぁと感心した。
 ヤマトシロアリの研究は難しいらしく、たぶんこの本が一番詳しいのだと思う。先に紹介した『アナタの住まいは大丈夫⁈ これで安心!シロアリ対策』でも松浦さんの研究結果が紹介されていた。
 松浦さんたちは野生のヤマトシロアリの巣から女王アリや王様アリを捕まえてくる。研究のためにはたくさんのシロアリが必要だけど、捕まえてくるにはやっぱり熟練の技がいる。もしオリンピックの種目にあったら金メダルだ、というのがおもしろかった。そもそもスポーツでもないだろうに。
 シロアリの生き方を知って感心もしたし親しみももてるようになった。だけどやっぱり、家の中に出てくるとおぞましく感じてしまう。自然の中で出会ったなら違うだろうに、そこが少し残念。

『虫ぎらいはなおるかな?』
金井真紀/著 理論社
 タイトルの通り、虫が苦手な著者がさまざまな専門家の話を聞き、虫嫌いを克服しようとする内容。
この本の中でツノゼミを知り、とても興味を持った。こんなおもしろい虫、見てみたい。
 それから虫に対する気持ちは恐怖ではなく嫌悪ということもわかった。恐怖は命に関わることに感じるもの。日本では恐怖と嫌悪が混同されやすいらしい。私も虫に出会ってゾッとしたら「恐怖ではなくて嫌悪」と唱えたい。
 また、虫は距離を詰めてくるから嫌悪感を抱きやすいという点も納得。確かにほかの動物ならパッと離れる距離でも、おかまいなしにこちらに向かってくる。サイズ感が違いすぎるせいだろうか。

 ほかに『きらわれ虫の真実』(谷本 雄治、コハラ アキコ/著 太郎次郎社エディタス)、『家の中のすごい生きもの図鑑』(久留飛克明、村林タカノブ/著、山と渓谷社)、『きらいになれない害虫図鑑』(有吉立/著、幻冬舎)なども、身近な虫のことが知れるのでおすすめ。知らないものは怖いから、少しでも知ると怖さが薄れる。名前を知るだけでも。
 まったく関係ないのだけど毎年楽しみにしている小林朋道先生の〈先生〉シリーズのタイトルが『先生、シロアリが空に向かってトンネルを作っています!』だった。思わぬリンクに驚いた。さらに、ちょうど読んでいた『死体にもカバーを』というミステリでも、主人公のアパートでシロアリが発生する。なんという偶然。狙ってないし望んでもいないけれど、この5月は現実でも本でもシロアリ三昧だった。

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